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23 稽古で息抜きをしてもほどほどに。横、下、斜め下はいつでも入れ込んでおけ

「アルバさん。もう一戦、お願いします」

「プルース、これで何度目だ? 頑張って強くなれるのは物語に選ばれし者だけだぜ?」

「男の友情は熱いねー」


 木刀を持ってもう一度と言わんばかりにかかってくるプルースに、アルバは持っていた木刀を振りかざした。


 鳥の移動種族が鳴く頃、アルバはプルースの背に座り、優雅にお茶を飲んでいた。

 強者しか拝めない景色こそ、実に清々しいものだろう。


「灰色七三、ワンカットの間にボロボロだね」

「ステラちゃん、ワンカットとか言わないでくださいよ……」


 ステラはニコニコしながら言っているが、事実でしかない。

 暗転した瞬間、アルバはプルースをかれこれ数十回は打ちのめしているのだから。

 アルバ程ではないが、何かとプルースも打たれ強いので、アドーレ店のパワハラ注意報での根性論が効いている。


「プルース、何を焦ってんだ?」


 アルバはただ、プルースを見ていたわけじゃない。

 彼の振るう剣には、魂と、想いと、エロさが備わっていたのだから。

 様々な世界を渡ってきたが、プルースと同じほど想いの詰まった剣の太刀筋は滅多にいなかった。

 焦るのがいけないわけではなく、焦る理由を明確にするのが成長には必要だ。

 焦る理由があるからこそ、明確に鍛え上げることが出来る。まるで恋と恋のシーソーゲームのように。


「……あの、この日になるまで、国連の人や、魔連の魔王とかを見てきたわけじゃないですか」

「強引に連れ出したな」

「灰色七三らしくないねー」

「それで、僕に力がないのを実感して、強くならないと、って思ったんですよ。僕の村は確かに、偽りの祈りで滅びる運命でした……でも!」


 起き上がったプルースに振り落とされないよう、アルバはジャンプして回りながらもお茶を嗜んだ。


「今の僕は村の者ではなく……アドーレ店、皆さんの家族なんです!! だから――って、ぎゃぁあああ!?」

「おい、プルース、お前にはあの馬鹿プラスにそこのゴリラと付き合うのは無理だから辞めておけ」

「おっけー。アッちゃん、後でお店の裏に来てねー」


 木刀の先端を指で持ってプルースを振り回せば、ステラから死刑宣告が下された。

 肌を跳ねる雫は、肌を守るって言うのに、柔く貫けてしまいそうだ。


 プルースを地に落とす寸前で、ふわりと浮かすように力を抜いた。


「痛いですよ、アルバさん」

「これは重症だな」

「ツッコまない僕を見て重症とか何なんですか!!」

「これでこそ灰色七三だね」

「そうだなー。それじゃあ、プルース、もう一度刀を持て。セキさんに怒られない程度に教えてやるよ」

「……セキさんの許可が必要なんですか?」

「まあ、お前に直々に教えてんのはあの人だしなー」

「うちとアッちゃんが束になっても、あの人を縛るので精いっぱいだからねー」


 プルースは別に弱いわけでは無いのだ。

 ただ単に、状況に対して不釣り合いなだけであり、彼の土俵であればステラすらも凌ぐほどに活躍できる。


 アルバはプルースと向かいあい、その間に座って観戦しているステラを中心とした。


「プルース、まずお前に必要なのは」

「必要なのは?」

「――必殺技だ」

「何言ってんですかあんたは!? なにがかっこつけて必殺技だよ! あるわけないでしょうこの物語に!」

「おいおい、物語とかメタいことを言うなよ」

「散々メタいことを言ってたあんたには言われたくないですよ」


 プルースは恐らく、必殺技という単語に反応した、エロい子どもだろう。

 指をさしながら怒ってくるプルースに、やれやれ、とアルバはため息を一つこぼした。


 必殺技とは、アルバからすれば隠し技みたいなものだ。

 ぱっと思いついて、主人公がかっこよく見える大技だの、ラスボスが使う小さくも大きな炎技だ、と思った人は一度脳みそを空っぽにして夢を詰め込んだ方がいい。


 プルースに実践で見せるために、木刀を持つ手に力を入れる。


「プルース、歯を食いしばれ」

「歯を食いしばれって――こ、声が……」

「あははー、アッちゃんは練習でも容赦ないねー。普段が真面目じゃないから、不真面目なのが余計にいいねー」


 まず前進して相手との距離を詰める。

 距離が縮んだら下に構えながら脱力をする。

 斜め下から攻撃を振る瞬間に力を入れ、同時に攻撃をする感覚でやるといい。

 つまりはコマンド形式での技打ちだ。


「プルースにわかりやすくいうとなー。まず十字ボタン横、それから下、斜め下の順で入れ込んで置いて、相手の着地に合わせて攻撃ボタンを押す簡単な作業だ」

「何が簡単な作業だ、ですか!? 完全に棒格闘ゲームのコマンドだろそれ!」

「棒格闘ゲームとか何言ってんだよお前……完全にオリジナルに決まってるじゃねぇか。あくまでやるなら、の例えだよ、例えー。その無駄な物が詰まった脳みそで例えが理解できますかー、コノヤロー」

