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初老転生〜異世界TS転生なんて初老の『おっさん』がするもんじゃない〜  作者: 菊RIN
第一章、始まりの村【まどかside】
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6、定番の実験的なアレ

「よし!火を着けろ!」


木の枝を集め火を着け、風魔術で巣穴へ煙を送り込む。濃い煙が充満し、穴の奥どころか一メートル先も見えない。


「あとは飛び出して来るやつを……」


だが、待てど暮らせど一向に出て来る気配がない。


「どういうこった?」

「クソっ!こうなりゃ我慢比べだ!」


「いや、待った。火を消して」


「どうした?お嬢」


「どうも違和感がある。煙が落ち着いたら、あたしが入るよ」


「大丈夫か?嬢ちゃん」


「なんとかするよ。めんどくせぇけど」




まどかは一人巣穴に突入した。


「暗いなぁ。煙で煤けて暗さ倍増か……試してみるか」


まどかはイメージする。辰巳として乗りなれた、トラックのヘッドライトを


「ハイビーム!」


途端に巣穴を光が満たす。どうやら魔法は成功らしい。が


「何故胸が光る?セクシービームが出てるのか?ってバカかっ!目からビームのがまだマシだ!こんなの、人前じゃ使えんわ!」


まどかが一人ツッコミ入れながら先を進むと


「扉?どういうこと?」


「この洞窟は、数年前に討伐された盗賊団のアジトだった場所にゴブリンが住み着いたようです」


「アプリさん、わかるの?」


「この世界のアーカイブは把握しています」


「となると……ゴブリン共の武器は、元盗賊団の……なるほどなぁ、充実してる訳だ。巣の現状はわかる?」


「マップ表示、サーチします……」


マップに巣穴の形状と多数の赤いピンが表示される。


「結構広いな。やはり通路は三ヶ所で間違いない。それにこの数、百や二百じゃないぞ。千近いな……一旦戻るか」




一度巣穴を出るまどか。内部の様子をガンツ達に報告する。


「なるほど、扉かぁ。ぶち壊すか?」


「壊せなくは無い。けど、千近いゴブリンが溢れて来るよ。ウチらの人数じゃ押し潰されるよ」


「ぐぬぬ……じゃあ、どうするよ?」


まどか達が作戦会議に煮詰まっていると、遠くから荷馬車がやってくる。この辺りは人通りは殆ど無いが、月のうちに二〜三度、旅商人が通る。道は良くないが、街道を通るよりも近道なのだ。


「何かございましたか?」


商人が馬車を停め、こちらに話しかけてきた。こんな人相の良くない、武装した集団に話しかけるなんて、盗賊だったらどうするのか?と思ったが、どうやらガンツとは顔見知りらしい。


「おぅ、キノクか。悪いこたぁ言わねぇ、今すぐ村に帰れ。ここはゴブリンの巣だ」


「ヒィィ!」


慌てて馬を走らせようとするキノク。だが、今帰れと言ったガンツが呼び止める。


「待てキノク、お前、油積んでねぇか?」


ガンツは火攻めをする気らしい。しかし、


「は?えっ、小樽に一つなら」


「それじゃ足りん……他になんか、使えそうなもんはねぇのか?」


「え、き、急に言われましても……干し魚が少しと、芋が二籠くらいで、残りは全部粉に挽いた麦でして……」


「麦の粉!」


「どうした、お嬢?」


「麦を風魔術で……そこに……空気中の……おじさん!その麦の粉、全部頂戴!お代はギルドが払うから!多分」


「麦を?パン屋でもやるつもりか?」


「いいや、麦でゴブリンを殲滅する。みたいな?知らんけど」


「さっきから多分とか知らんけどとか、やれんのか?おい」


「まぁ、ダメならまた考えるよ」


「……そうか。まぁよし。やりたいようにやれ」


「んじゃ、手伝ってくれよ」


まどかの指示で、荷車から麻袋が大量に降ろされ、扉前まで運び込まれる。


「どうすんだ?積み上げて土嚢代わりにでもすんのか?」


「それじゃあ、コレ全部ぶちまけて」


「「「はぁ?」」」


「いいから、さっさとやる」


「マジか」

「なんになるんだよ」

「もったいねぇ以外の言葉が見つからん」


ブツブツ言いながらも、ガンツ達に堆く積まれてゆく麦の粉。やがて最後の一袋まで残らずぶちまけた。まどかは、空になった麻袋を丸め、口を縛ってあった紐でぐるぐる巻きにした。


「あ、油あったよね?」


キノクの返事も聞かず、小樽から油を拝借して麻玉に染み込ませた。


「いい?一回しか言わないよ。ガンツは扉開けたら、その陰に隠れて。あと、風魔術使える人、ガンツが隠れたら、扉の中に麦の粉を全力で吹き飛ばす。いい?」


「あ、あぁ」

「よくわからんが、わかった」


「ガンツ、巻き込まれたくなかったら、陰から顔出しちゃダメだよ。麦が全部扉の中に入ったら、三つ数えて穴から離脱。あとは私がやるから、覚えた?」


「「任せろ」」


「んじゃいくよ。実験開始。詠唱始めて!ガンツ!」


「扉、解放!いいぜ!」


「風!全力で!」


「サイクロン!」


先に詠唱を始め、扉解放と同時に発動句を唱えた。麦は強風に巻かれ、扉の中で拡散する。


「三、二、一、退避!」


風魔術の勢いのまま、吹き飛ぶように出口へ向かう術者。まどかはガンツとは反対側の扉の陰に滑り込み、油を染み込ませた麻玉に火を点ける。まどかが火の玉を放り込んだ刹那、


「ドッゴーーーン!!」


地を揺らす、低くくぐもった音と共に、扉から炎が吹き出す!


