第二十四章 気づく想い
午前の柔らかな光に包まれた城の庭園。木々の間を通る風が葉を揺らし、小鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。ミサは護衛のイザベルに見守られながら、久しぶりに外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
庭園の小道を歩きながら、ミサは花や木々を眺め、心を少しずつ解きほぐしていく。石畳に反射する光、葉の隙間から差し込む日差し、柔らかく香る花の匂い――すべてが心地よく、彼女の緊張を和らげてくれた。
一歩後ろを歩くイザベルは、危険がなければ常に控えめに立ち、静かに見守る。時折視線を合わせ、微かに頷くことで安心感を伝える。
庭園のベンチに座り、しばし景色に見入るミサ。すると、少し足元の段差につまずきそうになった瞬間、誰かの手がさっと差し伸べられた。
「大丈夫か?」
赤い瞳が真剣に彼女を見つめる。振り返ると、レオンハルトだった。ミサは咄嗟に頬を赤らめ、うなずいた。
「はい、ありがとうございます」
手を軽く握り返すことはなく、二人は再び歩き始める。レオンハルトの視線は自然とミサに向き、胸の奥で何かがざわつく。守るだけではなく、そばにいたい、笑顔を見続けたい――それが彼の心の中で静かに芽生えていた。
「庭園は気に入ったか?」
歩きながら彼がぽつりと尋ねると、ミサは笑顔で答えた。
「はい、とても穏やかで落ち着きました」
その言葉を聞き、レオンハルトは胸がじんわりと温かくなるのを感じる。言葉少なでも互いの距離は自然と縮まっている。
散策を終え、二人は城へ戻る。石造りの廊下を進むと、夕日の光が窓から差し込み、互いの影を長く伸ばす。ミサの微かな香りや仕草、柔らかい笑顔が、彼の胸を強く打つ。
途中、再び小さな段差につまずきそうになったミサを、レオンハルトはすっと支えた。
「気をつけろ」
短く低い声。彼女は感謝の微笑みを向ける。
「はい、レオンハルト様」
護衛たちは少し距離を置き、静かに二人を見守る。イザベルも危険がなければ後ろに下がり、静かに安心を与える存在として立つ。
城門をくぐり、石造りの廊下を進みながら、レオンハルトは心の中で決意を新たにする。
――守るだけでは物足りない。そばにいたい。笑顔を見続けたい。
その思いはまだ口には出せないが、確かに彼の胸の奥で芽生えた感情――恋心――は、静かに、しかし確実に大きくなっていた。