15 誘導は簡潔に。ただし、取り締まりには注意しろ
アドーレ店にやってくる物好きは後を絶たない。
そして今、アルバは一人の接客をしていた。
「そうですねー。依頼を終えた皆様はよく、このお店から出てすぐそばにある娯楽施設に寄っているようですよ」
「あくまで知らんってことか。ちょっくらい行ってみるわ」
「お気をつけてー」
アドーレ店のすぐそばには、異世界バイトマスターには欠かせないと言っても過言ではない、娯楽施設が待ち構えているのだ。
娯楽施設ではあるが、依頼の達成確認、依頼金の受け渡しを密かにする場所でもある。
アドーレ店で全てを管理しようにも、危険性などを考慮して別々の役割を持たせたのだ。
アドーレ店で依頼書を販売し、娯楽施設で清算を行い、その収益に応じて利益が出る仕組みである。
移動種族の魔物が居るテルミナでしか出来ないのもあって、嗅ぎつかれれば面倒なことこの上ないだろう。
アルバからすれば、魔物を限定したり、依頼書の指名手配を更新したりする方がよっぽど骨の折れる仕事である。
アルバがお客さんを見送った直後だった。
「あの、アルバさん、いい加減その接客はやめませんか?」
「うーん、無理だな。いいか、プルース。俺たちはあくまで商品を売っているお店で、対価になるものの受け渡しはご法度だ。だからこそ、娯楽施設で搾り取る方が効率良いんだよ」
「って、三点方式をなに正々堂々言ってんだぁあ!!」
プルースの言っている通り、三点方式を悪用した手法なのは事実だ。
そもそもの話、アルバたちが依頼書の更新手続きもしているからこそ、受付をある意味挟まない合理的な方法でもある。
倒せなければ残業、依頼書を更新できなければ残業……否、このアドーレ店は地球時間で二十四時間労働だからこそ、全てを担っているのだ。
無人の娯楽施設と上手くやり取りをすることによって、非合理的な手続きは必要ない。
「なあ、プルース、そもそもさ……俺らが倒せる奴をわざわざ金をはたいてんだ。教育ってもんだ」
「なにちょっといい風に言えば誤魔化されると思ってるんですか?」
プルースの額に血管が浮かび上がっているが、仕方のない話だろう。
無論、プルースはアドーレ店の中では見習いなので、言論統制はセキのパワハラによってされている。
アルバがプルースを無視して、接客後のひと息を突こうとした時だった。
「ぐはぁああ!?」
「ジャム男じゃねぇか。サボテンの装飾で何してんだ?」
「なんでこの人はダイナミックガラス割り入店をしてるんですか!」
「あちゃー、仕留めそこないましたかー」
店内にガラスの破片を飛び散らせてダイナミック入店したアモウに続いて、跳ねるような声色が聞こえた。
割れたドアの方を向けば、そこにはきっちりとした茶髪ショートの男が立っている。
まんまるとしていながらの適当な目つきに、きっちりと着こなしている軍服から察して、国連の組織だろう。
「おいおい、ここは一応、お店だぜ?」
「なんであんたが一応をつけてるんですか」
「ジン、てめぇ……今わざとやったろ!?」
「いやいやー、ドアの開け方が分からなかったから試しにアモウさんを殴って解除しただけですよー」
ジンと呼ばれた男は、恐らく階級的にアモウの下に当たるのだろう。それは、上下関係をよく見てきたアルバからすれば一目瞭然だ。
アモウは全身から赤い花を咲かせながら、こちらを見てきた。
「俺らは国連特別組織の者だ。今日は用があってきた」
「国連特別組織さん、お出口はあちらだ」
「用があってきた、って言っただろうが! ってジン、てめぇは何してんだぁ!?」
「なんかおいしそうだったんで買ってるだけですよー」
「お買い上げありがとうございます」
アモウが忙しそうにしている中、横でプルースから買い物をしているジンはマイペースなのだろう。
「まあいい。お前に聞くが、依頼で人を釣ったりしてないだろうな?」
「あー、よく依頼書を買いに来るお客様は、皆様こぞってお店を出てすぐそばの娯楽施設に行きますよ」
「今完全に嘘をつかなかったなてめぇ!!」
「おいおい、ここでの喧嘩はご法度だから、な?」
アモウが首元を掴んできたのもあり、アルバは苦笑するしかなかった。
アモウたちの様子を見るに、恐らくどっかの依頼人が失敗したか、流通先の経路を嗅ぎつかれたのだろう。
嗅ぎつかれたところで、証明できるものはないに等しい。
最終防衛セキュリティを突破できるのは、最終防衛セキュリティだけのように。
ふと気づけば、ジンがプルースに尋ねていた。
「あんたは何か知ってますかー? あそこにいる馬鹿がまともに話してませんがー」
「誰が馬鹿だこらっ!!」
「依頼で対価を出すのはいいんですが、強盗したやつらがこぞって姿を消したと言う噂をー」
