11 守ることが出来ない奴にそもそも守るものはない
「おいおい、俺をさらって拉致監禁ですかこの野郎?」
この日、アルバは絶賛掴まっていた。
椅子にぐるぐる巻きで縛り付けられたロープはイヤらしく、表面が亀甲縛りとなっている。
目の前に居る、逆立った黒髪の彼は特殊性癖の持ち主だろうか。
「アドーレ店の店員、アルバだな。お前の素性は割れている」
「いやー、俺も有名人になったもんですなー。すまんな、サインはあげてないんだ」
「誰がサインを欲しがるか!」
どうやら彼はツッコミ属性のようだ。
プルースが居ないとツッコミに回らないといけないのだが、どうやら安心してボケてもいいらしい。
アルバと彼を挟んだ位置には、横に長いテーブルがある。
テーブルにはガラスのコップと、粉の入った袋が置かれていた。
ライトが備え付けられていれば雰囲気的には完璧だったのが、彼は考慮と言うものを知らないのだろうか。
煽られて気にくわないのか、彼はテーブルに組んだ手を乗せて拳を握り締めている。
その手は特殊グローブを着用している。
全体的に見ると彼の服装は軍服を主にしているので、王国に存在する国連の者で間違いないだろう。
「自己紹介がまだだったな」
「人を縛っておいて自己紹介とはずいぶんと良いゴミ分ですなー」
「一方的に知っているのも不公平だろ? ラデク・ド・ウーヌス……それが俺の名だ」
「おい堅物メガネ、主張が激しんだよ。それよりも、さっさとこの縄を解くんだな」
「誰が堅物メガネだ! まあいい、俺直々に尋問しているんだ、感謝することだな」
尋問に感謝する者は、変わり者しか居ないだろう。
アルバ自身、ただ一つの覚悟以外は何をされても話す気はないが、乗ってみた方が良いと感じている。
実際、ただ単に薄暗い部屋の中……ましてや体を縛られているのもあっていつものノリが出来ないのもあり、アルバのコメディ的には減点状態なのだから。
相手を探っている時、それは自分も探られている時だと、ラデクは知らないのだろう。
「では聞く、このテルミナに貴様らは何しに来ている」
「そりゃあ、規模はでっかく、あるエネルギーが流れ着いたのを察してきただけだ」
あるエネルギーとは名称不明なのもあり、アルバたち家族は『未知のエネルギー』と呼んでいる。
返答がよくなかったのか、ラデクは額に血管を浮かび上がらせている。
何もしていないのに怒りかけているのは、発情期そのものだろう。
思春期でも親にエロ本が見つかって慌てるくらいでも、逆ギレはそうそうしないと思われるが。
「俺を前にして嘘をつくとは、覚悟ができているんだろうな!!」
「なんで怒ってんだよ! ふざけんな、全ててめぇの都合で話の断捨離選択してんじゃねぇぞ!」
アルバ自身、本当に嘘はついていないのだ。
未知のエネルギーを探すために、セキと共に様々な世界を巡り、ステラ、プルースと共に行動をするようになった真実があるのだから。
ラデクは剣を向け、完全に牽制してきている。
どこからともなく取りだされた剣は、両刃となっている洋風の剣だ。
剣の持ち手にはある特徴的な紋様が掘られており、アルバはそれが目についた。
「……その剣、サピィは元気かい? まあ、セキさんが会いに行って爆発してる時点で元気だよな」
瞬時、アルバの首元に剣先が光る。
「忠誠を誓った主の名を気安く呼ぶとは――その命、高くつくぞ」
「ふっ、剣の持ち手に掘られている……丸を中心に重なり合うバツ印は、いつの日か聞いた国連特別組織のだな。なんだなんだ、恥ずかしがり屋か?」
ラデクは剣をジロジロと見られるのが嫌だったのか、鞘に納めている。
刹那、ラデクは目にも止まらぬ速さで水の入ったコップに、置いてあった粉を混ぜたのだ。
