表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

第二十二章 街の交流と小さな奇跡

 城での訓練を終えた後、ミサは今日も城下町を歩くことになった。朝の光が石畳に反射し、街は穏やかに目覚めていた。レオンハルトは少し前を歩き、赤い瞳で周囲を警戒しながらも、穏やかな表情を見せる。その背中に、ミサは自然に安心感を覚えた。


 「今日は街の人たちと、もう少し触れ合ってみよう」

 レオンハルトが軽く提案する。ミサは小さく頷き、少し緊張しながらも楽しみな気持ちを胸に抱いた。


 護衛のイザベルとカイルは、ミサの一歩後ろを歩きつつ、周囲の安全を確認している。イザベルは金髪で切れ長の瞳を持つ女性騎士。普段は冷静だが、危険が迫ると素早く前に出る。カイルは短髪で精悍な青年で、状況判断に長けている。二人ともミサをまだ完全には信用していないが、今日は信頼してそっと見守るようだ。


 広場に差し掛かると、子どもたちが石けりをして遊んでいた。蹴った石が通行人に当たりそうになり、ミサはとっさに手をかざす。柔らかな光が石を止め、子どもたちは目を丸くした。周囲の大人も驚きつつ、「何て力だ…」と小さな声で呟く。ミサは少し顔を赤らめながら、光を消した。


 「大丈夫か?」

 レオンハルトの低い声が耳に届く。振り向くと、赤い瞳が自分を見つめていて、胸が熱くなる。護衛たちも近くで安全を確認し、自然な形で街の混雑を整理してくれた。


 その後も、小さな奇跡が続く。迷子の子どもを導いたり、屋台の荷物を支えたりと、街の人々の目には不思議な光景として映る。ミサ自身も、自分の力が自然に出て人を助けられることに少しずつ慣れてきた。


 昼近く、レオンハルトが声をかける。

 「少し休もう。昼食は外で食べよう」

 広場のベンチに座り、エリナが用意してくれた簡単な食事を分け合う。ミサは温かいパンを口に運びながら、自然と笑顔になった。


 「昨日よりも、少しずつ街にも慣れた気がします」

 ミサがそう言うと、レオンハルトは赤い瞳を細めて微笑んだ。

 「うむ。無理せず、少しずつだな」

 握られた手の温もりに、ミサの胸は甘く高鳴った。


 午後、街角で花壇の手入れをしている老婦人に出会った。倒れかけた花を光で支えると、老婦人は目を見開き、「あんた、なんて力を持ってるの」と驚きながらも微笑んだ。ミサも照れながら笑い、街の人々との距離が少し縮まったことを感じる。


 その後も、人々と短い会話を交わす。誰もまだ聖女だとは知らないが、温かい視線や感謝の言葉に、ミサは心から嬉しくなる。


 歩いているうちに、ミサの足元が石畳で少し滑りそうになった。瞬間、手を握られ、レオンハルトの赤い瞳が見つめる。

 「気をつけろ」

 「ありがとうございます…」

 ミサは顔を赤くして小さく頷く。周囲を護衛たちが見守り、何も心配はいらないという安心感に包まれた。


 散策を終え、夕暮れが迫るころ、二人は城の方向へ歩き始める。街の人々は興味深げに見つめるが、ミサが聖女だと気づく者はいない。しかし、街で起こした小さな奇跡の噂は、少しずつ人々の間で囁かれるようになる。


 「今日も無事に戻れそうだな」

 レオンハルトの囁きに、ミサは小さく微笑む。手を握り返すその瞬間、胸がじんわりと熱くなるのを感じた。護衛たちも自然に後ろで警戒しながら、無言の信頼を示してくれる。


 街の人々との交流、小さな奇跡、そして守ってくれる仲間たち。ミサは改めて、自分がこの国で必要とされていることを実感するのだった。

 心の奥で芽生えた小さな喜びと、レオンハルトへの淡い想いが、静かに膨らみ始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