12 聞いて失敗しないよりも、失敗して学ぶことの方が大きい
「ぜんかいのー、あ・ら・す・じ! それじゃあ、プルース頼んだ!」
「アルバさん、なんで僕なんですか……」
プルースは不服のようだ。それでもやる気を見せているのは、ある意味職業病なのかもしれない。
「前回、アルバさんと僕はテルミナの王国に存在する、国連特別組織の方々に捕まってました。それでまあ――」
「ラデクって言う堅物メガネが何を隠してるか知らんが、ぶっ飛ばすってところだ!」
「色々と端折りすぎだろ!?」
「そんじゃあ、本編始まるぞ」
「もう、いいです……」
アルバは、セキとプルース、ステラと共に、自身を捕えていたラデクと対面していた。
アルバ自身、縄は抜けようとすれば抜けられたが、敢えて待っていたのだ。
そして今ラデクは、床に剣を刺して立ち上がっている。
「俺は国連特別組織隊長、ラデク・ド・ウーヌス。俺が直々に引導を渡してやろう」
「アルバ、特別に許可する」
「どうも、セキさん」
本来、アルバは神経を麻痺させる急所を狙い打つことで、無駄な殺生を避けていたのだ。
ただし今回に限って、セキから許可が出たからこそ、使う予定が無かった武器を使う時が来たと言える。
「ここでやると被害がでかくなりそうだな。堅物メガネ、外に出ようかゴラァ!」
「なにっ!」
「何をやってるんですかあんたは!? なんで被害がでかくなるって言って蹴り飛ばしてるんですか!」
アルバが瞬時に距離を詰めてラデクを蹴り飛ばせば、空気が歪んだ。
ラデクの姿が国外の平原に飛んだ時、髪は揺れ、肌は風を受けている。
暴れなびくコートの袖は、一撃の蹴りを伝えているのだ。
瞬時、アルバは姿勢を低くして、宙に開いた風穴に飛び込んでいく。
「先に行ってるな」
「ほら、プルースにステラ、お前らもアルバを追いかけようぜ」
三人が後ろから追いかけてくる中、アルバは更地になっている平原に辿り着いた。
案の定というか、蹴り飛ばされたラデクは受け身を取れなかったようだ。
頭から地に突き刺さているのは、彼が頑丈の証拠だろう。
堅物は時に弾丸となる。それを覚えておけば、人は空を飛べるのだ。
追いかけてきたセキたちが地に着地したのと同じくして、ラデクは地から頭を抜いていた。
軍服に付いた土埃を払う仕草は、完全にお怒りのようだ。
「ほう、不意打ちとはやるな。武器を持つ猶予くらいは与えてやろう」
「それはどうも」
堅物メガネは堅実だ。
自身の剣を抜いておきながら、相手をわざわざ待つのだから。
理不尽に捕まえてくれたお詫び、と言ったところだろう。
ラデクが先ほどの話を聞いていたのであれば、アルバは武器を使うと知っているはずだ。
ラデクの持つ、国王であるサピィが直々に与えたその剣は、孫序其処らの武器では相手にすらならない、硬度も兼ね備えた高度な作りである。
アルバはテルミナに古い時からやってきているからこそ、知っているのだ。
風が騒がしく肌を撫でる時、腕は自然と前にでる。
「確かにお前は、このテルミナ全土で見るなら強い方だろうな。でも、本来の本質を見誤った者の持つ剣は――泣いているんだ」
彼には失敗が必要だ。
敵に回す必要が無いアルバたちを敵に回し、自らのエゴで特攻してしまった、この事実を。
物体を持たないエネルギーはアルバの手の中央に集まり、刀の形を顕現させた。
軽く振るう空気は、今までに無いほど重い。
「なるほど、貴様も剣の使い手だったというわけか、だから俺の剣を見抜いたと。相手にとって不足は――」
刹那、ラデクの剣先は宙を舞った。
折れた剣先が地に刺さった時、ラデクは土煙を立てて倒れている。
「悪いな、長話は飽きられるんだ」
「なにやってるんですかアルバさん! なんで不意打ちで倒してるんですか!」
「遅かったからな。俺はわざわざ三分間舞いを踊ろうか悩んだんだぞ!」
「アッちゃん、本音を隠してるねー」
「それじゃあ、アルバ、プルース、ステラ。そいつが起きたら、例の場所に来い」
起きたら、と言うのを見るに、セキも優しいものだろう。
アルバはプルースの会話を適当に返したが、実際は違うのだ。
ラデクの持つ剣は本来、仲間を守るために国王であるサピィが直々に託した剣の一つである。
ラデクが今回の件で何を血迷ったのかは不明だが、剣が泣いていたのは事実だ。
だからこそアルバは、剣が錆びる前にその命を絶った、元ある品の形として。
異世界バイトマスターにとって、守るものの形は重要である。
自身の刀を解除した時、ラデクは目が覚めたようだ。
「負けたのか、俺は」
「あ、アルバさん」
「別に、悪い事は言わねぇよ」
自身の顔を軍手で覆い隠しているラデクの横に、アルバは腰をかけた。
