25 混ぜるな危険に混ぜるな危険を混ぜると調和できると思う時はあるよね
「おい、プルース。危険なやつに危険なやつをぶつけると何が起きるか、知ってるか?」
「何ですか急に? 知るわけないですよ」
「知らないのか、教えてやろう」
「知りたくないので結構です」
プルースが知りたいようなので、アルバはレジカウンターに足を置き、ふぅっと息を吐き出した。
「――話数の文字数が少なくなる」
「初手から何を言ってるんですか! 何いきなり本編入ってもいないのに恐ろしいことを言ってるんですか」
「……あ、本編始まるぞ」
「もう本編なんですよ。あんたが足をカウンターに置いた時点で!」
本編始まる。
これは、本編始まる、とアルバが思うことによって新たな心境を再度芽生えさせる小細工だ。
さっさと始めてください、と言いたげな視線をプルースが送ってくるので、アルバは画面の端をめくった。
世界には、混ぜていいもの、混ぜてはいけないもの、の二つは必ず存在する。
魔法の中にも、賢者以外では混ぜると爆発する、失敗する、とあるはずだ。
そして今、混ぜるな危険と混ぜるな危険が、出会おうとしている。
お店の外は、雨音が鳴り響いていた。
昼夜などの感覚は差し込む光でしか理解できないテルミナだが、天候は正直なのだ。
薄暗い空が世界を覆い隠している時、アドーレ店で二人は出会っていた。
「あら、セキの兄貴お久しぶりね」
「はは。黙れ。その下品な口から出る【自主規制自主規制ピー】は、俺のステラが汚染される」
「私はアルバの兄貴か、そこの七三の子にしか興味が無いわよ」
今目の前で出会ってしまったのは、獣の毛皮を着ているクマナシクマサンことクマサンと、パワハラ汚点頂のステラストーカーことセキだ。
「あの、アルバさん、この人たちは一体何を言っているんですか?」
「安心しろ、ただの変態だ」
「まるで屍のように言うなんて、アルバの兄貴は失礼しちゃうわね」
「クマサンはともかく、セキさんは完全に生きた変態でしかないんだよな」
「アルバ、酷いこと言うなー。まあ、照れ隠しするお前も嫌いじゃないぞ」
「そのいやらしい手つきで俺に触れるな」
「いやらしいとは失礼だな、アルバ。これは由緒正しき、俺がステラを触ったことによって――」
セキが熱く語り始めた。
セキはステラの事を話す時、周囲が見えないほどに熱くなってしまうことがあるのだ。
その全ての内容は一見すれば変態だが、ただのストーカーである。
実際、家族仲で許されているものの、普通に生ゴミに捨てなければいけない存在だ。
ゴミにゴミを混ぜるのはかわいそうなので、一段違ったゴミにするしかないだろう。
セキはいやらしい手つきでアルバの頬に触れていたが、語り終わる頃には自然と腕だけが離れていた。
「セキさん、忘れもんだ」
「えっ、ステラをもんだだと!」
「言うわけがないだろ!」
「言うわけがないだと! つまりは俺に隠れて、俺の! ステラに【自主規制ピー】を白状したも同意義だな!」
セキの手をもぎ取ったので、アルバは勢いよくセキの顔面に投げつけた。
投げつけた腕は見事セキに当たり、不自然な浮き方をしてからブラックホール並みの引力で元の腕にくっついている。
「セキの兄貴ったら、私のアルバの兄貴にべたべたしすぎよ」
「お前のじゃないだろ」
「アルバさん、そういう趣味があったんですね」
「あるわけないだろ!!」
クマサンが無駄に頷くのもあって、プルースは何故か引いている。
アルバの事をホモやホモだと思っているのなら見当違いだが、プルースは後でステラに傷めつけられるに誘導する必要があるようだ。
アルバは一つため息をついた。
「で、セキさんはともかく、なんでクマサンも居るんだ? ノンケからは出禁の筈だが?」
「大丈夫よ、今日はしっかりとお店の前に罠を張っておいたから、誰も入ってこれないもの」
「何さりげなく営業妨害してんだ、この毛皮ストーカー野郎!!」
「別にいいだろ、アルバ。どうせ依頼書をくれだの、武器や魔法を扱えないクレームしか入らないんだ」
「汚点頂のあんたがそれを言うな!」
「……アルバさん、大変そうですね」
「お前はなんでツッコミ放棄してんだ、この灰色七三!」
絶賛、プルースはクマサンに舐めまわされるように触れられているため、プルースも我慢しているのだろう。
プルースは一応、お客さんに対しては優しいので、クマサンをお客だと認めざるを得ないのだ。
とはいえ、アルバからすれば営業妨害をされているのもあって、お客さんだと絶対に認めたくないのだが。
「でも、見ろよアルバ」
呆れていると、セキはカウンターの上に立ち、腕を掲げていた。
「罠の変態クマサンに、むっつりすけべのプルース……そしてステラのストーカーの俺! この三人が一か所に集まって平和し、調和して、音楽を奏でているんだぜ。ああ、音楽って言っても、聖水の方から湧き出る指で掻きまわした音じゃらしっくすぅぅぅううう!!」
「セキさん、あんたはさっさと仕事してくれないか?」
「普段あんたが一番仕事してて、一番仕事してないですよね!?」
セキを蹴り飛ばして天井にめりこませたが、プルースも一応仕留めておいた方がいいのだろうか。
流石にクマサンも怯えているので、力の差は歴然だ。
セキは多く殴っても刺しても問題は無いが、テルミナの一般人であるクマサンはせいぜい人間大砲しか出来ないので困りどころである。
「あら、アルバの兄貴の蹴りを股間に食らうなんて、龍極砕撃は強烈ね。ほれぼれしちゃう」
「なんかこの人ヤバいこと言ってるんですけど!」
「いつものことだ、気にしたいなら気にしておけ」
セキは天井から抜き出て、しゅっと着地した。
毎度無傷なのは、本当に不明すぎる程の堅物だ。
堅物はメガネだけで十分なのだが、セキはそれ以上に本当の意味でも堅い物である。
「アルバ、俺のここはステラをキュンキュンできる程にかだぁあああ!? ダンディーな俺のお稲荷さん、通称ウルトラビッグマグナムに剣がぁあああ!?」
「ご立派ですねー」
「アルバさん、そんなことを言っている場合ですか!」
「そうよね。セキの兄貴の後ろは私が掘るから、あなたたちは前を頼んだわ!」
「任されるわけないだろ! てか、セキさん、その剣って」
「アルバ、それよりも抜いてくれぇえええええぁあああ!」
セキが抜けと言うので抜いたが、セキは悶絶していた。
抜けと言ったのはセキなので、行動的には問題ない筈だ。ただ、ぎゅっと押し込んでから抜いただけで。
抜いた剣には案の定、送り紙が括られている。
「セキさん、今日はサピィと商談だよな?」
「よーし、アルバ、後は任せたぜ」
「ちょっとぉおおおお!! なんでガラスや壁を破壊していくんですか!」
セキは逃げるように、壁を破壊していった。
そして瞬く間もなく、アルバはクマサンに視線を向ける。
「クマサンはどうする?」
「あら、私はセキの兄貴に誘われただけだから、今日はもう行くわ」
そう言ってクマサンは、そそくさとアドーレ店を後にした。
「……あの、アルバさん、今日は変な日でしたね」
「結論、ぶつけ合うと調和されるが、謎に終わるでした」
「あんたは誰に言ってるんですか!」