第二話 ガチャの進化?!
この状況に一番合わないBGMが今俺の脳内で鳴り響いている…
大きなきっかけはあったが一番伝えたいことを
この世界でずっと過ごしてきた両親に共有することができ
そして、それが報われたのだ。
正直、転生前の日本の時だってここまで心が救われたことはない。
人を信じてもいいんだよ。
母さんにそう言われた気がした。
その母さんに抱きしめられ、感動が頂点に達したその瞬間に
パンパカパーン!!
『おめでとうございます!おめでとうございます!』
まさにパチンコ店のBGMのようにノリノリの音楽とバチクソデカい「おめでとうございます!」が頭に鳴り響いている。
(流石に空気読めなさすぎだろ!!!どうやったら止まるんですかね!!運営さん聞いてますかぁ!!)
『おめでとうございます!おめでとうございます!新しく「譲渡」の能力が開放されました!…』
と約1分ほど告知がされてやっと終了した。
母さんに気が付かれないように顔を伏せていたが、逆に心配されてしまったようだ。
「アルス…大丈夫?昨日から色々あったから…もう少し部屋で休んでいた方がいいんじゃない?」
目が赤く腫れている母さん、そしていつもはあんなにも気丈な父さんが珍しく下を向いて唇をかんでいる様子が見えた。
「そ、そうだね…ちょっと部屋に戻ってる。」
俺は気まずそうに二階の部屋に走って戻っていった。
感情がジェットコースターのように激しく動かさたせいか軽くめまいがしている。
特にあの状況での大きなアナウンスには怒りを覚えた。
まるで眠る瞬間、耳元で大声で叫ばれたような感じだ。
(なんでこのクソガチャは理不尽なことしか起きないんだよ!!)
深呼吸をし、湧き上がる黒い感情を抑えこむ。
落ち着いたところで告知された「譲渡」の内容を確認してみることにした。
頭の中で念じてみる。
いつも通りの画面が見えると…確かに今までは「適応」・「破棄」だけだった選択肢に「譲渡」の文字が追加されていた。
(これは文字通り、ガチャ結果を誰かに付与できるということだろうか?)
(しかも、この10年間ガチャの能力が変化することなんてなかった…何が起こったんだ?)
この状況に疑問が止まらなかったが、まずは「譲渡」の効果範囲を確認することにした。
特に以前からある「適応」は自分だけがガチャ効果の対象だった。
あれは年末の大掃除大会、兄さんとどちらがトイレ掃除をするかをかけて珍しく口論し、競争をした時だった。
相手の体に制限時間内に触れたら勝ちという前世でいうところの一回限りの鬼ごっこのような遊びだ。
ガチャ効果のおかげで8歳の子供とは思えないほどの身体能力を身につけていた俺はゴキブリ並の速さで兄さんを挑発していた!
今考えるとあまりにも煽りが酷かったため兄さんの負けず嫌いが発生してしまい、得意の風魔法で俺を浮かせてきたのだ。
(それは反則だろ兄さん!!俺は魔法がまだ使えないんだ!くそ!こうなったらガチャを引くぞ!いいのでろおおお!!)
ポンっ
その結果は『思考停止0.5秒間』が表示されていた。
俺は間髪入れずに兄さんを思い浮かべながら「適応」を念じる。
(くらえ!思考停止だああああぁぁ…)
次の瞬間!…俺は目の前が真っ暗になり気が付くと兄さんの手の感触が背中にあった。
「アルス…今回は僕の勝ちだ!トイレ掃除頼んだよ」
そう言って、少し肩で息をしながらフォージャー兄さんは嬉しそうに笑った。
そう「適応」は俺だけが有効範囲だったのだ!
感覚としては0.5秒なのかわからないが、兄さんが急に近くにワープして現れた。
(主語を!!主語を入れてもらえないですかね!!こんなんじゃ正確に伝わらないですよ!!)
