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37 異世界渡人としてのあるべき姿

「全員、揃ったな」


 この日、セキを筆頭にして、アドーレ店の家族全員で湖へと集まっていた。

 湖は汚れを知らないほどに潤っており、森の中に眠る湖よりも神秘的だ。


 アルバは物質の剣を解除し、後ろについてきたステラとプルースの方を向いた。


「セキさん、全員揃ってる。異世界渡人として、始めるんだな」


 セキは頷いた。


「ステラ、プルース、各々言われたことは?」

「うちの方は既にエテルが動いてくれてたから―、ビオトープに結界を張るだけで済んだよー」

「僕の方はセキさんに言われた通り、国王サピエンスにお手紙を渡してきました。国連が動いていたので、セキさんの言った通りだと思います」


 セキはプルースに全く説明していないようで、プルースが何処かぎこちないのも仕方ないのだろう。


 今始めようとしているのは他でもなく、異世界バイトマスター……つまりは異世界渡人としての役目を果たす時が来たのだ。

 ふと気づけば、セキは白銀に輝く刀を顕現させて手に持ち、湖の方を向いて精神を研ぎ澄ましている。


「プルース、セキさんから聞いてないってことか?」

「灰色七三に、セッちゃんが説明できるわけないと思うよー」

「何も聞いていませんね」


 アルバは肩を落としそうになった。

 そっと周りを見れば、糸状にした物質を鳥籠のように張り巡らせるのが完了したので、プルースには話してもいいだろう。


「プルース……異世界バイトマスター、すなわち、渡人と呼ばれる由縁は?」

「異世界を渡り、流通の安定と、探している未知のエネルギーを回収しているからですよね」

「灰色七三、百点にはほどとおーい回答だねー」


 ステラの言う通り、プルースの回答では不十分なのだ。


「テルミナに来てからプルースには伝えるつもりだったんだけどな……俺ら渡人は、一つの役目を終えて世界を離れる時、流通の定義は保存された上で、存在としての記憶は無くなるんだ」

「定義は保存されるのに、記憶が無くなるってどういうことですか!」


 プルースを連れてから、ここテルミナに来るまでに渡った世界の数は、数十と多くの世界を渡っている。だからこそ、その時、その時で話した自分との記憶がその世界で残っていないとなれば、困惑するのも無理はないだろう。


 本気以上に真剣な目で見てくるプルースは、覚悟は決まった上で聞いているのだろう。

 ステラがそっと目を閉じて頷くのを見るに、プルースにしっかり伝えてほしいと意味している。


「分かりやすく言えばさ、俺とステラはまず人でありながら、人ではないんだ。一度死んだ上で、未知のエネルギーによって渡人として回収する(めい)を授かったからな。自発的とはいえ、それが記憶に残るのはまずいんだ」

「それじゃあ、テルミナの、ラデクさんやアモウさん、ジンさん、エテルさんたちとの記憶もなくなるってことですか!」


 悲しみは喜びだ、とお世辞にも言うつもりは無い。

 悲しみがあれば喜びがあるように、コインの表と裏、同じく映る鏡のようなものだから。


 ふと気づけば、ステラがプルースを見ていた。


「灰色七三、いや、プルース。テルミナはね、通称――全てのものの終着点と呼ばれてるの。だからね、テルミナで起きた事象は忘れられることがなければ、ああやってテルミナにやってきた事を個人個人で動いて伝えに行くんだよー」

