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第十八章 街での小さな事件


 翌日、城の外は昨日よりも穏やかで、空気も澄んでいた。ミサはレオンハルトの隣を歩き、イザベルは後ろに控えて周囲を警戒している。他の護衛たちも少し離れた位置で、必要に応じてサポートできる体勢を整えていた。


 「今日は街の中心まで足を伸ばしてみよう。君も少しずつ外の空気に慣れた方がいい」

 レオンハルトは自然な笑みを浮かべて言った。ミサは小さく頷き、手を少し緊張気味に握る。まだ城の外を歩くのは慣れないが、護衛やレオンハルトが隣にいる安心感があった。


 街の中央に差し掛かると、商店の前で荷物を運んでいた男性が足を滑らせ、箱が崩れかけていた。周囲の人々は慌てて駆け寄るが、うまく支えられずにいる。


 「大丈夫ですか!」

 思わず駆け寄ったミサが手を差し伸べると、かすかな光が手から溢れ、箱は倒れずに安定した。男性は目を見開き、周囲の人々も一瞬息をのむ。


 「お、お姉さん…助かった…!」

 「いえ…ただ…手を伸ばしただけです…」


 その瞬間、ミサの胸には小さな戸惑いが生まれた。自分の手から光が溢れたのは確かだ。でも、なぜ今まで発揮できなかった力が、突然出せたのだろう。


 ──もしかして、私は…誰かを守りたいと思ったから…?


 自然に思い当たった。グランベル王国では、力を発揮する場面はあったはずなのに、王子や王族の冷たい視線や拒絶の前では、心が萎えて力を出せなかった。けれど、今は違う。


 レオンハルトやイザベル、護衛たちの存在。困っている人を助けたいという気持ち。それが、力を出すための“鍵”だったのだと、ふと理解した。


 さらに歩いていくと、遊ぶ子どもたちが転びそうになったり、小さな犬が道に迷って鳴いていたりと、些細なトラブルが続く。ミサは手を差し伸べ、光を用いて助けるたびに、少しずつ自分の力の感覚が戻ってくるのを感じた。


 イザベルや他の護衛たちは必要なときだけ前に出て守り、普段は後ろで目を光らせている。イザベルは時折「ミサ様」と呼び、安心感を与える。その様子を見て、ミサはさらに胸が温かくなる。


 昼頃、街角の広場に差し掛かると、果物屋の荷車が傾きかけていた。ミサが手を伸ばすと、光が広がり荷車は安定する。店主は驚き、思わず手を合わせた。

 「お、お姉さん…本当にすごい!」

 「皆さんの役に立てて…嬉しいです」


 心の中で、ミサは静かに考える。

 ──私の力は、誰かのために自然に出すときにこそ、意味を持つんだ──


 夕暮れ、城門をくぐると、庭園に落ちる長い影が静かに揺れていた。ミサは安心した表情で、護衛たちとレオンハルトを見渡す。彼らに見守られている安心感は、何よりも大きかった。


 夜、客室に戻ったミサは小さく手を合わせる。

 ──今日も皆が無事で良かった。私の力も少しずつ…受け入れられる──



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