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17、デビュー

「まどか?知り合いなの?」


「アイツ、前居た村で事件起こしたヤツの下っ端なんだ……」


「え?でもなんでこの町に?」


「……わからない」


「なるほど。それは怪しゅうございますな」


ヘラヘラさん(まどか命名。だって名前知らないし)は、一通り周りを見ると、古びた建物に入った。町おこし研究所と書いてある。


「ここは……資料にあったとこだな……なんでヤツが……」


「へっへーん!こんな時こそあたしの出番ってわけ」


「ちょっ、ティンク!町の中じゃ、出てきちゃダメって、言ったでしょ!」


ティンクは、メグミの胸元から飛び出すと、ジョーカーの肩に乗り、腰に手を当て胸を張った。


「あたしの次元魔術にはね、不可視化ってスキルがあんのさ。怪しいヤツがいるんだろ?あたしが見てきてやるよ!タダで」


そう言って、返事も聞かずに姿を消し、飛んで行った。


「もう、ティンクったら、勝手に……」


申し訳なさそうに項垂れるメグミ。


「まぁいいよ。入ってったヤツもそんな強く無いだろうし、妖精さんも役に立つことをアピールしたいんだろ」


にしてもアイツ、次から金取るつもりか?メグミの装備買うのに、持ってた物全部取られて小遣い稼ぎ出来なかった!って言ってたし、ここで稼ぐ魂胆かな?逞しいというか、なんというか……


「まどかお嬢様、いかがいたしましょうか?」


「そうだなぁ……一応ギルドには報告しといた方がいいかもな。妖精さんが戻ったら、一度ギルドに行こう」



まどか達はもう一度ギルドに戻り、先程の資料と共にカスリンに面会を申し込んだ。と言ってもほぼフリーパスなんだが……


「どうした?出発の話ならさっき聞いたぞ」


「いや、そうも行かなくなった。これを見てくれ」


まどかは資料を開き、最近の若者の集会に入り込んでいるゴロツキと、アンデッド騒動の関わりを話した。


「それじゃあ、ウチの街の子達が事件に関わっていると?おいおい、冗談も大概にしろよ」


カスリンはまどかを睨む。地元の若者が、犯罪に加担しているような言われ様は、あまり気分のいい話ではない。まどかもそれは理解している。


「そうは言ってないよ。私が追っている黒幕って奴に、今度はこの街の若者が狙われてる、もしくは利用させていると考えてる」


カスリンは片眉を上げ、話の続きを促す。


「カスリン、資料で見たんだけど、町の若者達が集まってる、町おこし研究所があるだろ?」


「あぁ、以前年寄りが難癖つけて来たとこだろ?あれがどうした?」


「ここにくる前にいた村で、事件を起こした輩がいたんだが、その中の一人が入って行くのを見た」


「なるほどねぇ……でもそれだけじゃギルドは動かせないよ。他になんかあんのかい?」


「……うーん、ここならいいか、妖精さん!」


「あいよー!あたしの出番ってわけ」


「え、な、えぇ?」


「あたしは神樹の森の妖精ティンク。この子達の面倒みてやってんの」


「ティンク、情報は正確にね」


「え、あ、うん。そんで、あたしが中を覗きに行ったのさ。中には黒いローブのヤツと、まどかの言ってたヤツがヒソヒソ話してた。なんかぁ、壺がどうしただの、もうすぐだだの……」


「壺?町おこしに陶芸でもすんのかね?」


「部屋には魔法陣があってさ、なんかどす黒いオーラが漂ってたわけ。あたし気分悪くなっちゃったから、そこで退散したけど」


「なぁカスリン、これを見てくれ」


まどかは、ネックレスを渡した。


「なんだい?」


「鑑定してもらえばわかるけど、それは冥王の壺ってマジックアイテムだ。前の村の事件というのは、それを使って大量のスケルトンを召喚して、村が襲われるって事件だ。なんとか村に入る前に殲滅出来たけど……研究所に入ってったヤツは、その事件に関係している」


「壺!そうかい。コイツぁ繋がってると見て間違いなさそうだねぇ……」


カスリンは顎を擦りながら思案する。


「この街で悪さしようとしてるヤツが居ると……それが本当なら、ギルドとしても見過ごせないねぇ」


「信じるの?こんな小娘の話を」


「ただの小娘じゃないでしょ。座ったままウチの冒険者纏めて伸ばした小娘だ。更に妖精まで出てきて実際見てきたとありゃあ、十分じゃないか」


カスリンはニヤリとする。まどかの事もそうだが、暇を持て余している冒険者達に、仕事を与えられると考えたらしい。


「そうと決まればこの件、ギルドからの依頼にしようじゃないか」


「私が持ち込んだ話しだ。この依頼、私が受ける」


「あたし達、MJ2がね!」


「え?なんだい?そりゃ?」


「あぁ、私達ここにいるメンバーのパーティの名前だ。まぁ、昨日組んだばっかりだけどね。デビュー戦ってやつ?」


「だ、大丈夫かね?見たところ個人の強さは三人ともかなりのレベルだけど……」


「勿論、地元の冒険者にも手伝ってもらうつもりだよ。私達もここの地理に明るくないんでね」


「まぁ、依頼を受けるのは早い者勝ちだ。頼んじまったもんは仕方ねぇ、よろしくな、MJ2!」


ギルドに来たついでに、まどか達は訓練場を借り、連携の練習をすることにした。三人の連携はやったことはない。ある程度の動きの確認と、それぞれの能力の把握くらいはやっておくべきだろう。


