20 見せるものを作るにも時間が必要だ
「よし、オープニングを作るぞ!」
「最初から何言ってんですか、あんたは……」
「アッちゃんらしいねー」
皆様は覚えているだろうか、汚点頂ことセキの登場回の時に、パワハラという名目で異世界バイトマスターのオープニングを作る羽目になったことを。
そのおかげでキャラ紹介を大量にする名目が出来てしまった。しかし、全ては計画通りに進んでいたのだ。
三本の糸を編んで、一つの糸にするように。
「それじゃあ、各自場所は選んだだろ」
「そもそも今回オープニングを作ること自体、初耳なんですが」
プルースの額に血管が浮かび上がっているが仕方ないだろう。
ちなみにプルースに関しては、アルバが先に場所を選んであるので事後報告で問題ないとすら言える。
今回はなんと、作る過程をカットしてお見せしちゃおうのコーナーなので、前編後編の豪華二本立てだ。
「あの、アルバさん……メタい発言や妄想は程々にしてくださいね?」
「それじゃあ時間もないし、予定は以下の通りだ!」
「おー、うちは次話なんだねー」
「だからメタいやり方はやめろって言ってるだろ!?」
今話は、アルバとプルース。
次話でステラ、そしてセキから回収する形だ。
アルバが勝手に全てを作ってしまってもいいのだが、尺的にも短くテンポを優先しようとしたのだ。
その時、ガラスのドアは開き、看板を持った獣の毛皮を来た人物が入店してきた。
「おっ、クマサン来てくれたか! 早速撮るか!」
「ふふ、アルバの兄貴に誘われたら来ない理由は無いわよ」
「あの、アルバさん、看板に『四話目から待っていました』って書いてあるんですけど」
「クマナシさんだからな」
セッティングを終えてから、アルバはカウンターに寄り掛かり、クマサンと対面する形を作った。
その時、クマサンが気色悪すぎたのもあり、アルバは本気で殴った。
見ていたプルースは慌て、ステラはケラケラと笑っている。
オープニング撮影と言っても、全てその場での判断でやるので問題ないだろう。
ほしいのはただ、異世界バイトマスターらしさだ。
「クマサン、協力してくれてありがとうな。これが報酬だ」
「完成を楽しみにしているわよ」
クマサンが立ち去ったのを見送ってから、アルバはプルースの方を見た。
「よし、次はプルースだな」
「僕は何をするか決めてないんですが……」
「アッちゃん、灰色七三はどうするつもりなの?」
「それは俺たちに任せてもらおう」
呼んでもいない来客三名に、アルバは顔を曇らせた。
「おいおい、呼んでもなければ、伝えてすらないぞ? なんでどいつもこいつも出たがるんだよ!」
入店してきたのは、個人個人でいざこざを起こしてくれた国連特別組織だ。
隊長である堅物メガネこと、逆立った黒髪と軍服が特徴的なラデク。
そしてジャムを包んだ紙を加えている、天然ボサツ峠のボサボサ黒髪のジャム男こと、アモウ。
絶賛アモウに剣を向けている、きっちりとした茶髪ショートをした、多数の武器を持ち込んでくれているジンだ。
国連特別組織の中でも面識はある方だが、正直オープニングの相手としては不適切だろう。
「モザイク処理を考えるか」
「誰が放送コードギリギリだゴラァ!」
「そりゃー、あんたが死なないからでっさ。まあ、さっさとくたばってその地位を譲れってことですよ」
「お前は後で殺してやるから待ってろ、このサイコパスが」
「二人共、今は客人として来ている身だ、少しはわきまえたらどうだ」
「あんたが言うか!」
「ラデクさんもですぜ」
ラデクはやる気満々のようで、先ほどから剣をちらちらと輝かせている。
「やる気なのは嬉しいんだけどよ……こいつの撮るから、少し骨が折れるぜ?」
「ふん、その件も含めて、お前らの店長に頼まれてきたんだよ。俺は何も見てねぇ、聞いてねぇ、って言ったんだけどよ」
アモウは口から煙を吐き出し、どこか呆れていた。
セキは確かに今、サティの場所に用があると言って向かっているので、オープニングの件を根回ししていてもおかしくないのだ。
プルースの撮影場所はお店の前にしていたので、アルバとしては問題ない。
だが、出たがり三人衆にため息をつきそうだ。
「それじゃあ、プルース、お前は外だから、死ぬなよ」
「なんで死ぬの前提何ですか!?」
「アルバの兄さん、火薬の準備は出来てますぜ」
「――チキチキ、プルース爆発回を撮るぞ!」
「さっきっから聞いてないんですが!?」
「灰色七三、諦めてねー」
プルースの日常は、色々と周りに引っ張られるようなツッコミ役なので、過激さが満載の撮影となったのだ。
オープニング回で判明はするが、完全に爆発は鮮やかだった。
プルースが良い感じに焦げたのもあり、アルバはステラと一緒に笑っていた。
「久しぶりの遊び、実に愉快だった」
「おっ、ラデク隊長、奢ってくれるんですか」
「おい、今日は帰るぞ。俺らも暇じゃないからな」
「手伝ってくれてありがとうな」
「もう、疲れたんですけど……」
「灰色七三は流石にツッコミを入れる気力がないみたいだねー」
プルースが物理的にも燃え尽きているようなので、ここら辺で休憩を挟んだ方が良いだろう。
実際、最初で息が上がってしまっていては、ステラの枠で疲れが限界に達してしまう可能性もあるのだから。
アルバは棒状に丸めた紙でプルースを叩いて燃えカスを落としつつ、二人を見た。
「休憩したら、ステラの紹介を撮るからな」
「僕、生きて帰れるんですか?」
「家族は守ってやるから安心しろ」
「流石、アッちゃんは心が熱いねー」
異世界バイトマスターはいつだって、希望に溢れているのだ。
その些細な日常の全てが、ネタの宝物庫だと言い切れるほどに。