14 体を休めても、光の下のロマンを求む変態は休まない
「セキさん、ここが許可を取れた場所だ」
「了解」
数日前、アルバはセキと一緒に森の中に出かけていた。
開けた木々の空間は、草花が一本も生えていない、円状の空間が広がっている。
そんな円状の中心にセキは立ち、拳を下に構えた。
「いくぞ――二重の極みぃ! ああぁあああ!!」
「やめろぉおお!? セキさんがネタにハマってるのは分かったから、普通にやってくれ!」
二重の極みを披露されるとは思わないだろう。
セキはもう一度、拳を下に構えた。
「でらっしゃぁああい!」
「結局掛け声が控えめに言ってキモい」
セキが振るった拳は地面を叩いた。
まず最初に、地盤が円状に沿って凹んだ。
次に、じりじりと音が迫り、セキが離れると同時に冷たい水しぶきが宙に跳ね上がる。
以前サピィに許可を取ったこの場所は、湖を生み出すために必要だったのだ。
「アルバ、この水を噴射させたのと同時に、俺は話も貫通させたみたいだ」
「お店に湖を作ったのはお前かよ!? てか、なんで俺が滝を食らうんだ……」
セキに呆れていると、セキは噴き出る水を悲しそうに眺めていた。
「セキさん、どうして悲しそうなんだ?」
「そりゃあよ。ステラの聖水……つまり【自主規制】でふきでぇやぁああ!?」
「今は前書きだから辞めろ!」
セキを水しぶきに投げたところで、本編に移つるぞ。
「こんなところに湖があったんですね」
この日は珍しく、アルバとステラ、プルースとセキのアドーレ店の家族全員で、近場に出来た湖に羽休めをしにきていた。
セキの提案だったのだが、ステラが乗り気だったのはアルバからすれば不思議である。
「まあ、この水はテルミナの地中奥深くの水源を、セキさんが拳で撃ち抜いて湧き出たやつだからな」
「こんくらいは家族の為だ、俺もやるに決まってる。ところでステラ、お前の水着なんだが、こんな――」
「セキさんが飛んだ!?」
「誰のだってー? 殆ど面積ないどころか、面積があっても透明だよねー?」
叫び声が聞こえる間もなく、セキは向こう岸へと水を切って飛んでいた。
ついでに破れて舞う透明なマイクロビキニ。
セキがステラのストーカーは今に始まったことでは無いが、息抜きくらいは手を引くべきだったのだろう。
「よーし、それじゃ今回は上下関係なく遊ぶぞ!!」
「おー」
「なんか、ステラちゃんがすごく棒読みなんでぇぇえ!?」
プルースは案の定、ステラの言い方に触れたのもあり、セキと同じ方面に投げ飛ばされていた。
空は青く、湖は透き通るように光を反射している。
そして今、湖のほとりでアルバはパラソルを差し、サングラスをつけて湖を見ていた。
アルバの隣には、近いのに双眼鏡を持って一人をガン見しているセキが立っている。
「ふん、アルバよ、遊ぶ振りをするとはやるではないか。だが、あの吸血鬼を監視するのは俺の役目だ」
「へっ、揺れる全てを見ているあんたに言われたくないな」
現在、湖の浅瀬でステラは水を手にとっては、宙に投げて遊んでいる。
ステラの大きな胸を揺らすフリルの付いた水着。
吸血鬼の力を持ちながらも人間であるステラは、よく引き締まった贅肉に、容姿端麗とも言えるその姿は男共の血液を潤すには最適だ。
普段は左ワンサイドアップのピンクの髪も、今はポニーテールでまとめられており、自然とくぎ付けになるものだろう。
隣で鼻の下を伸ばし、真剣にガン見しているセキの姿から察せるくらいに、ステラは魅力的なのだ。
流石は看板娘、と言いたいが、ステラを見て自家発電をするセキはいつものことなので説得力は皆無である。
ステラの柔肌に付いた水が水面にはねた瞬間、視界が真っ暗になった。
「あれ、俺のサングラスはここまで暗くな――」
「ふん、あの揺れ動く全てを見れなくなるとはなさけな……俺の双眼鏡も見えな――」
「ねー、何をやってるのかなー? そういえばー、古代には水責めっていう拷問があるんだよー」
その瞬間、アルバとセキは同時に天を見た。
上から降り注ぐ水滴は、見ている全てが真実だと伝えてくる。
「すいませんでだぁああ!?」
「ステラに飛ばされるのは最高だなぁああ??」
「なんでアルバさんとセキさんは学ばないんですか!! というかセキさんは何で喜んでいるんですか!?」
水と戯れずに湖の近くにある砂で山を作っていたプルースは、騒ぎを察して手を止めていたらしい。
ぷかぷかと水面に浮かぶ中、上から覗き込んでくるステラの瞳は明らかに赤かった。
「ふん、プルースよ、男は時に性を謳歌する生き物だ。それはたと――あっばばば、がばぼぼ……」
「ステラ、光が半減されるんだが?」
「こうなりたいの?」
「いえ、滅相もございません」
絶賛、ステラの手によって湖に頭を沈められているセキを見て、同じく沈められたいと思うもの好きはいないだろう。否、セキという存在はご褒美として欲するだろう。
アルバからすれば、ぷかぷかと水面に浮かぶ中、上から視界の半分以上を隠してくるステラのたわわを見ている方が安全と言える。
フリルがあるとはいえ、下から覗くそれは男にとっての至宝だ。
刹那、ステラに溺れさせられていたセキが勢いよく頭を上げた。
