8
数日ぶりの顔合わせは、とても気まずかった。
お互いに「どうも」と挨拶をして、座るように声をかけられてフカフカのソファーに腰をかける。
今回は、流石に応接間だった。
肺炎になって寝込んだ。と聞いたから最低限の以下の以下のそのまた以下の気遣いはしてくれたようだ。
「……」
無言でメイドがお茶をテーブルの上に用意してくれた。
今回はちゃんと用意してくれた!
私はとても嬉しかった。
「あら、今回はちゃんとお茶が出るんですね!」
「……」
嬉しくなってジークムントに笑顔で言うと、彼は無言で固まっていた。
なんか、嫌味を言われてどう返せばいいかわからない。みたいな顔をしている。
思った事を言っただけなのに。
じっと、ジークムントを見つめていると、気まずそうに咳払いした。
私は、何だか落ち着かなくて、紅茶を口に含んだ。
口の中に広がるざらりとした感覚。これは、砂場で勢いよく転んだ時に経験した。あれだ。
「……っ!」
吹き出しそうになる。紅茶の中には砂が入っていたのだ。
私はハンカチで口を押さえてこっそりと吐き出した。
ジークムントは、というと顔色を変えずにお茶を飲んでいるので、彼のカップには砂が入っていないようだ。
私は誰にも触られないようにカップを握りしめた。
ここの使用人は、客人に嫌がらせをするのがおもてなしだと思っているのだろうか。
「入ってきてくれ」
ジークムントの一言と共に、あの時にジークムントを「アルネが呼んでいるから」と連れ出したメイドたちがゾロゾロとやってきた。
「聞き取り調査をしたんだが、お互いの言い分が食い違っていて、一度ちゃんと話し合いをした方がいいと思って」
この男は何を言っているのか。
脳みそに筋肉しかなくて、考える事をやめてしまったのだろうか。
「お前は、いじめの加害者と被害者が仲良く話し合いをしたらいじめがなくなると思っているのか?」
「あの、だから話し合おうと言っている
ジークムントは、なおも平和的な話し合いをしようと言い出す。
彼は瘴気を祓う旅で、こうやって問題を解決してきたのだろう。
でも、それができるのは善良な相手だけだ。
「確かに、加害者が睨みつけたら被害者は何も言えずに黙ります。報復が怖いから。まあ、訴えがなくなったらいじめはなくなりますね。表面上は、……あなた達のお望み通りですね」
どうせもみ消すつもりで、こうやってるんだろう?と、笑顔で言うとジークムントはショックを受けた顔をした。
なぜだ。わざとやっているんじゃないのか。
「も、申し訳ありません。私の勘違いでした。お嬢様が暴れたもの、たまたまポットが当たっただけでした。ですが、数時間待たせたのは思い当たることがありません。でも、罰は受けます」
凄くいやらしい言い訳だ。
暴れたは、勘違いかもしれない。私を待たせたことは、証明のしようがないので「思い当たることがない」と言い切り。
でも、自分が悪い。罰を受ける。と言い。
まるで、私が理不尽なことで怒っているとジークムントに印象づけようとしているように見える。
ジークムントは、どちらの言うことが正しいのかと私とメイドたちの顔を見比べている。
「……っ、な、なんで、あのう」
そこに、一人の女性一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに申し訳なさそうな表情になり応接間に入ってきた。
髪の毛は、白髪。目の色は紫色で、その外見的な特徴は聖女様そのものだ。
たぶん、聖女なんだと思う。
間近で見た聖女を見た感想は、「がっかりした」これに尽きる。
なぜなら、姉が絶世の美女だから、その存在が霞むから、勝負にすらなっていない。この女は不戦敗だ。
姉がいなかったら、その次くらいには美人だとは思うけれど、女神と山姥を比べても山姥が哀れになるだけだ。
「アルネ。来たのか」
ジークムントは、アルネが来たことに少し驚いている様子だった。
というか、顔合わせの場になぜこの女は、ノコノコとやってきたのか。
「……私からお願いしたいのですが、どうか許して貰えないでしょうか?」
アルネは、メイドの前に立ち叶えられて当然だと言わんばかりの「お願い」を言ってきた。
……何を言っているんだ?このクソ山姥は。