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08 常連客は変わり者が多い

 今日は、風が騒がしくも鳴いている。

 日が沈み、お店の営業時間が特殊延長を迎える頃、時に常連客はやってくるのだ。


「今宵、第一種警戒体制」


 アルバの言葉を合図に、店内のガラスには特殊強化装甲のシャッターが下り、出入り口のガラスドアだけを強調している。


「いいか、ここから先は戦争だ」


 カウンター越しで手を交え、ただ待っているのだ。

 そんな緊張感が圧迫しそうな中、アルバは後ろから近付いてきた人物に気づかなかった。


「我々に敗北の二文字はなるだぁああ!?」

「何馬鹿なことやってるんですか! 真面目に働いてくださいよ。出禁者が来ると言ってる割には、ふざけすぎじゃないですか?」


 プルースはステラと共にやってきており、アルバに一撃を叩きこんできたのだ。

 その手に持っている物騒な拷問器具はなんだ、とアルバは問い詰めたかったが、聞いたところで試されるのは目に見えている。


「おっ、ステラ、お前も来たのか」


 ステラは呼ばれたのが嬉しいのか、左ワンサイドアップのピンクの髪を柔らかく揺らしている。

 物好きだな、と内心で思ってしまう反面、少し物騒な気配もある。


 ステラが店内に顔を見せることは時折しかないので、この時間ですら顔を見せに来るのは珍しいのだ。


「あのー、アルバさんにステラちゃん……話してるところ悪いんですけど、さっきからドアの前に立っているあれはなんなんですか?」


 プルースは震えた指先で、出入り口であるガラスドアを指していた。


 そのガラス越しに、一つの看板を持ち、毛皮を全身に着た人物がスタンバイしている。ただし、ガラスとゼロ距離でめり込むほどに熱い猛烈なキスをしているので、その熱でガラスが溶けかねない。


