最終章:聖女と王子の結婚式
朝の光が宮殿の大理石の床に反射し、庭園からは花の香りと鳥のさえずりが漂っていた。今日は、ミサとレオンハルトの結婚式。宮殿は華やかな装飾で彩られ、参列者たちの期待で空気が緊張と喜びに満ちている。
ミサは、純白のウェディングドレスに身を包んでいた。柔らかなシルクの生地が光を受けて淡く輝き、胸元には繊細なレースが施されている。腰から流れる長いスカートは軽やかに広がり、歩くたびに優雅な波を描いた。背中には小さなリボンが結ばれ、肩には透明なチュールがかかり、まるで天使の羽のように柔らかい光をまとっている。黒髪はゆるやかなカールにまとめられ、額を少し覆う前髪が愛らしい表情を引き立てる。
「……緊張するな」
レオンハルトがミサの手を握りながら囁く。赤い瞳が優しく彼女を見つめ、黒髪が光に揺れる。
「はい……でも、レオンハルト様がいるから大丈夫です」
ミサは頬を赤くしながら微笑む。その白銀の光に包まれた姿は、まさに聖女そのものだった。
式場には、護衛のイザベルとエリナも正装で参列。イザベルはミサ様と呼びながらそっと微笑み、エリナも嬉しそうにうなずいた。さらに、かつての国からやってきた民たちも、聖女の結婚を祝福するために集まっている。
参列者たちの視線が二人に注がれる中、司祭が誓いの言葉を読み上げる。
「あなた方は互いを愛し、尊敬し、支え合うことを誓いますか?」
「はい……誓います」
ミサは小さな声で、しかし確かな意思を込めて答え、レオンハルトは微笑みながら彼女を見つめる。
誓いのキス。唇が触れ合う瞬間、二人の間にこれまでの苦難も、追放された過去も、すべてが溶けて甘い幸福に変わる。胸に手をあて、心が震える感覚――二人だけの世界がそこに広がっていた。
「ミサ……俺と結婚してくれてありがとう」
「レオンハルト様……私を選んでくれて、ありがとうございます」
互いの手を握り合い、心の奥底まで通じ合う。
式の後、庭園では参列者たちと共に祝宴が開かれる。子どもたちも駆け回り、ミサは自然に笑顔を見せる。護衛たちも安心した表情で彼女を見守り、レオンハルトはその姿を誇らしげに眺める。
その夜、二人は宮殿の高い塔のバルコニーから、満天の星空を見上げた。
「これからも、ずっと一緒だな」
「はい……ずっと、レオンハルト様と」
星の光に包まれながら、二人の心は完全にひとつになった。聖女としての力も、王子としての愛も、すべてがこの瞬間に結実したのだ。
ヴァルディア王国は、新たな時代の幕開けを迎え、聖女と王子の幸福が国中に広がる――そして二人の未来には、希望と愛に満ちた日々が待っていた。
結婚式の夜が明け、朝日が宮殿の窓から柔らかく差し込む。白いカーテンが揺れ、微かな鳥のさえずりが聞こえる。
ベッドの中で目を覚ましたミサは、隣でまだ眠るレオンハルトの顔を見つめた。黒髪が光に反射し、赤い瞳が少し眠そうに揺れている。自然と胸が高鳴り、思わず手を伸ばすと、レオンハルトも目を開けて微笑む。
「おはよう、ミサ……」
「おはようございます、レオンハルト様……」
二人の距離が自然に近づき、唇が軽く触れ合う。柔らかく、優しいキス。互いの鼓動が伝わり、思わず笑みが零れる。
「……ずっと、こうしていたい」
「はい、私も……ずっと、レオンハルト様と」
朝の光に包まれた二人は、静かに、そして甘く互いの存在を確かめ合う。宮殿の外では、新たな一日が始まっているが、二人の世界には、愛と幸福しかなかった。
その後、朝食の準備の音が聞こえ、二人は手をつなぎながらゆっくりと起き上がった。今日もまた、笑顔に満ちた日が始まる――聖女と王子の愛が、これからも永遠に続くことを約束するように。