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04 強者ほど変態設定が多い

 この日、アルバたちのお店から近くに位置する、国連(こくれん)のある王国で大規模な土煙が柱を上げていた。

 アルバからすれば嫌な予感は間違いなしだが、今日もバイトマスターの仕事は始まりを向かえている。


「よう。今日の注文は何にする?」

「そうねー、ロックでアルコール百パーセントのオススメをいただこうかしら」


 有害な日差しを遮る遮光ガラスが店内を暗くし、オレンジ色の証明がレトロなカウンターを照らしている。

 ステラが悪い笑みを馬鹿みたいに浮かべている中、アルバは後ろの棚からワインのボトルを一つ取り、音を立てて封をきった。


(この痛みも、健やかなたしなみだな)


 ボトルの詮が天井に当たって頭に打ちこまれた。痛みすらも愛おしく思えば、問題はないだろう。

 用意したグラスにワインを注げば、妖艶に揺れ、店内の雰囲気と相まって実にマッチしている。


 アルバとしては、ステラとの洒落たやり取りも息抜きとしては重要だと思っている。

 グラスをカウンター越しにステラの前に流せば、ステラは軽い手つきでグラスを持ち上げた。


「嬢ちゃん、今宵は寝かせねぇからな」

「悪いねぇ、生憎睡眠はそこまでしないんだよー」

「ふっ、そうか。それじゃあイッキにグッとがああぁああ!」

「昼間っから何やってんですか!! ステラちゃんもわざわざ乗ってんじゃんねぇよ! 店内はレトロじゃなきゃ、ただ単にガラスを遮光ガラスにしただけで変わらないだろ!」


 突如として横からプルースが頭を鷲掴みにしてきたのもあり、カウンターにアルバの顔面が勢いよくめり込んだ。

 プスプスと煙を絶たせてくる彼は、ツッコミの加減を知らないのだろう。

 ステラに関しては接近に気づいていたようで、持っていたグラスをさっと避けた上に、既に飲み干して頭に添えてくるくらいだ。


 勝手に人様の頭でお墓を建てるのは、常識を知らないにも程があるだろう。


 レトロなバーを演出するために、レジカウンター前に椅子を置いて、わざわざ遮光ガラスに変える装置を作ったアルバを見習ってほしいくらいだ。


 遮光ガラスを普通のガラスに変える装置を動かしてから、アルバは震える頭を上げた。


「おいおい、仕方ねーだろ……あれが帰ってくる予兆があったんだから、ちっとくらいは不真面目でも罰が当たらないだろ」

「変態が来る前にはねぇー」

「ステラちゃんなら五百歩譲って許されるとしても、危ない存在なんですからやめてくださいよ」

「ほう、誰が危ないだって?」


 低くも深く脳髄へと響く声に、アルバは身震いした。

 ステラが警戒態勢を見せたので、完全に間違いはないだろう。


 その時、ラフな格好をしていたステラの大きな胸は揉まれるように揺れ、後ろから影が重なるように人の姿を露わにした。


「白髪ショートのアホ毛変態、次は殺すと約束したよねー」

「おうおう、ステラ、お前また大きくなったんじゃないか、俺は嬉しいぜ」

「汚店頂、いつから帰って来てたん? 生ゴミの日はまだ先だから、袋に入れるくらいしか出来ないだろ?」

「セキさん、お疲れ様です!」


 絶賛ステラの豊満な胸を揉んでいる変態こそ――この店の店長こと汚店頂であるセキだ。

 左目のきりっとしたこわもての白銀の瞳に、閉じた右目にある癒えない深い傷跡がセキの特徴と言える。

 普段着としてコートを着ているのは、もはやこの店のドレスコードだろう。

 実際、アルバとプルースも同じくコートなので、セキの影響を主に受けていると言える。


「おう、紹介ありがとうさん、アルバ」

「紹介してるわけねえだろ、くたばれ」

「いやいや、人物紹介をするのは偉いぞ」

「いつまで触ってる変態、その手をへし折られたい?」


 セキはステラにストーカーレベルの変態さを披露しているが、三人がかりでも勝てない程の強さがある最強の存在だ。

 現状だけで言うのなら、この世界であるテルミナに置いて、彼の隣に出る者は居ないだろう。


 さっさとお陀仏になってお墓に彼岸花を活けておきたいが、セキに手を出す時点でアルバにとっては不都合でしかなかった。


 セキがステラの胸から手を離せば、店内はがたがたと物が震えている。


「アルバさん、二人を止めてくださいよ!」

「分かっているよな、アルバ? 俺のステラに手を出せば、まずはお前から天日干しにして商品にする」

「それだったら、ステラの乳から絞り出して、目当てでくるやぁああああ!?」

「ふざけんな変態! というか……まだ、出ないから……それに最初は……」


 最後まで言う間もなく、ステラはすぐさま後ろに回り、アルバの頭を掴んで床にねじ込んできた。

 床を赤いカーペットに染め上げれば売り上げが下がってしまいそうで、ステラの行いは野蛮そのものだろう。


 頭から砂埃を落としながら起き上がれば、蔑んだ視線を向けるステラは頬を赤くしており、どうやら機嫌が悪いようだ。

 ふと気づくと、セキがトントンと足を鳴らしている。


『ああ、そんなアルバに怒るステラも可愛くて尊いよ』

「モールス信号アホ毛、これと同じになりたい?」

「お店を壊すのも大概にしろよ! どうして身内だけでお店のリフォームが多発してるんですか!」

「宿屋という名の家が壊れないだけマシだろ」

「なんであんたは前髪を触りながら他人事なんだよ!」

「プルース、お前ツッコミ最近サボってただろ?」

「むしろボケしかいないからツッコミしかしてないんですが……てか、誰がツッコミ担当だよ、おいっ!!」


 セキはプルースに注意をしているが、ステラの写真を先ほどから撮りまくっているので、店長の威厳も何もないだろう。

 ステラ自身、セキが自身の部屋を肖像画の額縁で囲うようにステラを隠し撮った写真で埋め尽くしたのを知っているので、きっと言葉にしないだけで呆れを通り越しているのかもしれない。


