第二十一章 街での散策と小さな奇跡
城での訓練を終えた後、ミサは今日も城下町を歩くことになった。
朝の光が柔らかく街を照らし、人々の活気が穏やかに広がる。
「少し歩いてみようか」
レオンハルトが横に立ち、黒髪に赤い瞳を光らせながら微笑む。その存在感だけで、ミサは自然に背筋が伸び、緊張がほどける。
「はい…よろしくお願いします、レオンハルト様」
少し緊張しながらも、ミサは笑顔を返す。
護衛のイザベルとカイルは、ミサの一歩後ろを歩きながらも、視線を巡らせ安全を確認していた。イザベルは淡い金髪で、切れ長の瞳を持つ女性騎士。普段は落ち着いた表情だが、ミサに危険が迫ると前に出る。カイルは短髪で精悍な青年で、状況判断に長け、仲間を守ることに徹している。
広場を通りかかると、荷車に足を引っかけそうになった子どもがいた。ミサは反射的に手を差し出し、光をそっと操る。荷車はゆっくりと止まり、子どもは無事に立ち上がった。周囲の人々は目を丸くし、驚きの表情を浮かべる。ミサは少し照れくさそうに笑う。
「君の力…すごいな」
レオンハルトが静かに声をかける。赤い瞳で見つめられ、ミサは思わず頷いた。
さらに進むと、迷子の小犬が通りをうろうろしている。ミサは光で犬を優しく導き、無事に飼い主の元へ戻す。周囲の人々は自然に拍手を送り、子どもたちは「ありがとう!」と笑う。ミサはその温かさに心が満たされるのを感じた。
少し歩くと石畳で足を滑らせそうになる。レオンハルトがすぐに手を伸ばし、腕をしっかり支える。
「大丈夫か」
赤い瞳が優しく、自分だけを見つめるその視線に、ミサは胸が熱くなる。護衛たちも周囲を警戒し、ミサの安全を確認する。
街の広場に着くと、子どもたちが野花を摘んで遊んでいた。花が子どもの足元に落ち、転びそうになるのを、ミサは光でそっと支える。子どもたちは「ありがとう!」と明るく笑い、周囲の人々も微笑む。ミサは、力を使って人を助けられる喜びを少しずつ感じる。
「今日の君は特に輝いているな」
レオンハルトが囁く。ミサは頬を赤く染め、手を握られると胸の奥が甘く熱くなるのを感じた。護衛たちは少し離れた場所で見守りつつ、自然な形で協力して街の混雑を整理する。
昼近く、広場の片隅でベンチに腰を下ろす。エリナが用意してくれた簡単な昼食を、レオンハルトと護衛たちと一緒に食べる。ミサは自然に笑顔がこぼれる。
「街の散策はどうだ?」
レオンハルトが軽く問いかける。
「楽しいです。少しずつ、外の世界にも慣れてきたみたいです」
ミサは頷き、少し照れながら答える。
食事を終え再び歩き始めると、小さなトラブルが起きた。屋台の荷物が崩れそうになり、通行人が驚く中、ミサは光で荷物を支える。護衛たちが素早く対応し、レオンハルトは腕を軽く握り、「今日も無事で何よりだ」とささやく。
ミサは手を握られた温もりに心を揺さぶられながら、街の人々の温かさとレオンハルトたちの信頼に包まれていることを実感する。
そして、初めて自分の力が人を助けるために使える喜びを心から感じた。
「私…皆と一緒なら、もっと力を出せそうです」
小さく呟くミサに、レオンハルトは優しく微笑む。赤い瞳の奥には、確かな信頼と守りたいという想いが揺れていた。