最終話 何気ない日々が日常を創る
プルースが正式に異世界渡人になり、数日が経った頃。
お店の前では、テーブルが並び、様々な異世界の料理が置かれている。
魔物の目漬けや、魔物の丸焼き肉、アドーレ店特別鍋など、テルミナだからこそ許される全てが並んでいた。
「えー、あー、あー、聞こえてるか」
「聞こえないんで変態は死んでくださーい」
「そのマイク腐ってる声がするな」
「アルバさんにステラちゃん、なんでセキさんに殺意高めなんですか!? というか、この騒ぎはなんですか? 僕、何も聞いていないのに変なものを付けられているんですが?」
プルースはいつも通りのコートを着ているが、その上から『本日の主役(賞金首)』と書かれたタスキを身に付けさせられていた。
無論、全てはセキの企みである。
おかげでステラと一緒に、ここ数日は準備のために魔王城や王国に足を運ぶ羽目になったのだから。
少しくらいの殺意は、アクセントみたいなものだろう。
セキは軽く咳払いをし「無事に聞こえているな」と安定したスルー技術を見せつけ、全体を見渡している。
「今ここに、プルースを正式に渡人任命及びに――俺のステラがどっか行っちゃったぜ記念を血涙ながらに開催の宣言をしてやるぞゴラァ!!」
「なんで自分で言って自分でキレているんですか!? というか任命って何の話ですか?」
「うちはセッちゃんの物じゃないよー。今は、アッちゃんのだから……」
ステラが頬を赤く染めたのもあり、セキの視線は殺意を通り越して怨念のようにアルバへと降り注いでいた。
アルバ自身、結局のところはセキを納得させられていないので、アドーレ店のお決まり事で収めるつもりでいる。
アルバが呆れていると、横でけらけら笑っている声が聞こえてきた。
「お前ら、招かれた身だ、少しは遠慮しないか」
「隊長、今日くらいは調子に乗っても罰は当たらないだろ? 俺のジャムをかけてやるからよ」
「ラデクさん、俺はこいつをご祝儀にしてアルバさん達に贈った方が良いと思いやす。安心してくだせぇ、しっかりと紐に結んでミートにはするんで」
「てめぇ、今日で決着つけるか?」
国連特別組織からラデクとアモウ、ジンが選出されたようで、堅物含めた三人衆は賑やかだ。
ふと気づけば、笑っているプルースに剣が刺さった。
「なんでぇええ!?」
「危機感の欠如。それでは、いくら死の体になったとはいえ、受け身耐性が零ではそこの吸血鬼と同様に意味ないぞ、灰色七三」
「え、エテルさん!?」
「どれ……どれほど強固になったのか実験してみようではないか……」
エテルは持っていた書を開くと、無数の剣を魔法陣から出してプルースに向けて放っていた。
魔王城の方からは安全性を考えて、エテルが単独で来たらしい。
プルースが何度も串刺しにされている中、ステラがセキから逃げるようにくっついてきた。
ステラはステラで控えめではあるが、あの日からアルバによく甘えるようになったので、ある意味女性らしさが増えたものだろう。
そんなことをアルバが思っていると、ステラが睨んでくるので勝手に読んでいるようだ。
「俺のステラァアアアア!! なんでぇやぁああぎゃぁあ!?」
「セッちゃん、いつも通りの家族で観念してねー」
流石にステラはセキのストーカーと称した狂気じみたい愛には飽きたようで、指パッチンをして空気の玉を圧縮して打っていた。
いつもサンドバッグになるセキは、嬉しそうな笑みを浮かべている。
そんなセキに引いていると、アルバの周囲に魔法陣が現れた。
刹那、斬撃の銀線が宙に描かれる。
「おっと……サピィか! 随分な挨拶だな?」
「ふむ、地球ではご愁儀を贈ると聞いてな。我は汝に贈っただけだ」
「殺意を向けるご祝儀が何処にあるんだよ! ……ご祝儀の漢字が違うよな?」
おかげで体に赤い花を刻まれたので、サピィの悪ふざけには困ったものだろう。
プルースの正式任命会だというのに、本当に変わらないテルミナの住人は、日常に飽きる事を覚えさせてくれない。
ふと気づけば、セキがステラの空砲を避け、こちらに近づいてきていた。
「セキさん、次の目的地は?」
「そうだな。テルミナは未知のエネルギーを保持していても暫くは大丈夫だ」
「了解」
セキの発言から察するに、他の異世界に今はまだ、未知のエネルギーの残留が発生していないようだ。
軽く閉じた瞼をあげれば、セキが刀を手にし、穏やかに周囲を眺めていた。
「なあ、アルバ。お前はバイトマスターを続けていて、どうだ?」
「……そうだな」
国連と魔王を巻き込んで遊んでいるプルースとステラ。
家族を支え、家族を見守ってくれている、後ろに建つアドーレ店。
そのどれもが、かけがえのないもので、自分達の存在を伝えるものだ。
「渡人は大変だけど、辛いことも、悲しいことも、楽しいことも分かち合える家族に会えて、俺は幸せだよ」
「あの弱虫だった、出会った時のお前が知ったら死ぬんじゃないのか?」
「そりゃあ、言えてるな」
異世界渡人として成長させてくれたのは他でもない、家族だ。
「よし、アルバ、久しぶりに交えるか」
「……ステラとの件、叩きこんでやるよ」
「ちょっ、二人共! 皆さんが居る前で暴れようとしないでくださいよ!」
「おっ、アッちゃん勝っちゃえー!」
「ふむ。セキがテルミナで剣を交えるとは、実に難義ある勝負になるな」
「危険だ……ビオトープは壊さないでくれよ……」
「俺も参戦させてもらおうか」
「おい、隊長が行っても勝てるわけねぇだろ。何も見なかった、聞かなかったことにしろよ」
「それじゃあ、このジャムは見えないんで投げますね」
「俺のジャムゥゥウ!?」
相変わらず騒がしい外野も、バイトマスターだったから巡り合えた、大切な記憶だ。
アルバは剣を構え、セキと向き合った。
「ステラ、プルース……そしてセキさん、アドーレ店に祝福してやる」
「こいよ、いつでも待ってるぜ」
何気ない日常は、きっと飽きてしまうだろう。
それでも、楽しみを分かち合える仲間が、家族が居るから、今という日々を全力で生きるのだ。