「こぞって姿を消したってなんですか?」
プルースが理解できていないのもあり、アルバは正直安心していた。
娯楽施設及び、アドーレ店に強盗に入るというのは、命を支払うようなものなのだから。
「っで、お前らは何も知らねぇ――」
「ちょっ、なんでこの人にナイフの差し入れをしてるんですか!!」
「ラデク隊長に話は通さないといけないんでねー。この人が居ると、あんたらは話す気ないでしょう?」
アモウの頭にナイフをお供えしたのは、こうなりたくなければ、と間接的に伝えているのだろう。
三点方式を利用しているのは許されたとしても、強盗の件に関しては真実を知りたいらしい。
ジンにはステラと同じ雰囲気を感じるのもあり、少々困るのも事実だ。
ジンがプルースに問い詰めようとしている隙に、アルバはポケットからある玉を取り出した。
「そうそう、アルバの兄さん、この店全体に罠を備えさせてもらったんで、逃げるのは諦めた方がいいですぜー」
「逃げるか……面白い冗談だ」
刹那、アルバは外に向かって玉を投げた。
玉が地面にぶつかった瞬間、罠が作動したようで、お店全体が大きく震える程の小規模な爆発が起きている。
「なっ、あんた人のお店に何やってんですか!」
「なにってそりゃあー、立派な犯罪者を捕まえるにゃ、駒を用意するのは定石ですぜ。まあ今話すなら、下から剣を突き刺すくらいで許してやりますよ」
「許す気ねぇだろそれ!」
「プルース、もういい。時間だ」
「こんな時に時間ってなんですか?」
「なっ、なんでまた罠が作動して」
ジンは驚いた様子を隠せていない。
先ほどアルバが投げた玉――それはただの煙玉ではない。
爆発が収まりかけた瞬間、ジンの顔をめがけて空気の玉が飛んできたのだ。
「いってぇな。誰が手を出しやがったんですかー」
「アッちゃん、遅れてごめんねー」
「ステラちゃん!? お出かけしてたんじゃ?」
「おう、ステラ。お前が今踏んでいる人は可哀そうだからやめてやれよ」
ステラは戻ってくるなり、屍のように横たわっていたアモウを踏んでいたので、流石に慈悲を与えるしかなかった。
「へー、あなたが飛びたい人第一候補の人ねー」
「なんですかこのゴリラ――」
「ゴリラじゃないよー、吸血鬼だよー、ア―ユーオッケー?」
「ステラちゃん、その人の首を掴んで言わないであげて!」
ステラはゴリラと言われたのが気にくわなかったようで、ジンとの距離を詰めて首根っこを掴んでいた。
「はーい、一名様空の旅にごあんなーい」
ステラはさっさとジンを引きずり、外に出て空へと投げていた。
投げる方面が王国の方なのは、ステラなりの優しさだろう。
とはいえ、アドーレ店の中でセキの次に武術に長けているステラに投げられる以上、逆紐無しパンジーを無料で味わうようなものだ。
「まさに、誘導は簡潔に、だな」
「いやいや、誘導ができてなかったせいで取り締まりに入られたんですよね?」
「ステラが外の罠を全て解除してるうちに、ジャム男の身ぐるみを全部剥ぐか」
「何変態に仕立て上げようとしてるんですか! それなら、ジャムを体に塗ってあげる方がマシですよ!」
裸体でジャムを塗っている方が変態だと思われるが、食料を確保できることを考えれば、プルースとしては変態の値が下がるのだろう。
アモウが気絶したままなのもあり、アルバはさっさと水責めの刑にして目を強引にも覚まさせた。
「おいゴラァ! なんで水をかけてんだてめぇ!」
「悪いな、ここは俺の寝る場所だ」
「店番をしてる人が寝る場所じゃねぇよ! というか、アルバさんは半覚醒できるでしょう!」
「半覚醒をできたら寝るの禁止とか、鬼すぎだろお前は……」
もはやツッコミがボケなのか不明なプルースには呆れるしかなかった。
「ジャム男、お前らの言っている強盗の行われる場所はセキさんが最終防衛ラインだ。意味が理解出来るよな?」
「国王の言ってる、やべぇ奴が防衛か……俺は何も聞かなかった、見なかった。今日は迷惑をかけたな」
アモウは紙にジャムを塗り、巻紙にしてから火をつけていた。
完全に現実逃避をしているのを見るに、セキの恐ろしさを刻まれているのだろう。
アルバは筒抜けになった外壁を見て、外を見た。
「プルース、国連特別組織とも仲良くなっているが、お前はテルミナに来てどうだ?」
「ふざけた人が多いですが、楽しいところですね」
「そうかそうか。それじゃあ後で、ステラに頼んで魔連にも出向くか」
「なんでさりげなく死刑宣告をしてくるんですか!?」
異世界バイトマスターは様々な世界を巡っているが、テルミナ以上に面白い世界は無いのだ。
魔物という移動種族に、テルミナの王国や魔王城、森などをプルースに体験させてあげたいのは、家族全員共通のエゴだ。