「ステラお前、あの時よりでかくなったそれをアルバに見られてていいのか? そいつにその美にゅぅぁああ!? ……見られるくらいなら俺にぃいいい!?」
「変態は黙ってねー! アルバは別にいいんだよー。時次第では後で始末するからねー」
「なんで死刑宣告された?」
無論、ただではすまなかったようだ。
セキが湖から解放された後、水で遊ぶステラを見つつ、男は三人で砂と戯れていた。
戯れていたのだが、実に砂というのは偉いものだろう。
「ふっ、この形、ボリューム、その全てが完璧だな」
「セキさん、あんたは一体何を作ってるんですか!?」
「おーい、ステ――」
「アルバ、お前にも見てわかるだろ。この上に赤き……ピンクの果実を置けば、男のロマンなんだと」
「なんで格好をつけて言ってんだ。控えめにいってゴミだ」
今目の前に作られた砂の模型は、実に正確なサイズとも言える大きめな山だ。
それは誰がなんと言おうと、完全にモデルがあると断言できる山である。
山を見て、湖を見れば、そのモデルは一目瞭然だ。
アルバは揺れる全てを見てから、顔を手で覆い隠した。
「むっつりアルバは置いておいて。プルース、此処にこれを置いて完成だ」
「セキさん、知らないですよ」
出来上がった山の頂点に添えられたのは、ピンクの宝石だ。
流石にセキは大きさを……否、この人は水浴びであろうと、隙あらば覗く存在である。
完璧に再現されてしまったそれを、アルバは正直直視できなかった。
直視する間もなく、見ていた男二人は、湖から近寄ってきた存在によって頭を鷲掴みにされている。
「セッちゃん、灰色七三、覚悟はできてるー?」
「ステラちゃん、この卑猥な建造物を作ったのはセキさんだからぁあああ!?」
「男のロマンがべちょりああぁああ!?」
「容赦ないな」
努力とは、ひと時に吹く風で潰されるのだ。
地面に突き刺さり、砂山を吹き飛ばしたセキとプルースを見て否定できるはずもない。
二人の頭を鷲掴みにしたまま頬を赤くしているステラは、恐らく完成度的にも水着に隠された秘宝が眠っていたのだろう。
「アッちゃん、妄想次第ではこーだよー?」
「そうですかー」
アルバ自身、ステラに見逃されているのは不思議だが、今回はボケ二人が潰されまくっているのは安全そのものだろう。
セキの作戦は最終段階に移っていた。
あれだけのことをされて尚、普通に湖で遊んでいるステラは健気なものだろう。
目の前のセキが持つ、金色に塗られた筒と二つの玉が付いた銃が無ければの話だ。
「セキさん、その卑猥の物体はなんですか? 筒なのは百歩ゆずって許しますが、テンテンみたいな形は流石に不味いですよ!!」
「そ、それは!?」
「アルバさん、知ってるんですか?」
「ゴールデンボールネオジムジェットゴールデンシューターじゃないか。実在してんだな」
「なんでゴールデンって二回言ったんですか? そもそも、ゴールデンシューターってなんだよ!?」
ゴールデンネオジムジェットゴールデンシューター。それはある世界で、水着を着た吸血鬼の柔らかな秘宝を露わにしたと言われる、伝説の水鉄砲だ。
「なんで頭の中に直接流してくるんですか!」
「説明は長い程飽きられるぞ」
「誰に言ってるんですかあんたは! てか、そんな卑猥な武器、早くセキさんを止め――」
プルースの発言も虚しく、セキはステラをロックオンしている。
構える位置が下なのを見るに、完全にステラの身長的には胸の位置だ。
「三、二、一、はっしゃぁあああ!!」
「はっしゃぁお!」
「なんでノリノリなんですか! ってあああ!?」
プルースの叫びは虚しく、既に発射された水の弾丸はステラの柔肌を隠す布を裂くために空を切っている。
刹那、空気が震えた。
「ぶべらぁああ!?」
「二人共、ちょっとふざけすぎだねー。ついでに、鼻の下を伸ばしている灰色七三」
とステラは言っているが、弾かれた水はアルバを貫いていた。
飛んできた水の圧力により、アルバは貫かれると同時に後ろに吹き飛んでいる。
水は弾かれたものの、ステラの胸を隠す水着の横部分だけでも切ったようで、水着は不安定な布へと変わっていた。
「ちっ、紐を切っただけか。まあ、試作品にしては上出来だな。よくやった、戻――」
「ステラちゃん、僕はちが――」
「問答無用だねー!!」
お盛んすぎた行為はステラを刺激したらしく、セキとプルースは仲良く、ステラの手によって湖の上で天日干しされている。
アルバが起き上がって畔に近づけば、頭には柔らかくもずっしりとした確かな重さがかかっている。
水着の布の感触含め、ステラの胸は確かに、アルバの頭の上に乗っけられているのだ。
「ステラ、なんで俺は許されてるんだ?」
肩に置かれた自分よりもひと回り小さな手に、確かに当たる感触が全てを理解させてきている。
「それはねー、ひみつー。うちは優しいから」
「今だけは感謝するな。手を上に伸ばしながら、上向いていいかー?」
「遺言残さずに記憶を消すよー」
変態が休めば、その世界は静かな平穏を保ち、季節の無いテルミナにおいて、確かな夏を感じさせてくるようだ。
アルバにとっては、心の揺れが晴れた空色ではあった。