連携の指導はなんと、ティンクだ。ティンク師匠と呼びたまえ!と、いつもの如く上から目線だが、


「もっとこう、ガーッときてビュン!よ。わかる?ちがうちがう、そこはシュッ!ときてババババーンよ!」


という感じで、なかなか進まない。そこでジョーカーが、


「ティンク様、ここはフェイントを入れて、その隙にまどかお嬢様が下から……こういうのはいかがでしょう?」


など、時々意見を言うと、


「そ、そう!あたしもソレ言おうとしてたのさ!アンタわかってんじゃん!」


と、冷や汗を垂らしながら指導する。最後の方は、ほぼジョーカーの受け売りになったが、


「やれば出来るじゃない!やっぱあたしの指導のおかげよね!」


と、満足そうに頷いた。調子の良さはレベルカンストかもな。


これまで底の見えなかったジョーカーだが、少し力を見ることが出来た。連携において、まどかが前衛の主戦力、メグミが後衛からの援護と攻撃、ジョーカーは二人の動きに合わせる形だったが、時にはまどかの盾になり、時には囮となって敵を引き付け、隙を見て攻撃、メグミが前に出れば後ろに下がって援護する……これは、まどかやメグミよりも上の技術が無ければ出来ない。それでもまだ力の一端に過ぎないだろう。


ジョーカーの武器はエストックだ。サーベルより少し幅のある細身の剣、高速の三連突きを見たが、一突きにしか見えない程のスピードと正確さだった。

魔術も多彩で、氷、闇、生命、精神、毒を操る。なんか魂を弄ぶ魔族の力を見せられたようで、背筋がゾクッとした……


「なんとか形にはなったな……」





◆一頻り動いたまどか達は、空き地の小屋に戻る。場所はカスリンも知っているので、何か進展があれば連絡する。と言われた。

その日の夕食もコース料理仕立てだった。あれだけの訓練をしたのに、ジョーカーは事も無げに料理をこなす。まぁ、どうせ聞いても、執事の嗜み……としか答えが返って来ないだろうけど。

今日のメインは魚。川が近いので新鮮なのが手に入るみたいだが、腕がいいのか泥臭さがない。白身のフワフワした身に、熱した油をかけてパリパリにしたウロコの食感がたまらない。香草の使い方も絶妙で、塩加減も丁度いい。毎日こんな贅沢で大丈夫かな?たまにはお好み焼きみたいなのも欲しい気がするし……今度ジョーカーに頼んでみよう。


(それからぁ……ふっふっふっ、もう一つ楽しみがあるんだよねー……明日、みんなを驚かせてやろう!)


少しニヤニヤしながら眠りにつくのだった。




◆翌日。朝からまどかは、防具屋にいる。

楽しみなこと……それは、新衣装だった!脳内にある、元の世界でまどかが所属しているアイドルグループの、セカンドシングルの衣装。それを図に起こし、メグミのドレスアーマーの素材で発注しておいた。


「お嬢ちゃん、どうだ?注文通りだろう!」


流石はメルクシティ、今は衰退してるとはいえ、職人の腕は確かだ!


「うん!サイズもピッタリ!縫製もしっかりしてる」


ベルトや収納アイテムも、新衣装に合わせて色を変えた。


「動き易さは……うん。問題無し。おじさん、ありがとう。やっぱ頼んで正解だった!」


「お!嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」


欲を言えば、こちらの世界にはファスナーやジッパーという物が無い。代わりにフックで引っ掛けて止めたり、紐で編み上げる方法にしたが、ちょっと着替えに時間がかかりそうだな……


でも、思いのほか値引きしてくれた。おじさんは、


「久しぶりに、いい仕事させてもらった!まだまだ腕は鈍っちゃいなかったな!ガハハハ……」


と、持ってる技術をフルに使えたことが満足だったらしい。


元着ていた衣装を異空間収納に入れ、防具屋を出た。食器や食材などはジョーカーの収納に移せたから、衣装を増やしてクローゼット代わりにしてもいいかもな……でも、元の世界でジャージと作業着しか着ていなかったおっさんが、こっちで衣装に凝るとは……ちょっとキモいか?そんなことないよな、うん。


こっそり空き地に戻り、小屋の入口。扉に手を掛けようとしたら、


「おかえりなさいませ、まどかお嬢様。これはこれは!素敵なお召し物でございますね!」


ジョーカーが扉を開けて、出迎えてくれた。流石は出来る執事だね……メグミは、


「えっ!まどか、か、可愛い!凄く可愛い!」


まさか自分が、えーそんなことないよー!とか、女子お決まりの服の褒め合いをするとは……


しばらく終わりのない褒め合いが続いたが、ノックの音で強制終了された。


「ギルドの遣いです。動きがありました。皆さん、出られますか?」


「わかった。すぐ行く!」


遣いの冒険者に案内されて向かったのは、ギルドでも研究所でも無かった。

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