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雲海特区の竜使い  作者: 円堂 豆子
竜のマヨイガ
2/10

祖父の手帳

 人気のない林道から山に入り、かなり高いところまで登ってきた。


(方向は合ってるはずなんだけど)


 木々の隙間から見えるのは、山の谷間に覗く青空と、彼方に小さくかすむ街。

 店のある足立区から電車とバスを乗り継ぎ、ホテルと簡易テントで一泊ずつ。


 夜明けとともに目覚めて、木の根に覆われた道なき道を登り、ふくらはぎが張っている。

 松の幹に背中をあずけ、休息がてら手帳に目を落とすと、鉛筆で描かれた手書きの地図が木漏れ日のもとに浮かぶ。

 斜面に、家屋がぽつんと一軒。


(本当にあるのかな、こんなところに――そういえば、斜面の角度が目の前の景色と似てる?)


 手書きの地図に誘われて頂上付近を探すと、緑の天蓋の隙間にきらりと光るものがある。

 日の光を浴びて白く輝く、瓦葺の屋根だった。


(あれか?)


 手帳は、祖父の遺品だ。

 深緑のビニール張りの年季が入ったもので、日付から計算すると、祖父が二十五歳の年のものだ。

 カレンダーとメモ欄があって、手書きの地図が残っていた。

 万象は、その地図を頼りに山を登ったのだった。


(〈裏〉の薬を分けてくれる人が住んでいるはずなんだ――じいちゃんも、その人を探してこの山を登ったんだから)


 祖父が登ったのは五十年以上前のはずなので、当時は存在した家が、いまもあるとは限らない。

 標高はすでにかなり高く、道もない。

 資材を運ぶトラックどころか、人が辿り着くのもやっとの場所だ。

 その家がいまあったとしても、ログハウス程度の山小屋だと万象は思っていた。

 でも、見つけたのは、黒い瓦屋根の民家だ。

 山頂には、田舎の農村にありそうな、広々とした豪邸がぽつんと建っていた。


(うそだろ。どうやって、こんなところまで瓦なんか運ぶ?)


 そうだ。と、胸に落ちる言葉がある。


 あやかし――。


『そりゃあ、効くだろうさ。人間のための薬じゃねえもんなぁ』


 その家に住んでいるのは、人間ではないかもしれない。

 万象一家が代々営むのも、あやかし向けの〈裏〉の薬を密売する薬局だった。


(ここまできて、引き返すわけにもいかねえしなぁ。いくか)


 多少のふしぎは、あって当然か。

 進まなければ〈裏〉の薬は手に入らないし、万象も一生むだに呪われたままだ。


(そうだよ、このままじゃ――)


 幽牙堂に呪われて、万象の身体はとんでもないことになっている。

 このままでは、人生が終わったも同然だ。


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