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31 走る先に答えがあるのなら走り続けろ

 今日という日は、空から明かりが差し込んでこなかった。

 ステラが魔王城に行って、一週間は帰ってきていない。


 アルバは心配だった。

 ぎゅっと握り締める拳が、カウンターに振動を伝えてしまう程に、ステラを意識している。

 ステラが魔族関連での交渉にはよく向かっているとはいえ、連絡も無しに一週間音沙汰が無いのは初めてだ。


「アルバさん、最近大丈夫ですか?」

「……なにがだ」


 言うまでもなく、動揺していた。

 アルバはそれを理解しているが、どうしてもプルースに明るい顔を、声を返すことが出来ない。

 アルバにとって、ステラは他人であるが家族であり、それほどまでに近しい存在なのだ。

 念のためと、セキがステラの様子を見に行ってくれたが、テルミナである以上はセキが救出してくれる可能性は無いに等しいだろう。


「ステラちゃんのことが心配なのはわかりますが、ステラちゃんがお店を空けているのはよくあることじゃないですか」

「……プルース。ステラはな、確かにお前から見ても、俺やセキさんからしても強いんだ。だけどな、弱いんだよ」


 プルースに話すつもりは無いと思っていたが、ステラが帰ってこないからこそ、心配で打ち明けようとしている。

 吐き出したところで、驚かせるように帰ってくることはないと、知っていながら。


「ステラちゃんが、弱いんですか?」

「ああ。でも、ステラは確かに強いさ」


 ステラは目を見張るほどに、武力に置いてはセキに続いて五本の指に入るだろう。

 だからこそ、その慢心、強さゆえに、ステラは隠してしまうのだ。

 本当に弱い自分を、知らない自分を、ずっと本棚の奥底に隠してしまうように。


「プルース、ステラが戦ってるのは見たことあるか?」

「ええ。相手に触れさせないで、一方的なワンサイドゲームでしたが」


 極論から言ってしまえば、ステラの強さは他の追随を許さない、圧倒的な戦力差にあるだろう。

 場所がテルミナ……異端者の集まりであっても、油断さえしなければステラが追いつめられることは無い。


 アルバは首を振り、そっとプルースを見上げた。


「言ってしまえば、あいつは耐性が無いんだ。だから、近づけさせないように攻撃を絶え間なく続けてるだけなんだ」

「えっ、でも、ステラちゃんには回復する吸血鬼特有の力が……」

「仮に回復したとして、罠に、知恵や技で拘束されてしまえば、ただのサンドバッグだろ」


 セキなら適当に通り抜けられたとしても、ステラはそう簡単にいかない。

 ステラの弱点……それは自身の力を見誤り、隠した弱い自分と対面してしまう時だ。

 耐性が無く回復能力だけが異常に高いのは、裏を返せば都合のいい実験体と同意義だろう。


「まあ、俺も言えた立場じゃないが、あいつは強いのに、弱いからな」

「強いのに、弱いですか。アルバさんが前に言っていた、その時、その時のあった長所と短所の技の使いどころ、っていうことですか?」

「そんなところだ。例えどれだけ錆びたナイフだとしても、そこに小さな強い毒があれば十二分に時間は稼げるからな」


 そうして深い息を吐いた、その時だった。

 勢いよくガラスの破片は飛び散り、ガラスドアは割られたのだ。

 立っているのは、セキだった。


 パラパラと落ちるガラスの破片は音を立て、店内に風を巡らせてくる。


「アルバ、仕事だ。場所は魔王城手前――手段は問わん」

「了解」

「アルバさん」

「プルース、お前はアルバに付いていってやれ。作戦名、魔王城前線。ばかやったあいつを、ステラを救出だ。俺は生憎、許可が下りないから前線には出ないが、アルバ、やれるよな」

「冗談は顔だけにしといてくれ、セキさん。後は任せるから」

「プルース、アルバを頼んだぞ」

「はい」


 アドーレ店を一時的に閉めて、アルバはしっかりとコートを着直し、プルースと共に魔王城の方へと向かった。


 案の定というか推測通りと言うか、ステラは魔族に捕まってしまったらしい。

 セキの持ち帰った情報によると、ステラは面倒なことに相性が悪い奴に目をつけられていただとか。


「ちょっ、アルバさん、待ってくださいよぉぉ」

「プルース、油断するな。お店を出れば、既にそこから戦いは始まってるんだ」

「ひょえぇええ!?」


 形の無い物体を剣という武器にし、プルースの背後から露われた魔物を気絶させた。

 魔物を見るに、魔族が関わっているのは確実だろう。


 この世界だと、魔物は人の形を持たない移動種族。魔族は人の形を持った、魔王城に住む魔連の一つとして分類されているのだ。

 魔物が魔族に手を貸したと言う事は、状況は深刻なのかも知れない。


 アルバは足を止めることなく、ただひたすらに走った。

 大地を抜け、森を抜け、魔王城のあるくりぬかれた山へと向かって。


 魔王城付近に辿りつけば、その開けた大地には無数の魔物に、それを指揮しているであろう魔族の姿が見えた。


「なんですか、この数は」

「ジョークは顔だけにしてほしいもんだな。魔族の税金泥棒ですかー、このやろう」

「魔族って税金で動いてるんですか!?」

「お前がボケてどうする!」

「アルバさん、前、来ま……す……よ……」

「悪いな、今、俺は怒っているんだ」

「……見えな、かった……」


 魔物を全て管理できていないようで、魔物の内一匹が先行してきた。

 ただし、その魔物は視界に映る間もなく粉になったのだが。

 勘違いしないでいただきたい。今、アルバの周りには二つの剣が物体となって浮いているのだ。


 プルースには申し訳ないが、今回ばかりは見学していてもらうしかないだろう。


 ステラを救う、それが最重要なのだから。

 アルバはプルースの腕を掴み、その場で浮かび上がった。


「さて、さっさと終わらせるぞ」

「ちょっ、アルバさん!?」


 無数に蔓延る魔物の群れ、そして各所に位置する魔族の方へと、アルバは勢いよく突っ込んだ。

 激しい土煙が舞う中、浮いている剣を振り回す。

 物体として分裂させ、無数の剣の雨を周囲に降らせる。


「これが、アルバさんの本当の武器の力」

「ネオジムソニック。ネオジムロード。まあ、こんなもんか」

「戦闘なのに、凄くあっさりしているんですね」


 無数と蔓延っていた魔物は跡形もなく消し去り、大地は更にまっ平らなものへと整形されている。


 群れでしか行動できないのか、魔物を失ったとたん、魔族の中枢が逃げようとしていた。

 それを見逃してもらえる程、甘くは無いのだ。


「さあ、お前らの目的を話してもらおうか」


 アルバはプルースを引き連れたまま、逃げようとしていた一人の魔族を取り押さえた。

 他の魔族に関しては、浮かばせていた剣を投球して麻痺させている。


「さ、参報に命令されて、仕方な……く……」

「アルバさん、まだ聞いているのにどうして気絶を」

「プルース、事態は思ったよりも急だ。ステラを助けに向かう――」

「あら、その必要は無いわよ」


 ステラを助けに向かおうとした時、怪しくも高い声が脳裏を焼き付けるように響いた。

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