「ゴゴゴゴゴ……」


爆発の衝撃とは別の地揺れを感じたまどか。


「あ、コレヤバいかも……ガンツ、逃げるよ!」


「落盤かっ!くそったれ!」


全速力で出口へ走る二人。ギリギリのタイミングで巣穴から転がり出る。


「はぁ、はぁ……」

「ぜぇ、ぜぇ……なんとか、助かったな」


「ふぅ、ちょっと、やり過ぎた……(ってか、落盤は予想外だわ。そもそもなんでアプリさん教えてくれなかったんだよ!)」


「電波状況が悪く、オフラインでした」


「なるほどね。巣穴にWiFi飛んでないもんね!ってアホか!」


心配そうにキノクが声をかける。


「あの、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、うん、大したことない」


「いえ、その……お支払いの方なのですが?」


「ん?ん??」


キノクが言いたかったのは、ギルドのシステムの事だった。通常の依頼主が料金を支払う仕事と違い、このような緊急依頼の場合、支払われる達成料や経費は、ギルドの負担になる。ギルドはその費用の補填として、クエスト中の戦利品や、魔物から獲れる素材や魔石で賄うのだ。

故に落盤で巣穴が埋まり、何も獲られなかったばかりか、麦の大量購入までやらかしたまどか達は……


「あ、うん、今回の指揮官はガンツだから……ね。ガンツに聞いて」


「な、ばっ、お嬢てめぇ」


「よろしくお願いしますよ?」


「ま、まぁ、ガルがなんとかする。多分。知らんけど」




◆その後、巣穴の再調査の名目で、辛うじて落盤被害の少なかった右側の入口から、土魔術を駆使して掘り進み、生き残ったゴブリンが居ないか調べられた。

まぁ、アプリさんの検索にゴブリンの反応は無かったので、生き残りは居ないと思うが、千近く居たゴブリンの魔石を少しでも掘り起こすのが、ギルドとしての本命なのだ。


キノクへの支払いは、なんとか無事に完了。再調査も終了し、四百二十個の魔石が掘り出された。

ギルドとしては、なんとかギリギリ赤字回避出来る程度にはなった。


「まぁ、タダ働きにならずに済んで良かったよ」


「嬢ちゃん、お前さんが寝ている間、連日穴掘りさせられたんだぞ。割に合わねえよ」


「私だって、ただ寝てた訳じゃないよ。ガルに呼び出されて説教されるし、討伐方法とか根掘り葉掘り聞かれるし……第一、土魔術覚えてないし。ま、そのうちいい事あるよ」


「「「お前が言うな!」」」


「しっかしよぅ、なんだったんだ?嬢ちゃんのアレは」


「ん?あぁ、アレは【粉塵爆発】だ。一応知識としてはあったんだけど、実践は初めてで……威力が予想以上だった」


「マジか、だがよ、麦を触媒にするなんて、そんな魔術聞いた事ないぞ?」


「魔術……ではないかな。私のいた国には、マナを使わずあぁいった事を起こす学問があったんだよ」


「マナを使わない、だと?スキルとは違うのか?」


「うーん、スキルとも違うな。やり方さえ知っていれば、誰でも出来るからな」


「誰でも?」


「あぁ。でも先に言っておくけど、それを誰かに教えたりはしないよ(めんどくせぇから)」


「そ、そうか。秘伝ってやつだな」


「(いや、違うけど。ただのおもしろ科学実験だけど)そんなところかな。扱いを間違うと大事故になるからね。今回もギリギリだったし」


「な、なるほど」




……実はこの時の会話がギルド中の噂となり、まどかにとって良い影響があった。ゴブリン討伐以降、パーティの勧誘がひっきりなしになった。その度まどか親衛隊が出てきて、揉めたりしたのだが、


「まどかは自分でも制御が難しい術を使うため、パーティで行動すると、その術に巻き込む危険がある。しかもその術は秘伝であり、他者に知られる訳にはいかない。故にまどかはソロプレイヤーを貫いている」


というのが、暗黙の了解としてギルドに浸透したのだ。


「これでようやくスローライフが始められる。何処かに畑でも借りるか?そんでたまに依頼受けて、獣でも狩って、合間に魔法の練習でもして……旅商人が干し魚持ってたから、川か海があるだろう。釣りもいいな」


まどかが独りごちて居ると、


「指名依頼ですよ、まどか。執務室で依頼主がお待ちです」


受付嬢モードで無表情のガイアが、妄想を打ち切らせた。




お世辞にも立派とは言えないギルド。応接室などと言うものは無く、来客の対応はロビー、又は執務室でおこなわれる。今回、執務室で対応している事を考えると、普通の依頼主ではない、ということだろう。

まぁ、まどかの時も執務室だったので、一概には言えないが。


「まどか入りまーす」


一応大人の対応として、一声かけて入室。ソファーに腰掛けていたのは、白ひげに短髪、少し気の弱そうな小柄の男性。


「おぉ来たか。紹介しよう。こちらはこの村の村長メリド氏、今回の依頼主だ」


「あ、はい、まどかです。てか、なんでまた村長さんが?はじめましてだよね?」


「お初にお目にかかります。村長などをやっとるメリドですじゃ。ガル殿にアンタの話を聞いてな……本当に可憐なお嬢さんじゃの。しかし、大丈夫かの?とてもじゃないが、強そうには見えんが……」


「いや、不安ならやめといたほうがいいよ。うん。私もやることあるし。ね。うん、じゃあ、そういうことで」


「まぁ待てまどか。話だけでも聞いてはくれないか?と言うより君は、聞く義務がある」


「えーーー……(めんどくせぇ)」

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