「まあ、簡単に言えば、テルミナでは忘れられることは無いが、他の世界で未知のエネルギーを回収して離れる時は俺らの存在は忘れられる、ってことだ」

「それが、渡人……つまりはバイトマスター、世界のために働く人って意味ですか?」

「――察しが良いな、プルース」


 空間、雰囲気を壊すように低い声を口に出したのは、湖の方を向いていたセキだ。

 セキは集中、精神を研ぎ澄まし終えたようで、こちらを向いている。


 隻眼となっている白銀の瞳は更に輝き、深い傷が残ったまま閉じた右目からは光の粒が溢れていた。


 そして宿るように、セキの持っている刀は反応するように白銀の気を纏っている。


「テルミナにはな、何光年も前からエネルギーが集まってくるんだ。今まで解き放った未知のエネルギー、その数百以上のエネルギーも今ここに眠ってるぜ」

「……セキさん、話はそれくらいでいいだろ。時間だ」

「アッちゃん、その瞳ってことは」


 ステラが呟いた通り、アルバの瞳は星型の瞳孔になって輝き、白髪が浮かぶように光の粒を発している。


 刹那、セキは刀を湖に向けた。


「アルバ、準備は」

「全て糸で紡いでここに集結させてる。エネルギーが溢れても回収は出来る」

「それじゃあ、始めるぞ。テルミナ、久しぶりだな。また、渡人としてやってきたぜ」


 セキはテルミナを懐かしんだ直後、刀を湖に刺すように振り下ろした。

 その瞬間、地は揺れ、水面は揺れ、森は鳴いている。


 湖にへこみが現れた時、まるで打ち上げ花火のような、虹色の光の柱が宙へと舞い上がったのだ。

 噴水よりも一直線に溢れ出す光の柱は、周囲に光の粒をまき散らしている。

 そう、これこそが、未知のエネルギーの本来の姿なのだ。


 溢れ出すエネルギーは人が、世界が扱うには危険すぎる程に強大だ。一つの場所にとどまっていれば世界を、宇宙という存在ごと世界を壊すのが容易なほどのエネルギーを持っているのだから。


「アルバ、頼んだぞ」

「了解」


 アルバはそっと手を前に出した。

 体の周囲には優しく、小さな銀の粒が浮かび上がっている。

 両手を器のようにすれば、周囲に張り巡らせた物質の糸が手の平に一本の線を各々の位置から伸ばし、散っていた光の粒を吸収して集めていた。


「……それが、未知のエネルギーですか……今まで見てきたのとは、違いますね」

「未知のエネルギー。アッちゃんとセッちゃんが何光年も巡って探して、解放した存在をテルミナに流し、こうして一つの塊として回収しているんだよー。だからね、うちらは死にたくても死ねないし、未知のエネルギーを最後まで見届ける義務を持って、家族として世界を渡っているんだよー」

「……そんな過去があったんですね……」


 未知のエネルギーに名前を付けないのは、そのエネルギー自体に名前をつけてしまったら、それを目安に集っている家族と別れてしまうと感じているからなのかもしれない。


 セキがテルミナから断ち切った未知のエネルギーは、光の柱を除いて、アルバの手のうちに集まっていた。


「プルース、お前はどうしたい? セキさんは見届けるだけだから、後はお前の選択次第だ。俺らと同じく、本当の意味で渡人になるか、どうかのな」


 ふと気づけば、ステラはセキの横に並ぶようにして、プルースから離れていた。

 プルースを家族として迎え入れたのは紛れもなくアルバである。だからこそ、プルースの最終的な意見を、使命を全うする義務を負うかを問いているのだ。


 この集まったエネルギーに触れれば、プルースは鬼族としての形を持った渡人になる。


 プルースは真剣な瞳で家族を見てから、そっと近づいてきた。


「アルバさん、これからも家族としてよろしくお願いします」


 プルースは嘘偽りのない、柔らかな笑みを浮かべていた。


「……セキさん」

「おうよ」

「灰色七三、よろしくねー」


 セキが振るった刀は、この空間を切り裂いた。

 それは――プルースが未知のエネルギーに間接的に触れたことを意味している。


 未知のエネルギーの光が収まった頃、湖は元あった姿に戻り、セキの刀はエネルギーを帯びて輝いていた。


「アルバ、ステラ、プルース、異世界バイトマスター『アドーレ店』はこれからも前に進んでいくぞ。ついてこれるよな?」

「俺たちは家族だろ?」

「うちはアッちゃんと一緒ならどこまでもついていくよー」

「ズデラァアア」

「セキさんは相変わらず、ステラちゃんに弱いですよね」

「まあ、セキさんからすればステラは目に入れても痛くないほどの潤いだからな」


 プルースが本当の意味で渡人になった今日、湖のほとりで小さくも笑い声が、家族としての話がこだました。

 ――次回予告。


「なんですか、次回予告って!?」

「次回は最終話だから、最後のサービスだ」

「最終話!?」


 プルースが正式に異世界渡人になったアドーレ店。

 その数日後、国連の国王であるサピエンスに、国連特別組織のラデクとアモウにジン、魔連の魔王であるエテルがアドーレ店の記念式にやってきた。

 いつも通りの騒がしいメンバーが集い、今ここに一つの終わりであり、人が言うには新たなる始まりを迎える。

 ふざけるセキに、アルバにキュンなステラ、状況が追い付かないツッコミのプルース、アルバの騒がしい家族も大概だ。

 次回、異世界バイトマスター最終回――何気ない日々が日常を創る。

 無事に完結を迎える、アドーレ店の家族の最後を読み逃すな。

 次回もさーび――。


「ちょっとまてぇぇええい! あの、本当に何やってくれちゃってるんですか!?」

「プルース、後書きは何でもありだ、覚えておけ」

「何でもありだとしても、既視感のある次回予告はアウトだろ!? 程々にしないと、多方面から叩かれますよ」

「完結は本当なので、ぜってぇに――」

「もういいわ!」


 ご覧のコンサーは『ネノプロジェクト』の提供でお送りいたします。


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