 おかげで看板の文字が見えないのは、見てくれている人への考慮が足りていないものだ。


「……ガラスが溶けたら弁償させるか」

「そうだねー。いっそのこと魔物の群れに放って、うちらが頂点に立って見守るのもいいかもねー」

「あれか、よくある檻に人質閉じ込めて、周りに危険なやつうようよさせて見物するやつ―」

「それそれー」

「なに呑気に話してるんですか! そもそもなんであのよくわからない人はガラスにキスをしているんですか!」


 プルースがこちらの話にツッコミを入れないのはマイナス点だが、テンポを優先してくれているのだろう。

 最近はグダルだけでも、駄作だの、遅延だの、つまらないだのと、自己承認欲求の激しいハゲ魂が飛び交うくらいなのだから。


 ふと目を凝らせば、店内にもハゲた魂、ハゲ魂の亡霊が見えそうだ。


 刹那、ガラスはヒビが生え、毛皮を全身に身に着けた半裸のモリモリマッチョな男が、光輝く粒と共に入店してきた。

 その強靭な肌は傷ひとつなく、散らばったガラスの破片がパリパリと踏まれて音を立てている。


「あら、新米の子はあなたねぇぇ。うーん、良い顔」


 男はプルースを見た瞬間、距離を詰めている。

 だからこそ、アルバはセキに頼んで、この男を営業中は出禁にしたのだ。


「タマナシさん、久しぶり」

「アルバの兄貴、玉ならあるわ――おう、のー」

「汚らわしいものを見せないでねー?」

「ステラ、加減してやれよー」


 ステラがニコニコ顔でクマサンの股を蹴り上げたのもあり、クマサンは瞬時に顔を真っ青にして倒れた。


「アルバさん、この人はなんなんですか? 変質者なら僕が捌きますよ」

「あー、こいつは常連のクマナシクマサンだ。簡単に言えば、良い男のストーカーだな」

「良い男のストーカーってなんですか!」

「それはわたしが説明して、あ・げ・るぅ」


 ステラの殺意がどす黒く溢れているが、クマサンに出会うといつもなので仕方ないだろう。

 クマサンはどうやら、ステラに龍の玉砕をされるのを視野に入れていたのか、股に強化装甲でも入れていたようだ。

 威力的に貫通したとはいえ、準備を怠らないのは流石クマサン、と言ったところだろう。


「わたしはね、アルバの兄貴のような良い男が好みなの。そうねぇぇ、あなたみたいな新米君も食べちゃおうかしら」

「おー、下の穴なら掘ってもいいぞ」

「言い訳ねぇだろ!!」


 プルースにバックドロップをされたのもあり、アルバは顔面に靴がめり込み、カウンターの後ろ棚に勢いよく激突した。


 おかげで煙が舞うわ、葉っぱは落ちてくるわ、良い事は何もない。

 アルバは頭に刺さった破片を抜きつつ、プルースに視線を向けた。


「何勝手に話を進めているんですか! だいたい、なんで出禁になってる人がこの場所に来てるんですか!」

「そりゃあ、クマサンはこれでも一応、この店の依頼書を達成できる逸材だからな」


 驚くことなかれ、クマサンは王国からも出禁をくらっており、森で暮らすことによって得た強靭な肉体で、可愛らしい罠を作る天才なのだ。


 実際のところ、テルミナの攻撃派閥は多数にある。だが、希少派である罠を作れるクマサンを野に放っておくと大変なので、出禁にしているとはいえ、時折お店に顔を出すようにさせているのだ。


 そんな事情を思っていると、ステラはクマサンが放り出した看板を手に持っていた。


「アッちゃん、看板にこんなことが書いてあるよ『開店してから閉店までずっと外で待っていました』ってー」

「流石クマサン、準備に隙が無いな」

「いつまで待ってたんですか! むしろ、今日人が来なかったのはずっと待っている変質者の噂があったからじゃないですか!!」


 プルースの言う通り、今日は本当に零人だったのだ。

 最低でも依頼書を買いに数人は来るのだが、零を記録するのはクマサンが来る時だけしかないのだから。


「ふふっ、セキさんにマーキングするテクニックを教えたのもあたしよ。まあ、セキさんたら、手つきがいやらしすぎてその時にはすでに私を超えていたんだけどぉ」

「アッちゃん」

「おう、ステラ、もういいぞー」


 ステラに合図を出せば、ステラはすぐさまクマサンを捕縛した。


「な、なにをするのかしらぁぁ……?」

「ちょっといいところがあってな」


 ステラが捕縛してくれたクマサンを持って、アルバたちはお店の外に出た。

 お店の外にはこんなこともあろうかと、人間大砲改良版を用意しておいたのだ。

 人間大砲改良版は、真ん中にどでかい筒と、両端に真ん丸な置物が二つ置かれている、極々シンプルな作りである。


 ましてや真ん丸な置物は金色に染め上げているので、この金玉……金の玉を売れば億はくだらないだろう。


「なんですか、この卑猥な物体は」

「人間大砲改良版だ。二度と卑猥な物体と言うな、三流。これだから、棒と二つの玉があったらテンテンと間違える発情期はー」

「今すぐアルバさんをこの筒に詰めて飛ばしますよ?」


 プルースが今にでもキレそうなので、アルバはさっさとクマサンを大砲に放り込んだ。

 そしてクマサンにお届け物を括りつけ、標準を森の空へと決めた。


「発射ああ!!」


 アルバの怒号と共に、大砲は解き放たれた。

 筒は音速で飛んでいき、森の空で大きな花形に弾け散っている。

 輝かしい粒を舞い、暗い空を明るく染め上げているのだ。


「へっ、エロい花火だ」

「いやいや、どっかの野菜人と同じような発言をしないでくださいよ!」

「たーまーやー」


 丈夫な常連客は高いところが好きというが、クマサンも空を飛べたのだ。

 ふと気づけば、ステラがちゃっかりと寄り添ってきていた。


「ステラ?」

「特別に―、隣で見てあげるー」


 もう一人の変わり者は、近くに居たようだ。ただ一人、あの変わり者を除いて。

 アルバからすれば『童貞坊や』と書かれた看板をステラが隣で持っていてほしくなかったのだが。

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