第十七章 街のひとときと小さな力
翌日、城の外に出ることになった。ミサは少し緊張しながらも、レオンハルトの隣に立つ。護衛のイザベルは後ろに控え、周囲に目を光らせている。城門を抜けると、穏やかな通りと人々の笑顔が広がっていた。
「今日は少し街を歩いてみよう。人々と触れ合うのも大事だからな」
「はい…でも、私、大丈夫でしょうか…」
「無理せず、君のペースでいい」
レオンハルトは軽く微笑み、そっと手を差し伸べる。ミサはその手を握り、少し勇気をもらった。
道を歩いていると、子どもたちが遊ぶ声が聞こえた。ミサが近づくと、子どもたちは興味津々に寄ってきた。
「ねえ、お姉さん、あそぼうよ!」
「ええ、いいわよ」
ミサが手を差し伸べると、ほんのわずかに手から温かい光が漏れ、子どもたちは驚き目を見開いた。だがすぐに笑顔に変わり、手を握ったまま遊ぶ。
ミサ自身も驚きで小さく息をのむ。
「えっ…光…出てる…?」
レオンハルトは微笑みながらも、内心で少し驚きを覚えた。
「…君の力、少しずつ現れているな」
「ご、ごめんなさい、びっくりさせました?」
「いや、問題ない。むしろ自然で良い」
街を進むと、小さな果物屋の前で荷車が傾きかけていた。ミサは咄嗟に手を伸ばし、荷車を支える。手からほのかな光が流れ、果物は落ちずに済む。店主は思わず目を見開いた。
「お、お姉さん!?…すごい…!」
ミサも自分の手から光が流れるのを見て、思わず顔を赤らめた。
「い、いえ…ただ…手を伸ばしただけで…」
護衛たちもその光景に少し驚きつつ、冷静さを保つ。イザベルは「さすがミサ様…」と呟き、他の護衛たちはお互いに小さく頷き合った。
ミサは胸が熱くなるのを感じた。──自分の力が、人々の助けになった──
さらに歩いていると、道端で小さな段差に子どもが足を取られそうになる。ミサは反射的に手を伸ばし、子どもを支えた。その瞬間、手から温かい光が広がり、子どもは無事に立ち上がる。子どもは驚き目を丸くしたが、すぐに「ありがとう!」と笑顔で言った。
ミサも思わず息をのむ。
「光が…!私…できたの…?」
街の人々は不思議そうに眺めつつも、恐れる様子はない。誰もが自然に微笑み、ただ優しい人だと思うだけだった。ミサは安心しながらも、力が確かに自分の中で生まれつつあることを実感する。
帰り道、レオンハルトはさりげなく手を握り直す。
「今日の君は、昨日より落ち着いているな」
「皆さんのおかげです。こうして安心して歩けるのも」
護衛たちも微笑み、ミサの成長と街での交流を静かに見守った。
城に戻ると、夕暮れの光が窓から差し込み、庭園の木々が長く影を落としていた。ミサは胸に温かさを感じながら、静かに呟く。
──私を見守ってくれる人たちがいる。だから、私は力を使える──
その夜、眠る前にミサは小さく手を合わせた。城の人々、護衛たち、そしてレオンハルトに見守られながら、少しずつ自分の力を受け入れられる自分がいた。