 とはいえアルバもセキの横流しでステラのあんな写真は所持しているので、見つかれば確実に終わるだろう。


 ふと気づけば、セキは写真を撮るのをやめて、自身の懐を探っていた。


「ついにあの汚点頂と名高いセキさんが給料を出して、パワハラをしないでくれるんですかー?」

「給料が出ると思うな。それとアルバ、お前が押収した依頼金は全て頂いた」

「……セキさん、俺が後でステラの写真を撮るから、それとこう――」

「ふっ、けいや――」

「灰色七三、この馬鹿共は沈めてくるから、どこか良いところはあるー?」

「ステラちゃん、流石にグダってるし、天丼ネタは飽きられちゃうよ?」


 流石につまらないネタだと判断されたのか、アルバはセキと一緒に、ステラから価値のない商品として半殺しで床に捨てられた。

 人をゴミのように扱う精神は、看板娘じゃなければ許された行為ではないだろう。


 セキは殆ど無傷だったのもあり、頭に赤い花を咲かせながら、懐から一つの紙を取りだした。


「そんじゃ、俺はもうちょっと遊んでるから、お前らステラ含めこれを任せる」


 セキは巻かれた紙をプルースに投げ、店内から出て行った。

 今話の紹介人物であるセキが居なくなった時点で話としては破綻しているが、ステラへのストーカーを加味しても良い判断だろう。


 プルースに、さっさと終わらせたいから読め、と言った視線をアルバが送れば、プルースは目を細めながら紙を開いた。


「えっと……アルバ、ステラ、プルースに仕事を課す。俺を含めたオープニングを次の回に作れ、だそうです」


 瞬時、ステラと目が合っていた。


「ふざけんな! 誰がオープニングなんか作るか! オープニングってあれだろ? 英語だけで見たら思春期男子が下ネタでとらえてしまうアレぇー」

「アッちゃん、なんかいい風にしてよー」

「なんでアルバさんは怒ってるのに、ステラちゃんは他人事なんですか……」


 プルースがもはや投げやりになっているのを見るに、ツッコミに疲れているのだろう。

 実際、今話だけでもだいぶグダっているのは製作上の都合なので、アルバ自身もだるさは感じている方だ。


「よし、最終手段だ。舞台裏に行こう!」

「先生、おやつにクレーンゲームの景品は入りますかー」

「えー、一つに付き五百円として扱うことにしますー」

「えっ、舞台裏ってなんですか? おやつって何をする気だよ……なんで暗くなってきてるんですか? ちょっとぉおおお!?」

 真っ暗なカーテンが開けば、そこは家の中だ。

 店内で話し合うのもよかったが、本編のおまけなので、楽屋兼家の方に移動した方が見栄え的にもいいだろう。

 三人でテーブルを囲んだ。


「あのアルバさん、なんで後書きにまで出張してるんですか?」

「渡人だからな」

「異世界の方ですよね??」

「メタいことをプルースが言うな。だから禿げるんだよ」

「灰色七三、話が進まないから黙ってねー」


 さりげなくステラが圧掛けをしたのもあって、プルースは体を震わせながら黙っていた。

 相も変わらず、ステラに歯向かう方が命知らずだと、プルースが理解できているのはよい方だろう。

 ちなみに本編はふざけ倒したので、真面目だ。


