21 これが異世界バイトマスターだ
休憩が終わってから、アルバたちは魔王城に来ていた。
「意外と出番が早かった」
「なんでどいつもこいつも初手からメタいんですか?」
「プルース、口が悪くなってるとツッコミの意味がないぞ」
「アッちゃんは灰色七三と違って冷静だねー。エテル、よろよろー」
「……お前らの相手、サピエンスがすればいいだろ……」
「残念ながら、サピィには先約がいるんでな」
サピィに関しては、完全にセキが先約なので手を出すのは不可能と言える。
むしろエテルに関して言えば、ステラが相手なだけマシだと思っていただきたいほどだ。
実際のところ、エテルにはオープニングの手伝いを以前から頼んではいたので、心の準備は出来ているだろう。
「それで、ステラはどういう形で撮る気だ?」
「……考えてからきてくれ。……其方らに脳は無いのか?」
「あの、アルバさん、なんで魔王エテルはこんなにも臆病に?」
「以前は強襲だったけど、今回はしっかりとアポを取ったからだな」
「エテルらしいねー。うーん、まあー、楽しめればいいでしょ!」
エテルは魔王でありながら、危機管理能力の鬼なのもあって、冷静ながらの臆病じみた面も持ち合わせているのだ。
エテルという魔王に対する印象とのギャップ性もあって、種族の頂点に立つほどの人望があるのだろう。
とはいえ、普段は控えめなのに変わりはないので、言葉の刃は見事に刺さるのだが。
「ふむ。今日は種族会議があるのでな、手短にいかせてもらおう」
「なんでやる気なんですか!?」
「エテルだからな。それとプルース、頭に気をつけろよ」
「うちもやっちゃおー!」
案の定、ステラはエテルの剣と魔法が飛び交う中を拳一つで進んでいる。
なびく左ワンサイトアップのピンク髪に、首回りから揺れる水色のストールは、彼女の楽しいを全身で表現している。
無論、ステラが弾いた剣は容赦なく降り注いでいるわけだが。
プルースがひき肉にならないよう、アルバは物質を持たない力を糸に変えて守るのだった。
「久しぶりに楽しめたぞ。其方らとの戯れに退屈は感じぬな。ビオトープ計画の邪魔だけはしないでくれよ……」
「エテル、ありがとー!」
「よーし、プルース、くたばってないで帰るぞー」
「もう、疲れましたよ」
アルバはへばっていたプルースを担ぎ、ステラと共に魔王城を後にした。
登場した人物が何気に全員集合しているが、異世界バイトマスターであるアドーレ店を形作る者たちでもあるので、感謝大放出キャンペーンをしているようなものだ。
家に帰ってから、何個か必要な素材の回収が終わった頃に、アルバたちはセキと合流した。
「セキさん、お帰りなさい」
「おっ、プルース、随分とやつれたな。ほらよ、アルバ、俺はこれで頼んだぞ」
「セッちゃん、やるだけやっておいて、後は全てアッちゃんに丸投げだよねー」
「俺はステラとヤッテも――」
「セキさんがミンチに!? てか、なんでセキさんはいつもステラちゃんの逆鱗に触れるんですか!?」
セキが遅延行為をしたのがいけないので、審判が下ったと思えば安いものだろう。
実際のところ、見せるための必要経費だけを払っているが、収録時間だけで言えば何十時間にもなっているのだから。
アルバはメタさもほどほどにしつつ、セキから貰った記録をパズルのように保管した。
「よーし、ステラ、プルース、完成したからこれを差し込むぞ」
「差し込むってどうするんですか?」
「アッちゃん、ついにやるのね、今ここで――あれを」
「ちょっとテレパシじみた特権を使うぞ」
現在の異世界バイトマスターの記録は以下の通りだ。
一話――挨拶はしっかりするべし。
二話――異世界バイトマスターとは? 困ったら爆発オチはやめておけ。
三話――看板娘はゴリラか美少女か吸血鬼が多い。
四話――強者ほど変態設定が多い。
六話――掃除は自分を磨くためにしろ。
五話目をオープニングにする予定だったのもあり、抜かしてしまっているのだ。
そんな記憶を遡っている時だった。
「ちょっと待てぇぇえい! なんで大胆にも裏事情を暴露してるんですか!? 一応、読んでくださっている人のことを考えているんですか!?」
「灰色七三、真面目で頑なな男はモテないよー?」
「どうせこの物語が投稿される頃には、そもそも書き終わったやつの投稿だから、仕方ねぇんだよ」
「だからそのメタい発言を控えろって言ってるんですよ!?」
進行を邪魔するプルースの事は映す価値無しでも良いだろう。
「なんですか、人が邪魔ものみたいな!」
オープニングが作れたと言う事は、割り込みできるも同意義だ。
毎度毎度、どうせ同じだから見る必要が無いだろうと思ってしまうエンディングやオープニング。と思いきや、エンディング後に差し込まれる次回予告のアニメ……予想外にも程があるだろう。
だからこそ、オープニングやプロローグを途中で差し込んで気になる風にするという手口だ。
「ついには手口って言っちゃったよ、この人!?」
「いいんだよ。読んでくれる人は読むし、読まない人は読まない、見る人は見る、見ない人は見ない、と同じなんだからよー」
「アッちゃんは面倒なのは嫌いだよねー」
上記で見せた話数の配列があっただろう。
そこに今作った五話を、以下のように差し込むことで完成するのだ。
四話――強者ほど変態設定が多い。
五話――【OP】繋がる力が全てとなり、未来となる。
六話――掃除は自分を磨くためにしろ。
「えっ、まさかの二本立てなんですか!」
「プルース、ここまでしておいて、はい、また明日って伸ばされるよりはいいだろ? 俺だってさ、割り込み投稿します、的なことは小数点以下の確率でするんだからよ」
「あの、パロディは極力禁止なんでやめてください。検証をしないで多方面から怒られたくないんで、ツッコミ入れられないんですよ」
「アッちゃん、今日の回は結構メタいし、グダってるよー?」
ステラの言う通り、事は淡々と進んだものの説明でグダっているのは事実だ。
主に七三のせいではあるが、進行が遅れてもグダルのは禁止なので、アルバは頭を働かせた。
思いついた瞬間、アルバはすぐさまカメラ目線へと切り替える。
「今日の割り込み投稿、絶対によ――ぐだるべぇあああ!?」
プルースが容赦のない蹴りを入れてきたのもあり、アルバは勢いよく吹き飛んだ。
「だからそれをやめろって言ってんだよ!? なんであんたはわざわざタブーに触れようとするんですか!?」
「アッちゃんらしいねー」
締りはグダグダだが、オープニング回、長らくお待たせいたしました。