秋の風と放課後のアスファルト
空を見上げた。眩しい。ただひたすらにそう感じるだけ。ボクの心音が躍ることはなかった。今日という日を喜ぶことが出来ない。毎日そうだ。何の捻りもない日々。繰り返される学校生活。
「行ってきます」
親にそう言って、家を出る。いつもの高校へ向かう。イジメなんかもなく、ただボーっとクラスメートと喋っていたら放課後になる。その間何をしていたっけ。勉強? そんなの家でも出来るのに。どうして学校なんて行かなきゃいけないんだろう。
人付き合いが巧くなるため。
社会に適応するため。
引きこもりにならないため。
あー、バカらしい。
ただ学校行って喋って帰って来るだけの日々に何の生産性が有るっていうんだ。本当に無駄な毎日だ。そういえば、無駄に眩しい太陽みたいな奴がいる。煩くていつも笑顔で、心の内をすべて晒け出す奴。
岡田君。
そいつは、すぐに「おもしれー!」とか「そういうの好きだ!」とか、素直に自分の感情を誰かに話す。そのことに何の意味があるのだろうか。まぁ、岡田君が居ることでクラスメートの雰囲気が良い物になっているのも確かだ。
岡田君は、グループの誰かが、一人で居る子を茶化した時に、「ダメだぞ!」って叱る。僕は気になって、二人きりの時に岡田君に訊いてみた。
「ねぇ、どうして君は道化みたいに振舞うの?」
「ええ。急にどうした?」
「何となく。質問に答えて欲しい」
「うーん……」
岡田君は、少し考えた後、ボクの目を見て話し始めた。
「中学の時イジメられててさ。ほら俺。声がデカくてバカ素直だからさ。言わなくて良いことまで言っちゃって、相当嫌われてたのよ」
「ふーん」
「だから、最初は無理かなって思ってた」
「何が」
「お前のような奴に受け入れてもらえるの」
「え?」
なんだろう。昔の話を晒した岡田君は、ボクに媚を売っているのかな? 気を遣わなくてもバラしたりしないのに。
続けて岡田君は、ボクの方を見て笑いながら言った。
「初めてお前に声かけた時。『もっと話が訊きたい』って言われて、嬉しかった」
「……」
岡田君の表情は、ボクを信頼しているようだった。肝心のボクは記憶を探りつつ目をぱちぱちさせた。そんなこと言ったっけ?
岡田君はボクに、
「学校って、いろんな人と話せて面白いよな!」
そう言って、白い歯を見せて笑った。何気ない学校生活だけど、まぁ、誰かの心を救えているのならそれでも良いか。なんてありきたりなことを考えながら、岡田君と歩く放課後のアスファルト。
秋の風が少しだけ心地良いと感じたのは、きっと気のせいだ。
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