第二夜
夢を見た。
ここはどこかの一室で、今座っている机と椅子以外、家具は見当たらない。
壁は本で埋め尽くされており、最早壁なのか本なのかわからない。
とは言え本は図書館のように整然とは並んでいない。青山剛昌から宮部みゆきまで、縦や横やに入れば良いと並んでいるところもあれば、絵画や考古学、心理学という風に学問や興味の偏ったタイトルがうず高く詰まれた塔が何本も聳えているところもある。
そんな中で俺は本を読んでいる。
ページはさほど進んでおらず、読み始めてまもないようだ。
内容はある人間の一生を辿る、一代記のようだ。
舞台は現代、俺たちが生きている世界と何一つ違わない。
特に何事もなく小学校を卒業し、中学校も出た。
逮捕されるほどの反抗期もなく、何かに没頭することもない。何も進まない日記のような文章は退屈極まりない。それでも一度開いた本だからと流し読みしていく。
大学に入学しても何も変わらない。受験という束縛から解き放たれた人間がなぜにここまで同じ生活を送っているのかわからない。若く、活力に満ち、健康な身体を持っているにも関わらず老人のような生き方だ。
何かを悟ったようにして何も成し遂げられないことを肯定化しようとしている。
女の影のひとつすら見えない。
たまに近寄ってくる女もいたようだ。
当時、画期的だったプロジェクションマッピングを見に行った女性は明らかに好意を抱いているようだ。
しかし、この主人公は動かない。
この主人公は心に決めた女性がいる。
しかし、この女性に対しても将来の奥手を発揮して好意を形に表すことができない。
進まない割にページだけが右から左に流れていく。
俺の人生の方がよっぽどましだ。
俺は好きな女には直接伝える。時折可愛くない女から好意を持たれた時は厄介この上ないが、俺にだって選ぶ権利はあるからして問題ではない。
俺の人生を物語にした方がよっぽど面白い。この作者の人生は虚しさに溢れているようだ。
恐らく手に入れたいものはあるのに、自分から何も動かないから何も手に入れられない、そういう性格なんだろう。
とてもつまらない本だ。
読み進めることに飽きた俺は、ページ数の割にはやけに分厚い表紙を閉じた。
表紙は金の唐草文に彩られ、中心には僕の人生と刻まれていた。