第二章:隣国の王子と小屋の夜
雪が舞う国境の森の小道、桐原美沙――23歳――は、凍える体を震わせながら途方に暮れていた。
グランベル王国から追放され、頼れる人もなく、心は深い孤独に沈んでいる。
そのとき、森の奥から馬の蹄の音が雪を蹴るように響いた。
黒髪で赤い瞳の青年が現れる。
彼の後ろには数名の騎士たちが控えている。
ミサの視線は自然とその青年に釘付けになり、騎士たちの存在はまだぼんやりとしか意識できなかった。
凛とした立ち姿、静かに見つめる瞳、そして温かい声――
「君、大丈夫か?」
その一言に、凍えた体だけでなく心までも少しほぐれるような気がした。
騎士たちは警戒していた。
「王子、この者をどう扱えば……?」
銀髪の青年が小声で囁く。
「慎重に」と黒髪で屈強な騎士も頷く。
だが黒髪の青年は首を振る。
「困っている者を見捨てることはできない」
その揺るがぬ意志を目の当たりにして、騎士たちは従うしかなかった。
幸運にも、森の小道沿いに簡素な小屋を見つけ、そこで一夜を過ごすことになった。
中は狭く、簡素な作りだが、雪から避けられ、わずかな暖かさを得られる。
ミサは震える声で追放の経緯を話す。
「私は……聖女として召喚されたのに、王子に無視され、力も発揮できず……国王や貴族は私腹を肥やすばかり……そして追放されてしまったんです……」
黒髪の青年は静かに頷き、小屋の奥に立つ騎士たちを指さした。
「こちらは、私が信頼している者たちだ。自己紹介してみろ」
騎士たちは渋々立ち上がる。
銀髪の青年はカイルと名乗り、王子に従う騎士であることを簡潔に述べる。
鋭い目つきで観察しているのがわかる。
黒髪で屈強な男性はダリウスと名乗り、護衛を務める騎士だと告げる。
険しい表情だが、堂々とした立ち姿が頼もしさを感じさせる。
茶髪の青年はセリオと名乗り、王子の従者であることを伝える。
柔らかい表情でミサを見つめる姿には、少し安心感を覚える。
そして黒髪の青年も一歩前に出て、低く穏やかな声で言った。
「私はレオンハルト、ヴァルディア王国の王子だ」
ミサはその言葉に少し驚いたが、心の奥ではやはり彼から目を離せない。
その瞳、立ち姿、声――すべてが心に深く刻まれる。
ミサはまだ完全に安心しているわけではない。
警戒心が残る中、騎士たちの佇まいや様子を観察し、自分の置かれた状況を理解していく。
それでも、目の前にいるレオンハルトの存在が、わずかでも心を和らげてくれた。
雪の夜は冷たく長かったが、簡素な小屋の中で少し暖を得たことで、ミサの胸には小さな希望が芽生え始めた。
「……ここなら、生きていけるかもしれない……」