目の前に置かれたコップは、明らかに粉が水の中を舞っている。
「飲め」
「おう!」
「なんで飲んでんだお前は!! 何が、おう、だ! そもそもどうやって縄に縛られているのにコップの水を飲んだ!?」
飲めと言われたからアルバは飲んだのだが、ラデクはそれが気にくわないのだろうか。
普通に考えれば、朝から水を飲む時間がなかったのだから、たとえ粉が入っていようと飲むだろう。
「ふっ、だがな、さっき入れた粉は――」
「おっ、これは移動種族が時折持っている毒だな。粉状にすれば人体に悪影響を及ぼす、実にいい判断だなー」
「……なんで毒が入っているのに効いてないんだ、貴様ぁぁあ!?」
先ほどの堅物の余裕はどこに置いてきたのだろうか。
ちなみにアルバは、様々な世界で営業をしていたのもあり、人間ながらも多くの毒の抗体を持っているのだ。
毒の抗体を持っているというよりも、セキにところ構わず毒ハラをされたせいで耐性が付いただけに過ぎないが。
盛られていた毒は、体が熱くなって嘘をつけず、真実を吐きまくることで体が冷める不思議な成分を持ったものだ。
そんな毒を使わなくてもアルバは嘘をつかないのだが、ラデクの脳内工場がスクラップの拠り所すぎて理解できなかったのだろう。
「生憎、俺には一つの毒以外は殆ど効かないものなんでな」
「ふっ、はっはっはっ」
「おいおい、ついには頭のネジすらも溶けたのか? もしくは固く締めすぎて、パーツにヒビでも入ったか?」
不気味な笑い声をあげたラデクを不思議に思っていると、ラデクは再度剣先を向けてきた。
剣先の傾きから見るに、今度は嘘無しだろう。
「貴様は国連、王国にとって危険な存在と判断した。最後に、遺言でも聞いておいてやろう」
「遺言か……ははっ」
「なにがおかしい!」
ラデクは堅物だというのに、少しキャラがブレてしまっているのではないだろうか。
「お前に教えておいてやる。国を覚悟持って守りたいなら……まずは身近にいる奴らを守れるようにすることだ。――俺は、家族を守るためにここにいるんだ」
言い切った時、後ろからヒビの生える音がした。
「よく言った、アルバ!」
「アルバさん、仕事をほっぽり出さないでくださいよ」
「アッちゃん、待ったー?」
「うぎゃぁああ!?」
アルバが勢いよく椅子ごと吹き飛ばされれば、暗い部屋の中には光が差し込んだ。
崩れ去った壁の煙が収まると、セキとプルース、ステラの姿がそこにある。
「すまないな、アルバ。プルースを先に助けてたら遅れちまった」
「助けたと言うか、王国内を一直線で全て破壊して回った人が何を言ってるんですか!!」
セキは相変わらず派手に壁を破壊したらしい。
国王のサピィが黙っているとは到底思えないが、セキが行動している時点で話はついているのだろう。
セキは普段ステラのストーカーやら、酷なパワハラをしてくるが、家族を守るとなれば誰よりも心強い存在なのだ。
「面倒なやつが現れてくれたもんだ。仕方ない、あいでぇ――」
アルバは縄を自力でほどき、ラデクの股間に宝玉砕きを叩きこんだ。
瞬間、ラデクの顔は真っ青になり、金的を抑えながら倒れ込んでいる。
「言葉は一行でまとめろ、ア―ユーオッケー?」
「アルバさん、その人が喋ってるのに金的を蹴るとか何をしてるんですか!?」
「そこに股間があった、ただそれだけだ」
職業病とは恐ろしいことに、ボケを挟むルールを守らせてくるのだ。
「はあ、一話制の俺たちの話を伸ばしてくれたんだ……覚悟できてんだろうなぁ?」
「気にするところそこじゃねぇだろ! なんでメタいことをアルバさんは言ってるんですか!」
守るべき家族が集結、そして国連特別組織の存在であるラデクは真っ青に……次回の朗報は寝て待て。




