29章:婚約の朝
朝の光が柔らかく差し込む客室。目を覚ましたミサは隣にいるレオンハルトを見て、自然に微笑んだ。黒髪に赤い瞳――彼の全てが、今の自分にとって安心で、そして心から愛おしい存在だった。
「おはよう、ミサ」
低く、少し眠そうな声で囁かれる。ミサの頬は瞬く間に赤く染まる。
「おはようございます、レオンハルト様……」
まだ寝ぼけた声で返しつつ、ミサはそっと手を伸ばす。すると彼の手が自分の手に絡み、優しく握られた。指先に伝わる温もりに、胸が甘く高鳴る。
「俺たち、もう正式に婚約者だろ。だからこれからは、俺がずっとお前を守る番だ」
そう言ってレオンハルトは体を引き寄せる。抱き合う体温が、二人の間に甘く流れ込む。
「どうして俺を選んだ?」
その質問に、ミサは少し驚き、唇を噛む。
「……えっと……レオンハルト様は、私のことを、ありのまま見てくれるからです……」
「ありのまま?」
「はい……見た目も、過去も、すべて……何も隠さなくても、否定されなくて……ただ、優しくしてくれるから……」
ミサの声は小さく、けれども真っ直ぐに彼に届く。
レオンハルトはその言葉を聞いて、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「そうか……俺は、ただお前を守りたかったんだ。お前が安心して笑ってくれるなら、それで十分だ」
ミサは目を閉じて頷き、レオンハルトの胸に体を預ける。唇が軽く触れ、そして少しずつ深く重なる。甘く柔らかなキスに、ミサは体を委ね、抱きしめ返す。
朝の光に包まれながら、聖女と王子――正式に婚約した二人の愛が深まる。これまでの試練や苦労が、今、この幸福に変わったことを二人は静かに実感するのだった。