そんな事を思いながらガチャの能力に悶絶していた俺に兄さんが笑顔で掃除用の道具を持ってきた。
(そういえばこの時はまだ兄さん俺に対して優しかったな…)
兄さんを思い出しながら別れが近い現実を思い出した。
(とりあえずいきなり人に対しては怖すぎる!その辺のモノで確認しよう。)
ちょうど目の前にあったコップを標的にしてみる。
いつも通りレバーを引くイメージ
ポンッとカプセルが落ちてくる。
ここで予想外のことが起きた!
なんと初めての色である紫色のカプセルが落ちてきたのだ!
(は?!待ってくれ!初めてのことが多すぎる!)
そんな思いとは裏腹にカプセルは自動的に開いていく。
ウィンドウには「おめでとうございます!スキル『体術』を獲得しました!」と出ている。
この10年間でスキルの結果は初めてのことだった。
(ええええ、ど、どうしよう!とりあえずコップに対して譲渡…いやいや、違うだろ!!)
(どうしたんだいきなり…もしかしてガチャ自体が変化したってことか?)
(でも…条件がわからない…でもこれは試してみないと)
とありあえず「譲渡」は後回しにして目の前のウィンドウの「適用」を念じる。
いつも通り「おめでとうございます!適用されました!」と表示され消えた。
ドキドキしながら「ステータス!」と口にする…とそこには
スキル:体術
空白だったはずのスキル欄にしっかりと「体術」の文字が見えた。
(確かに記載がある!やっぱり新たにスキル系のガチャができたんだ!!)
なぜだかわからないが、これでスキルの獲得という新たな結果もガチャから出ることがわかった。
無性に楽しくなって早く使いたくなっている自分がいる。
おもむろに立ってスキルの発動を念じる。
(スキル体術!)
すると…習ってもいなにのに、頭の中に中国拳法のような形が描かれ、体はその通りに動かせるようになっていた。
(まるでジャッキーチェンみたいだなぁ~)
発動後はキレッキレの格闘家のように手足が動いていた。
(今なら誰にだって勝てる気がするぞ!頭の中で相手をイメージしながら組み手だってできる!楽しい!)
初めての感覚に心が躍動している!
しかし、木造建築の我が家では明らかに体術の組み手はうるさかった…
形を取るたびに足元がドンッ!と唸り、地面はミシミシと鈍い音を立てていた。
気持ち良く本日2人目の頭の中の悪漢を倒した時、両親がドアを破壊する勢いで部屋に入ってきた!
「アルス!どうしたの!?大きな音を立てて!まさか!?ステータスが気に病んでやっぱり…」
「アルス…悪かった。殴るなら父さんだけにしてくれ…」
「違うんだ2人とも!!ごめん!ほらさっき話した能力が…」
ドヤ顔で構えを取っていた俺は顔を真っ赤にしながら慌てて2人に言い訳をした。
ここから下俺の手な説明をわかってもらうのに随分時間がかかってしまった…
「そういうことか…つまり通常であれば才能があるものが身に付けられるスキルがアルスの場合は
その能力によって手に入る…と」
「父さん…そうみたいなんだ。」
「ますます、アルスの能力は伝説の勇者様みたいになるわね…」
「そういえば僕、この国の現状…もっと言うと周辺の状況も正直わからないんだ。」
「アルス…すまん。それは俺達に問題がある。本来ならばフォージャーと一緒にお前にも話さなければならない情報を“敢え”て隠していた。」
「で、でもどうして教えてくれなかったの?確かに家には父さんの商業の本や兄さんの魔法に関する本ぐらいしかなかったし、それにたまにお使いでいく街は平和そのものだったような…」
「それは父さんのスキル先見予知によるものが大きい。このスキルは大まかな未来の姿が見えるが具体的な時期などがわからない。このスキルのおかげで商人としても成功することができた。そして、アルス…お前が幼少期になぜか死ぬ未来が見えたんだ。」
「えっ!そ、そんな!今実際に僕はここで生きているよ!」
「うむ、俺が見た未来ではお前が10歳の儀式を待たずに凄まじい力と数多くの魔法を使ったことにより国王の命で国を守ることになりそこで多くの魔物になぶり殺しにされていた。」
「父さんがそれを見たときあなたはまだ3歳だったの…そこでなるべくあなたの存在を隠すことにしてもらったのよ。」
(そうだったのか…父さんにそんな能力が…それに魔法は10歳じゃないと使用できないと思ったが使用できた未来もあったのか!)