「うんうん、何事にも例えや基準があった方がわかりやすいよねー」

「いやいや、例えって言っておきながら、完全に動きがそれでしたよね? ていうか、どんだけ感情込めてないんですか……」


 プルースには掃除の際にも一度実践しておいたのだが、ちっぽけな脳みそでは理解できなかったようだ。


「仕方ねえな。それじゃあステラ、ちょっとプルースと変わってくれないか?」

「いいよー」

「今度は何をする気ですか? ていうか、ステラちゃんは武器を使わないんですか?」

「ステラは武器使えないから気にしなくていいぞー」


 今日のステラは休日感覚だったようで、水色のストールに似合うように涼しそうな格好となっている。とはいえ、ワンピース型の服装なのは幸いだろう。


「プルース、お前がセキさんに教わっているのと重ねるなら、こうだ」


 ステラが構えた瞬間、横、下から斜め下の感覚で、アルバは刀を振るった。


「……アッちゃん、どうやら死に急いでるみたいだねー」

「あの、アルバさん、ステラちゃんの下から何か、着てたものが落ちてきたんですが……」


 木刀で切ったのはほかでもない、ステラのパンツの端を一か所だけ切ったのだ。

 ステラの足を伝って下りてきたパンツは、なにかとセキに聞いていた通り、オシャンティーである。


 なぜ下着だけが切れたのかは簡単だ。

 距離を詰め、脱力をし、下から上に素肌や布地を傷つけない、まるで開花するように切ったのだから。

 ワンピースの裾が浮かんだ瞬間、アルバは即座に手で抑え、見事に端だけを切る――無駄に洗練された無駄な動きを、見事に完遂したのだ。


 アルバがドヤっていれば、ステラは怪しくも光る笑みを浮かべている。


「灰色七三、応用ねー。攻撃をボタンとは違って、違うボタンを押すのもオススメだよ」

「そうなんですか?」

「ちょっと待てステラ。いーや、俺はにげだっしゃぁああぁい!?」

「一方的に全身無敵で殴り勝てるからー。アッちゃんから貰って気に入ってたのに……直して」

「鬼か、一方的に殴って言うセリフか!」


 足払いされた挙句、宙に浮いた瞬間に無数の拳が飛んできたが、ステラからすれば代償としては安いみたいだ。

 その場で直せる素材だったのもあり、早急に直してから、改めてアルバはプルースと向きあった。


「よし、プルース理解できたか? これが必殺技だ」

「必殺技って言うか、いつも二人がやってることですよね?」

「あのな、大体必殺技は格好をつけるだけじゃなくて、水面が揺れないほど優しくも、確かに相手を仕留められる技でもいいんだ。見栄えを気にしてちゃっ、クリアなんて出来ないぜ? むしろ、ラスボスを半永久的に眠りダネを相方に渡して投げまくってクリアするよりはマシだろ」

「やっぱりゲームの話じゃねぇか! だいたい、お二人は僕に何を求めてるんですか!」


 プルースの問いに、アルバはステラと顔を見合わせた。


「求めてるって言うか、お前は何か勘違いしてないか?」

「勘違いですか?」

「ああ。技の本質はなんであっても、それはそいつを形づける者で、他人から譲り受けて得た(もの)でもあるんだ。俺が神経麻痺を得意としているように、俺から教わる時点で無理すぎだろ?」

「セッちゃんが灰色七三に教えてるのは、あくまで暗殺術だからねー」

「えっ、あの人が教えてたのは暗殺術なんですか?」


 セキはどこまで話していないのだろうか。

 プルースの練習は遅くに行われており、アルバはステラと見ていた時に理解していたほどだ。

 そもそもの話、プルースのツッコミは他とは違い、明らかに重みがあるのだから。


 云うならば、プルースが鬼の種族だからこそ、アルバたちとは違い、一つの行動に力を入れなくても重みがあるのだ。


「家族を影ながら支えているプルースにはお似合いだし、お前がその手を他の意味で汚すのを、俺たちは望んでない。それだけは覚えておけ」

「七三、ここはね、自分らしく居ていい場所だから。私たちと同じくらい、もっと視野を広く、世界を見ることだよ。テルミナは世界の中でも異質だから、移りゆく景色に置いていかれちゃダメだよー」

「アルバさん、ステラちゃん」


 セキから口止めをされていたが、仕方ないだろう。

 プルースは、自ら望んで家族のために強くなろうとしてくれていたのだから。

 必殺技だのと誤魔化しても、いずれは本人が気づくのも時間の問題だった。

 生憎、アドーレ店が、家族が一番大事にしているのは、しつこいようだが家族だ。

 血が繋がっていなくとも、家族が居るから、笑い合い、悲しみ合い、苦楽を共にできる、そんな繋がりがあるのだから。


「そんじゃあ、プルース。休憩も済んだし、実践だ。俺が手本を見せるから、後に続いてステラの下着を全て服を傷つけずに――」

「アッちゃん、面白い冗談を言うねー」

「……アルバさん、僕はもう少し、自分の技を、見直してみます」


 ステラから飛びつき固めをされている際に言わないでほしいが、プルースが選ぶ道に反対するつもりは無い。


「ステラ、技を決めるのは良いが、俺と熱いよるううぉぉぉおああぁあ!?」

「アルバさん、本当は真面目なのに不真面目だから、安心出来るんですよね」

「灰色七三も理解したみたいだねー、アッちゃんの良さを」

「むしろ、なんでセキさんが汚点頂って呼ばれているのか納得ですよ」

「表向きはアッちゃんが店長だからね」

「初耳なんですけどそれ!?」


 ステラとプルースが親しく話している中、アルバは地に倒れながらもステラの服を下から覗き込み、ただただ静かに微笑んだ。


(……なんで変態と同じ終わり方なんだ?)

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