第十六章 小さな奇跡の兆し
朝の柔らかな光が城の窓から差し込み、ミサは目を覚ました。まだ少し眠そうな顔でカーテンを開けると、庭園の花々が露に濡れて輝いている。
「おはようございます」
控えめな声に、イザベルが微笑んで答える。
「おはようございます、ミサ様。今日も良い天気ですね」
ミサは軽く頷き、朝の身支度を整えると、庭園へと足を運んだ。レオンハルトは今日も訓練の予定があり、護衛たちも付き添っている。イザベルは一歩後ろに控え、警戒しながらもミサを見守る。
庭園を歩いていると、小さな傷を負った小鳥が羽を痛めて地面に落ちていた。ミサは思わず手を差し伸べる。すると、手からほのかな温かい光が溢れ、そっと小鳥に触れると羽がゆっくりと元に戻っていく。
「…これは……?」
ミサ自身も驚いた。力が自然に働いたことに戸惑いながらも、見守るイザベルは目を丸くする。
「ミサ様…今のは…?」
「分からない…でも、元気になった…」
小鳥はぴょんと飛び立ち、枝に止まってさえずる。ミサの胸に、少し誇らしい気持ちが芽生えた。
その後も、庭園を歩きながら触れた花や水に、微かな変化が起こる。花びらが少し鮮やかになり、水面に浮かぶ露が温かく光る。ミサは驚きと戸惑いを抱えつつ、少しずつ自分の力を受け入れ始める。
昼になり、エリナが用意した昼食を庭園の一角で食べることになった。護衛たちも近くに座り、レオンハルトは少し距離を置きつつも、時折ミサを気にかける視線を送る。
「庭園の花々、きれいですね」
「ふふ、ミサ、手を伸ばすたびに変化しているのか?」
「え…?私…?」
ミサは昨日まで気づかなかった小さな変化に、少し顔を赤らめる。
イザベルは優しく微笑み、そっと言った。
「ミサ様、恐れることはありません。私たちはずっと見守っています」
ミサはその言葉に胸が温かくなり、力を使った後の不安も少しずつ和らいでいく。護衛たちやレオンハルト、そして城の人々が自分を信じ、支えてくれることを実感する。
「皆さんのおかげで、少しずつ安心していられます」
「それは良かった。私たちも、ミサが元気でいてくれることが何より嬉しい」
レオンハルトの声は穏やかで、しかしどこか熱を帯びていた。
午後の光が庭園を満たす中、ミサは初めて自分の力を自然に受け入れ、少し自信を持つことができた。ここで過ごす日々が、ただ守られるだけでなく、守る力をも与えてくれることに気づき始めていた。