「アルス…俺達を許して欲しい。お前を信じ全てを話すべきだった。今回の儀式に秘密裏に付いていったのも儀式の後、お前が国に取られもう家には帰ってこないことが分かったからなんだ。」
「父さん、そんなことない!僕だって能力のことや記憶について皆にだまっていた!逆に守ってくれていたんだね…ありがとう…父さん、母さん!」
そう言った後、優しくもう一度2人に抱きしめられた。
「アルス、これからはこの国を取り巻く情勢を話そう。」
父さんは険しい顔になり大きく息を吸い込んだ。
「フォーリン王が治めるこの王都ザイアは多くの領民の働きと貴族の統治により成り立っている。具体的には5つの都市が連合し強固な王都を作り上げている。しかし、この国を攻めてきている大きな勢力が2つ…いや3つある。
1つ目は魔王ハデスが率いる魔王軍だ。約2000年前から人間と魔族は争いを繰り返してきた。やつらは強力な魔法を得意とし多くの人間を殺してきた。生意気にもこの数年で統率力を上げ、事実王都は押され始めてきている。一番近い隣国も既に攻められていると聞いている。
2つ目は空から突然やってきた甲殻生物、俺達は蟲とよんでいる。こいつらは飛行能力を駆使しまた固い外装を武器に人間・魔族関係なく殺し自分達の領土を拡大している。目的のためならどんな手段も使ってくるし。そして考えが読めない。
3つ目は言いたくないのだが、俺たち人間にも裏切り者がいる。特に小さな自警団だったオリポスは村を守る役割だったのだが、武力行使を繰り返す内に巨大な勢力となり、今では仲間のことをファミリーと称し独自のルールに従って好き勝手に行動するようになった。国家に従わないという点で敵にも味方にもなり得る厄介な存在になってしまった。
他にも年々増加している魔物の存在も農村に大きな影響を与えているが、ギルドなど冒険者を中心に自分達で対象できる部分ではある。
周辺の敵となる存在についてはこんなものだな…アルス、この前始めて出向いた大きいと思える王都も今は多くの脅威にさらされている。お前を守るためになるべく存在を隠していたことは私の貴族の特権である。しかし、ここまで国が侵されている現状は小さな子供であるお前まで牙を向いてしまった。力がない俺たちを許しておくれ。」
(父さんは何も悪くない、むしろ今まで自分の全てを使って守ってくれていたんだ。)
そう思うと自分に怒りが湧いてきた。この10年間ひたすらにガチャだけを回して遊びながら少し強くなった自分に酔っていた。転生したとはいえ家族のことなんて考えずに自分のことだけ見ていた。
そんな自分に嫌気がしていた。
「父さん、母さん、僕これからみんなを守れるようにもっと強くなるよ。」
その言葉を今度は間違えないようにするため俺は心に誓った。
そして、3人でひとしきり今までの思いを語りあった。
途中で帰ってきた兄さんにも経緯を話したがあまりにも荒唐無稽だったらしく両親のように全ては信じてくれていないようだった。
それでも夜は久しぶりに家族みんなで川の字になって幸せな気分で寝れた。
この世界のことや自分の能力はまだまだわからないけどこの家族でいれて本当に嬉しかった。
そして次の日の朝なんとなく習慣になっている朝のガチャを引くと
ガチャの新しい能力がまた一つ増えていた。
新しい色のカプセルと共に見たことのない能力がウィンドウに表示された。
(ついていけないよおおおおおおお!!もう家族にも説明したのにナニコレええええええ!!)
続く




