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第二十章 城内訓練と力の自覚

 翌日、城内の朝は静かに始まった。

 窓から差し込む柔らかな光が、広間の床に長い影を落とす。

 ミサはまだ眠気の残る頭を振りながら、訓練用の広間に向かう準備をした。今日は初めて、城内で護衛たちの監督のもと、自分の力を意識的に使う訓練が行われる日だ。


 「ミサ、昨日の街での様子、よくやったな」

 レオンハルトが廊下で出迎え、軽く笑みを見せる。黒髪に赤い瞳、凛とした佇まいは、相変わらず威厳を感じさせる。


 「ありがとうございます、レオンハルト様…」

 ミサは少し緊張しながら頭を下げる。昨日の散策で、街の人々や護衛たちと過ごした時間が、自信の一部になっていることを実感していた。


 イザベルとカイル、そして他の護衛たちも、少し距離を取りつつ広間に整列する。イザベルは常にミサの一歩後ろを歩き、目を光らせながらも、昨日の街の出来事で少し安心した表情を見せている。


 「まずは基本から。力を制御するには、心を落ち着けることが大事だ」

 レオンハルトが指示を出す。ミサは深呼吸をして、手のひらを見つめる。昨日、街の人々の小さなトラブルを解決したときの感覚を思い出す。温かい手のひら、軽い光の感触――あれが自分の力の手触りだった。


 訓練が始まると、護衛たちが少し距離を取りながら安全を確保しつつ、ミサの動きを見守る。

 「無理はしなくていい。力を出すタイミングは自分で決めろ」

 レオンハルトが声をかける。彼の赤い瞳が真剣にミサを見つめると、心が自然に落ち着いた。


 最初は光が小さく、ほんの一瞬だけ物を浮かせる程度だった。だが、呼吸を整え、街での経験を思い出すと、光は徐々に安定して形を作る。

 「…できました」

 ミサは小さく呟く。護衛たちも自然に笑みを浮かべる。イザベルは一歩前に出て、満足げに頷いた。


 昼になると、訓練は一旦休憩に入り、レオンハルトや護衛たちと広間の外で簡単な食事を取る。昨日の街散策の話や、力を使ったときの感覚の共有など、自然な会話が生まれる。

 「街の人々も、君を信頼していたようだな」

 レオンハルトが言う。

 「はい、でもまだ皆には何も言っていません」

 ミサは少し笑みを浮かべる。力を使ったことを知られず、自然に助けたことが嬉しかった。


 午後には小さなトラブルも発生する。城内で、荷物が崩れ落ちそうになる場面で、ミサが瞬時に光を使って支え、護衛たちは素早く周囲を整理する。

 「素早い判断だな」

 カイルが少し驚きながら声をかける。

 「皆さんのおかげです」

 ミサは胸の奥で感謝を噛み締める。自分だけでなく、守ってくれる護衛たちと共に力を発揮できる喜びを実感した。


 日が傾く頃、訓練は終了。ミサは軽く汗をかきながらも、心は満たされていた。

 「君の力は、誰かを思いやる心から生まれる。今日の訓練でそれがさらに強くなったな」

 レオンハルトは少し微笑み、ミサの手を軽く握る。その瞬間、昨日の街での触れ合いと、城内での経験が心の中で繋がったことを、ミサは感じた。


 夕暮れの光の中、護衛たちは整列し、イザベルは一歩後ろでミサの様子を見守る。

 「これからも、皆と一緒に力を使っていけそうです」

 ミサは静かに言う。レオンハルトは赤い瞳を細め、信頼と期待を胸に秘めたまま頷いた。


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