「なんだ、無様に負けた俺を笑うつもりか?」
「そんなんじゃない。ただ」
「ただ、なんだ?」
「俺は家族を守るために、この武器は振るうだけだ。お前が隊長だって云うなら、その剣は先陣を切って、仲間を鼓舞するために使うんだな」
「……それが言いたかっただけか?」
「ああ。移動種族もそうだけどよ、指揮官である頭を失ったとしても、あいつらはあいつらなりの種族としての蘇生術があるんだ。隊長であるお前が、それを見失ったら駄目だろ?」
「アッちゃん」
「アルバさん」
話は終わりだ。
セキからパワハラを受けないうちに、やるべきことがある。
アルバは立ち上がると同時に、ラデクの頭を鷲掴みにした。
「よし、プルース、ステラ、行くぞ!」
「おい、なぜ俺の頭を――」
「ちょっ、アルバさん、何も言わずにこの人を乗り物にするのはやめてあげてくださいよ!」
「おー、大砲玉は速いねー」
ラデクを勢いよく投げると同時にアルバたちは騎乗した。
堅物メガネはやはり、投げるに限るだろう。
弾丸ラデクは城の壁を突き破り、なんなくと国王の居る室内に入ることが出来た。
無論、大雑把な登場の仕方なのもあって、護衛兵に取り囲まれているのだが。
そして今、目の前にはセキの背があり、そのすぐ前には椅子に座る白髪に白い瞳を持った威風の風貌たる存在が居る。
「おっ、来たな」
「こ、国王サピエンス様、このご無礼大変申し訳ございません。この命に代えて、罪を……」
「ラデク、よくやった。其方は下がってもよい」
「はっ」
ラデクは国王であるサピエンス――通称サピィに頭を下げてから、すぐさま室内を後にした。
ラデクには悪い事をしたが、敵意が無いことを武で示すには丁度いいものだろう。
その時、プルースが傍に近寄ってきていた。
「あの、アルバさん……あのお方は?」
「あれー、灰色七三に言ってないの?」
「あいつはサピエンス。サピィって呼ばれる、王国及び国連……魔連の魔王と対をなす存在の、国王さ」
上品な椅子に座っているサピィは、誰がどう見ても子どものような若い容姿をしている。
だとしても、紛れもなくこの国の国王であり、テルミナ全域に名を周知させる程の実力者だ。移動種族の魔物ですら、彼を知らない例外はいないだろう。
サピィはラフな格好ながら、肩に付けたマントを横に揺らしてみせた。
「汝らの話は聞いている。そこのセキからな」
「話を聞いた上で、俺の可愛い家族に手を出したんだ、サピエンス……わかってるな?」
「アルバには丁度いい余興だっただろうに。われちの特別組織の子は可愛かったやろ?」
サピィはセキに負けず劣らずの、家族――テルミナを守ることを信念にしているのだ。
「サピエンスの紹介は後でしてやるから、以前からの件は可決させてもらおうか」
「あの土地は問題がな――相変わらず暴力的やなー」
「おっと、わりぃ、手が滑っちまった」
「セキさん、交渉中に何してるんですか!?」
セキが軽く腕を前に出せば、サピィの横を風穴が通りすぎ、壁に大きな穴をあけていた。
今まで王国の方から立ち昇っていた大きな土煙は、セキがサピィに交渉という名の喧嘩を吹っかけていたせいだ。
「いやいや、セキさん、交渉はこうしぐべぇあぁあ!?」
「てめぇは何やってんだ! アルバさん、あんたはなんで国王の頭に花を活けてるんですか!」
「アッちゃん、サピィと久しぶりに敢えて羽目を外してるねー」
「よいよい。セキや、また一人、賑やかな家族に恵まれたの」
「へっ、俺の自慢の家族だからな」
セキが自慢げにしていると、サピィは笑みを見せた気がした。
サピィは国王でありながら、人前ではあまり感情を揺らすことがないので、表情の筋肉が動くのは基本的に無いのだ。
正々堂々とし、国を愛する立場だからこそ、常に百の顔を持つような存在である。
「セキよ、言っておくが、其方らの求めているエネルギーはこの世界にまだ、顕現しておらんぞ」
「流れ着いていることが事実なだけで十分だ。で、さっきの件は交渉成立でいいよな? じゃなきゃ、こっちも家族に手をかけられたわけで、お前の部下の失態を全て返してもらうことになる」
「好きにするがよい。われちは忙しい、さっさと帰るのだ」
刹那、アルバたちの立っていた場所は細切れに切断されたのだ。
「なっ、こらサピエンス、話は終わってないぞ!」
「特別組織はあんな奴らの集まり会じゃが、なかようしとうてな」
「ステラ、プルース、死ぬなよー」
「うちは飛べるからー」
「なんでこうなるんですか!?」
テルミナにきた目的の一つは達成したようだ。
半壊したボロボロの城を、アルバたちは後にした。
小さな土地を得る、その仕入れを得て。




