02 異世界バイトマスターとは? 困ったら爆発オチはやめておけ
「え、なんで二話目が始まってるんですか……?」
プルースはおかしそうに首を傾げている。
「そりゃなんでって、二話があるからに決まってるだろ? あれか、アニメでも毎週放送するなみに用意されてるエロさを知らないのか?」
「何とんでもないことを言ってるんですか?」
「男はエロを求めるロマンティックな生き物さ」
プルースが呆れている中、アルバはカメラ目線を決め、指を突き出した。
「本編、始まるぞ」
「もう終わりだよ!」
下から本編始まります。
「プルース、お便りが届いてたぞ」
「何言ってるんですかアルバさん、お便りが届くわけ……本当に届いてるんですけど!?」
アルバは店番をしている際、ある一通の手紙が届いたので、プルースに振るように見せたら案の定食いつかれていた。
ここ異世界バイトマスターのお店である『アドーレ』は、どこからともなく受信したお便りが極々稀に届くのだ。
届く確率で言えば、切り捨てられた小数点以下の確率で侵入してくるようなものだろう。
プルースは半人前なので、お便りが初めて届いたから好奇心が働いている可能性がある。
アルバからすれば、面倒ごとこの上ないので気乗りはしていない。
「えっと、それじゃあ読みますね」
「いやいや、何読むのを前提で話を進めてんの? あれだよ、読み終わったら最後爆発オチで終わるとかそういうのがあるかもしれないんだ」
「なにふざけたことを言ってるんですか、アルバさん」
ひょうひょうとしているので、これだからプルースは危機管理能力がアルバ含めて他三人よりも低いとされているのだ。
とはいえプルースがやる気なのは評価に値するのもあり、たまには任せてみてもいいだろう。
カウンターを叩いてモールス信号を送れば、プルースはお便りに目をやっている。
「えっと、拝啓アドーレ店様」
「なんで移動店のここの名前を知ってるんだよ!? テルミナで今は羽休めしてるけど、知ることはまずできないからな!」
「そもそも異世界バイトマスターとはなんですか、って書いてありますよ」
プルースが知りたそうな目で見てくるのもあり、アルバは溜め息をこぼしそうだった。
プルースの事も踏まえれば、多少は説明をしても罰は当たらないだろう。
だがアルバの心配はそこではなく、お便りの最後にある。
「なあ、プルース、お便りの文章は本当に、それで最後か?」
「ええ、これ以上は書いてませんよ。アルバさん、セキさんやステラちゃんが居ないのに怖がるなんて珍しいですね」
怖がるも何も、お便りによって出た被害は全てアルバ持ちになるので、警戒するのは当たり前だ。
被害は別件で毎度出しているが、セキに謎のお説教という名の責務を負わされる方が大変なのだから。
「はあ、わざわざ初の二話目だって言うのに、初っ端から設定をたらたらと公開されて、何が楽しいんだって言うんだよ? でもあれだろ、お便りだからやれって」
「メタ発言しないでくださいよ! なんでやる気ないんですか! これだから設定をつらつらと話す会はグダグダだとか、作者の設定自慢語りだとか叩かれるんですよ!」
プルースとだらだら話していても話が進まなくて、既にブラウザバックされているのであろう中、アルバはレジカウンターに片手を置いて飛び越えた。
プルースの隣に立てば、やっとですか、と言いたげな眼差しを向けられている。
誰も見ていなければ、プルースを少しこらしめていた。
「よし、プルース、それじゃあお前が説明してやれ」
「仕方ないですね」
「随分と素直で楽しそうだな。なんだ、話以外だとほとんど雑用が多いからって、その気分転換か?」
プルースが楽しそうなら水を差す必要は無いが、アルバからすればただ単に刺激が足りないと言うものである。
実際、今はお店が閉まっている時間なので、刺激的な騒ぎを多少起こしても問題は無いのだから。
「異世界バイトマスターは、世界での流通や資金源、交流等を目的にしている組織なんですよ」
「違うだろ」
「何が違うんですか?」
呆れたように言われているが、答えてしまっては彼の為にならないだろう。
答えを言うのではなく、あくまでさり気ないアドバイスをして気づかせるのが上の者の役目だ。
とアルバは言いたいところだが、上の者である店長こと汚点頂のセキは国王と従業員にパワハラ、もう一人の家族であるステラは絶賛魔王に契約を持ちかけている強者……この時点でプルースが立場的にも可哀そうだろう。
アルバ自身、店番をしているのは実力を補った上、セキ直々に任されているので権力は高い方だ。
「バイトマスターはそもそも、一つの場所に力が集まるのを防ぐのを目的にした、セキさんが直々に任命した選りすぐりのエリート集団だ、二度と間違えるな」
「なにかっこつけていってるんですか! 食事が鍋になれば戦争するわ、テルミナには何度も来ているとか、完全に一か所に集まってるじゃないですか!」
「ほら、言うだろ? たまには息抜きが大事だって?」
「あんたはいつも息抜きしすぎだよ! どうして真面目にやれないんですか?」
プルースに真面目にやれと言われたところで、接客、仕入れ、依頼書の連携更新、その他諸々を現在一人で回していれば嫌にもなるだろう。
実際、このお店は前面がガラス張りになっているのもあり、油断一つすれば力ずくで侵入し放題の鳥籠だ。
取り揃えているのが、難易度によって金額が変わる依頼書に、食べ物や衣服、剣や魔法の元ともなれば、それ相応のリラックスはしておくべきと言える。
テルミナほど好立地かつ、最悪な立地と言える場所は存在しないので尚更だ。
アルバは一つ息を吐き出し、プルースを見た。
「なあ、プルース、この話のオチを知ってるか?」
「オチですか? わかるわけないじゃないですか。ていうか、さり気なくメタ発言しないでくださいよ」
「甘いな、プルース」
アルバは知っていた、お便りが届いた時点でオチは決まっていたのだと。
「アルバさん、嫌ですが、聞きますよ? この話のオチってなんですか?」
「ふふ、それはな、お便りの条件を達成したからわかるさ」
プルースが持っていたお便りを取り上げれば案の定、アルバは顔を曇らせるしかなかった。
『このお便りは機密情報保持のため、現達成を持って破棄されます』
手に持ったお便りが白く光輝いた時、アルバは黒いサングラスをかけた。
「ちょっ、なんでアルバさぁあああああ!?」
「これだからお便りは嫌なんだよ」
お便りは地を揺らし、店内で爆風を広がせ、お店をガラクタへと仕上げた。
困ったら爆発オチをするのは、本当にいかがなものだろうか。