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転生悪女の妹は無双する  作者: 産婆の呼吸ラマーズ法
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 どれだけ待たせる気なのか、ジークムントは戻る気配がない。

 それに、どれだけ周囲を見渡しても誰も通りかからないのだ。

 私は忘れ去られた存在なのか、このまま餓死にするかも知れない。


「アルネ嬢に何かあったって話してたけど」

 

 アルネお嬢様。とは、聖女の名前で、彼女はジークムントの兄のクラウスと婚約している。

 年齢は確か、姉と同い年の21歳だったはずだ。

 元はどこかの貴族の子女だったが、両親を亡くして叔父が家を引き継ぐことになり、「色々」とあったらしくバーナー家がお世話をしているようだ。

 バーナー公爵夫人とアルネの母が親友同士で、そうした面もあって家族同然として暮らしている。

 クラウスの強い希望もあって婚約者になったらしい。

 そして、バーナー家で幸せに暮らしていたアルネに、ある日不思議な現象が起こる。

 聖なる力に目覚めて聖女になったそうだ。

 その後の功績はわざわざ説明する必要もない。誰もが知っているのだから。

 凄いな。とは思う。感謝もしている。

 感謝はするが、必要以上に謙って卑屈になる必要もないと私は思うのだ。

 だから、私はジークムントをリスペクトを崇拝する気は全くない。

 気に入らないからそうするではない。


「あの噂本当なのかしら?」


 ジークムントは、アルネに恋をしている。という噂が社交界の一部である。

 幼少期から一緒に過ごしている事、同行者が何人もいるとはいえ瘴気を祓う旅に出ている事、かなり親そうに見える事。そのせいで二人は実は好き同士なのではないか。と言われているのだ。

 正直、意味がわからない。そんなに好きならアルネは今の婚約を解消してジークムントと婚約し直せばいいだけの話だ。

 それをしないということは、お互いにそんな気持ちがない。という意味だ。

 まあ、どちらかが片思いしているのなら話は変わってくるが。

 距離が近すぎる男と女は何かと勘違いされがちだと前に姉が話していた。

 本当に恋愛感情がない場合と、どちらかが恋心を募らせている場合もあるらしい。

 面倒だな。と、私は思う。

 恋愛感情がないならそれでいい。でも、好きなら好きでさっさと玉砕すればいいのに。と思うのだ。

 ズルズルと引きずるように関係を続けるのは、幸せな場所から自分を遠ざけているようなものだ。

 なんで、自分から不幸に片足を突っ込むのか、理解に苦しむ。


「……はあ」


 思わずため息が出た。

 待たされている時間が長すぎて、少し考えすぎてしまった。

 もし、ジークムントがアルネのことを好きだったとしてと、私にどうしろという話しになるので、本人が何か言い出すまでは何も言わないでおこう。


「寒いわぁ、寒すぎる」

 

 クソ寒い。私に死ねと言わんばかりの寒さだ。

 

 コートなどの防寒具など何一つ持っていない状況で、お茶を飲もうと考えるなんて他人のことを思いやるという能力がジークムントには欠落しているのだろうか。

 アルネもアルネだ。私とジークムントの顔合わせの日だと知っているのに、わざわざ使用人を使ってジークムントを呼び出す必要はあったのか。と思うのだ。

 嫌がらせなのか無自覚なのか、嫌がらせならタチが悪いし、無自覚なら救いのない人たちなので可哀想だ。


「……」


 どれだけ待ってもお茶すら運ばれてくる気配はない。

 私に飲まず食わずで死ねと言いたいのか。


「……」


 ジークムントは帰ってくる気配がない。

 陽が落ちてきて、少し暗くなってきた。

 彼は「待っていろ」とだけ言っていなくなった。

 正直、帰りたいのだが、向こうのほうが爵位が上で勝手に帰るのも礼儀に反している。

 だから我慢しているのだが。

 まあ、数時間も待たせている向こうのほうが礼儀知らずの恥知らずでしかないのだけれど。


「あら、まだいらしたのですか?」


 先ほど、というか、数時間前にジークムントに声をかけてきたメイドが掃除道具を持ってやってきた。

 しかも、まだ帰っていないのかと、言わんばかりにそう言われて流石に腹が立つ。

 ここで、腹を立てたところで無意味だと思い。私は言いたいことを飲み込んだ。


「ジークムント様は?」

「アルネお嬢様とお茶会をしています」


 まるで勝ち誇ったかのような顔でメイドはそう答えた。


「……は?」


 メイドはアルネがいるから、お前に入り込む隙などない。と言いたいのだろうか。

 ジークムントがアルネを好きだったとして、そんなのどうでもいいことだし私には関係のないことだ。

 だからどうした。好きにやってろ。と、言いたい気分だ。


「あの、そろそろ帰ったらどうですか?ジークムント様はここには戻ってきませんよ」


 メイドはバカにするように笑って、私に、しっしと手を振った。

 もう、色々と言ってやりたかったが、気力がない。疲れた。


「……何なんだ。あの態度」


 私は帰り道をトボトボと歩きながら、帰ったら絶対に抗議の手紙を送ってやると心に誓った。


 しかし、それはできなかった。


 寒空の下で何時間も待ったせいなのか、その日の夜に私は熱を出したのだ。

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