22 好きよ好きよも好きのうち。愛情表現は程々にしないとマンネリで飽きられるのが男の性
「あの、アルバさん、ステラちゃん、本当に大丈夫なんですか?」
「……灰色七三、視界から光を失いたくなかったら黙ることだねー」
アルバとステラは現在、空間粘着によってくっついた距離になっていた。
物理的にくっついているわけでは無いのだが、空気と空気が愛し合う程の粘着性の力により、アルバはステラと一定以上の距離しか取れなくなってしまったのだ。
「まあ、これで今は生活するしかないよな。ステラ、引っ張どるっしゃあぁあ!?」
「アッちゃん、今日は魔物狩りだよー」
「ちょっ、アルバさんが大根おろしになっちゃいますよ!?」
ステラが一気に走り出したのもあり、アルバは絶え間なく地に跳ね、ぶら下がるボロ雑巾へと移り変わっていた。
ヘロヘロになりつつも顔を上げると、そこにあるのは揺れる揺れる、男のユートピアだ。
ステラの携えるそれが見事に揺れているのだが、今それを言ったらアルバ自身がサンドバッグになるのは目に見えていた。
ちょっとロマンティックに鼻の下を伸ばして、アルバはただただ自由なステラを眺めるしかないのだ。
そもそもの話、アルバとステラがくっついたのは、他でもなくセキのせいである。
セキが自室から持ち出した研究品が暴走をし、空間と空間を切り抜き、まるで接着剤のように二人をくっつけたのだから。
アルバが男心を揺らしていると、ステラは目的地についたようだ。
「アッちゃん、仕方ないよねー?」
「ステラ、待て、話せばわかる」
「話せばわかるのー?」
「離して話せば、男心がその豊満なステラの胸を見ていた――ですよえねぇあああ!?」
「おお、いい反発だねー」
「くっついてんだから、半ぱぱぱつもくそそもなないだ……おぉぅ……」
ゴーンとどこからか鐘がなりそうな状態になった時、ステラが勝者となった。
顔面は赤色に染まっているが、自家発電の賜物だと思えば安いものだろう。
ハートとか飛び出そうになっても、ステラだから、とある意味での自暴自棄になっているのはアルバクオリティである。
「アッちゃん、ツッコミ役は不在だから、ちゃんとアッちゃんがツッコミはいれないと駄目だよー」
「魔物を待ってるお前が人を殴りながら、だから、ツッコミの隙があるわけないだろ」
「ふーん、って言ってる割には手つきはえっちだねー」
「そりゃあ、セキさんが星になった今、ステラのストーカーは俺のやくめぇあああ!?」
「ふーん、くたばってもいいんだー」
ステラの胸にさりげなく触れただけだが、ステラは淡々とアルバを処理した。
ゴキブリ並みの生命力を持っているからこそ、ステラからすれば丁度いいサンドバッグか何かなのだろう。
ステラは絶賛ニコニコ顔なので、セキが余程と言ってもいいくらいにストレスを溜めこませたらしい。
「そんなにストレスが溜まってたら、ドキドキしちまうだろ?」
「うーん、アッちゃんと居る時はドキドキしてるから大丈夫だよー」
「って言いながら、俺を振り回すな! なんで下に投げずらっしゃぁああい!?」
移動種族である魔物がルートを通るのが遅いのもあり、アルバは良いようにステラに扱われている。
やり返したところで、セキの命令違反でセキから攻撃をくらうのは目に見えているので、アルバは耐える立場でしかないのだ。そう、必死に耐える、耐える立場でしか他にない。
息を整えていると、遠くまで見える程に遮蔽のない広い大地なのもあって、土煙を携えながらやってくる魔物の群れが見え始めた。
「来たねー。行くよ、アッちゃん」
「行くよってぇ、うおおぉぉいいい!?」
魔物の群れは十数という小規模の、鋭い魚の形状をした地を泳ぐ魔物だ。
名の無い魔物だが、性格的には地から慌ただしくも這いより、ちゃくちゃくと獲物を食らって生き延びるタチの悪い移動種族である。
おかげで依頼書の一つにもなるので、全滅させても問題ないタイプだ。
アルバが魔物を視界に入れてそんなことを思っていた時、アルバの体は飛び上がったステラの影響で水平になっていた。
そして何故か、強引にもステラに足を握られているのだ。
「いっくよー」
「ぐべぇらぁああ!?」
「二体目―」
「ありゃりみすてぃぐぇああ!?」
水から姿を見せるように土の中からとびかかってきた群れを、ステラはアルバを振り回してちゃくちゃくと処理していた。
笑うステラに、振り回されて疲弊するアルバ。
誰がどう見ても、ステラはアルバをバットかなにかと勘違いしている。
アルバは振り回される度に、魔物と熱烈なキスをした。
そのキスは、ステラの振り回す力も相まって、魔物を迷いなく吹き飛ばしているのだが。
「これでー、ラストー」
「ぶべぇらぁあ……」
「あっ、取れたー」
「かい……ほう……され、た……」
「アッちゃーん!?」
最終手段ではあったのだが、ステラが見事なまでに空間を振り回してくれたおかげで、アルバとステラをくっつけていた力は解けていた。
ただし、アルバも同じく解放されて地に落ちた。そして地にへばりながらも、片腕を伸ばし、人差し指を伸ばしておく。
アルバが目を覚ました頃、ステラは目の前で、魚の魔物の肉を入れたであろう鍋を作っていた。
「あ、アッちゃん起きたー」
「ところどころがズタボロで痛いんだが?」
「愛だねー」
「物理的に殴る愛とか恐ろしいわ!? てか、愛情表現が独特にも程があるだろ!」
武器代わりに魔物にぶつけられるのが愛だと言うのなら、歪みに歪んだ愛は無いに等しいだろう。
アルバがため息をついた時、ステラがお皿に盛った汁を差し出してきていた。
「アッちゃん、今日は付き合ってくれたお礼だよー。それに、ボロボロだしねー」
「ありがとう。ボロボロなのは誰のせいだ、誰の」
「うちはただー、アッちゃんを振り回しただけだからー」
「お前が一番怖いわ。まあ、その胸みたいに、脳にも栄養をだぁああっぢぃぃぃい!?」
「デリカシーのカケラもないね。もう。好きなのに……」
ぽつりと呟かれたステラの言葉に、熱い汁を顔面から突っ込む形になったアルバはついぞ気づかなかった。