「オープニングなんてエッチなものはな、全てを知る者が作るんだ」

「なんでエッチだとか言ってるんですか……。まあ、話くらいは聞きますよ」

「アッちゃんは賢いねー」


 オープニングとは、オープニングだ。

 ただしオープニングはプロローグなどと違って、キャラの一面を簡易的に知ったり、物語を知ったりしないといけないものだと、アルバは思っている。

 プロローグはあくまで、その展開の前触れを意味しているものであり、歩き続けた先にある繋がった道筋みたいなものだ。


「……(せわ)しく過ぎている時を、その場面に焼き付けるのはいいんじゃないか?」

「忙しく過ぎている時をですか? ……アルバさんらしくないですね、お前、本物の馬鹿で屑なアルバさんを何処にやった!」

「言い過ぎじゃないか!?」

「あのアルバさんを返し――いや、やっぱり返さなくていいです」

「ステラ―」

「あいあいさー」


 ステラに言葉をこぼせば、容赦なくプルースをぼこぼこにしていた。

 プルースが灰になってから、アルバはステラと顔を見合わせる。


「ステラ、あのパワハラをこなしながらやるなら、キャラクター紹介みたいなもんだ。頼めるか?」

「うーん。仕方ないねー。じゃあ、後で付き合ってもらうのを条件でー」

「……乗ってやるから頼んだぞ」

「やったっ」


 ステラが時折子どもらしさを見せるのもあり、アルバは正直困っている時もある。だけど、こうして家族とできる話の時が嬉しいのだ。

 小さなカケラは誰かが傷つけて、消えてしまう。

 そんな傷すらも愛おしいほどに、家族として、誰もが忘れてしまう渡人であれてよかったと思えるのだから。


 苦笑しつつも、アルバは紙を用意した。


「それじゃあ、プルースの分の未来予測も決めつつ、また此処に渡ってくるか」

「うん!」


 アルバ、プルース、ステラ、セキの集うアドーレ店の不思議な日常はここから始まる。

 また戻ってくる、そんな不思議な約束をステラと交わして。

 また一つ、また二つと、時が進んでいる自分たちを思い浮かべながら。




 ――追記。(ネタバレ含む)


「アッちゃん、本当にまたここに戻ってきたね」

「まあな。渡人はどこにでもいて、どこにでもいないからな」

「……なんですか、その謎の哲学は?」

「プルースも成長すればわかるさ」

 ここに戻ってきたのは他でもない、オープニングという一つの目標を達成したからである。

 戻ってくる約束をしたのもあるが、今更恥ずかしくなって戻ってこない、忘れていた、という言い訳をしていいはずがないだろう。

 いろんな人との出会いから繋がり、この話に舞い降り、一つ成長した自分たちを見せたかったのかもしれない。

「ステラ、プルース、ここにはあまり長居は出来ないから、さっさと行くぞ」

「ちょっ、アルバさんが来たいって言いだしたんじゃないですか!」

「アッちゃんはツンだからねー」

 実際、オープニングをやり遂げた記念のようなものなので、本当に意味もなくやってきただけだ。

 ステラとプルース、そしてアルバの送る日常がここにもあるから。

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