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16、MとJと

本日三話投稿。

翌日。メグミは、装備を買い揃えた。ティンクが収納していた武器防具など全部出させ、身につけていた革鎧も買い取ってもらい、予算内でギリギリの装備だ。小遣い稼ぎをしようと剥ぎ取った装備を溜め込んでいたティンクからは、散々ゴネられ、文句を言われた。ジョーカーが作ったパンケーキをメグミの分も貰うことで、ひとまず落ち着いたが。


新たな装備はドレスアーマー。一見普通のカジュアルなドレスだが、マナの込もった糸と鋼糸を編み込んだ素材で、防御力は高い。スカート部分はそれほど長く無く、スリットも入っているので足さばきを邪魔することは無い。飾りのついた革製の胸当てとベルトは、ドレスに違和感を感じさせないデザイン。ベルトの両脇にナイフホルダーと、ポーション用の収納を付けた。カチューシャのような髪飾りも買ったが、ただの飾りではなく、魔術に対する防御力が高いらしい。

武器はミスリルのナイフが二本。見た目より軽く、扱い易い。いろんなナイフを手に持ってみて、一番しっくりくる物を選んだ。



「お願いします!」


それからメグミは、毎日訓練場に来ていた。新たな装備と新たな戦闘スタイルを確認するために。


「お嬢様、昨日の疲れが残っておいでですか?動きに精彩がございませんよ?」


メグミはムキになって攻撃する。顔には出さないが、少しカチンときたらしい。


「冷静さを欠くと、攻撃が単調になりますよ。隙だらけでございます」


ジョーカーは木の棒で隙をついて当てる。どうやらワザとメグミを挑発したらしい。

メグミは集中力には自信があった。冷静さを取り戻すと、次第に動きが早く、スムーズになって行く。


(当てようとしてはダメ、止まっている的を射るのとは訳が違う。不規則な相手の先をよみ、動きの中で誘い、相手の隙をついて、瞬間的に力を込める……)


ジョーカーの教えを反芻するメグミ。


「今!」


メグミのナイフは、ジョーカーの胴を刺し貫いた!


「お見事です」


「ご、ごめんなさい!どどど、どうしよう……」


ジョーカーはメグミの手を取り、胴からナイフを抜いた。傷はみるみるうちに塞がり、裂けたタキシードも元に戻った。


「え?だ、大丈夫、なの?」


「これくらいの傷でしたら、問題ありません。服はわたくしのマナで出来ておりますので、修復も些事でございます。常に身だしなみには注意しませんと。執事の嗜みでございます」


襟元を正し、胸に手を当て、いつものように流麗に一礼をする。息切れ一つしていない。この男、底が見えない……



空き地の小屋に戻ると、まどかが退屈そうにしていた。


「メグミー、どこ行ってたんだよー……ん?服変えた?」


「まどか、ごめん」


「申し訳ございません。まどかお嬢様を退屈させるなど、わたくし執事失格ですな……」


「ん?あぁ、いいよ。メグミに付き合ってたんだろ?にしてもメグミ、可愛くなったな」


「え、そ、そう?ジョーカーさんに、動き易い服の方が良いって、言われたから……」


そう言いながら頬を赤らめるメグミ。


「まどかお嬢様も、たまには違うお召し物にされてはいかがですか?」


「べ、別にいいよ、これが私の戦闘服なんだから!」


(とはいえ、元の世界のまどかも曲に合わせて衣装替えてたよな……こればっか着てたら不潔だと思われるかもな……)


元おっさんのさがなのか、若い娘に「くさい」「不潔」「キモい」などと言われるダメージは計り知れない……そういう事に過敏であった。


「うーん、でも……まぁ考えとくよ!」




◆夕食時。

ジョーカーは本当に執事だったのか?本職は料理人だったんじゃ?……そう言いたくなるほどジョーカーの料理は素晴らしかった。よくも見たことない野菜や魔獣の肉を使って、絶品のコース料理を作れるもんだ、しかも手際の良さときたら、腕がもう二、三本あるんじゃないか?と思う程に早かった。ジョーカーは、


「執事の嗜みでございますれば……」


と、当たり前のように答えるだけだったが。


食後、お茶を飲みながら、昨日からのメグミのことを話していた。ジョーカーはメグミの相談の件を けしてまどかに話したりはしない。だがメグミ本人から、その思いを語りだした……


話しを聞いてまどかは言う。


「なぁメグミ、私たち出会ってそんな経ってないけど、いい連携が取れると思うんだ。ぶっちゃけ私も助かってる」


「そんな、私なんか……」


「それでなんだが……私達は、言わば目的を探す旅をしている。それは二人とも一緒だよね?」


「えぇ、そうね……」


「もしメグミが嫌じゃなかったら……私達、パーティ組まないか?」


「え!」


「どちらかの目的が決まるまででもいいんだ。お互いの目的が違えば、一緒に居れなくなるかもしれない。でも、もしかしたら、目的を達成するために助け合えるかもしれない。だから……」


そこまで聞くと、メグミは泣き出した。


「うっ、うぅ……」


「あ、いや、その、えーと、嫌ならいいんだ。ただちょっと、なんて言うか、つまり、この先もメグミと一緒に、旅したいなー、なんて……」


「うぅ……わ、私も、まどかと一緒に、居たい。でも、足でまといには、なりたくない……」


「足でまといなもんか!さっきも言ったろ、助かってるって」


「うん……うん……」


「じゃ、じゃあ、一緒にパーティ、組もう?ジョーカーもいるし!」


「わたくしもお誘い頂けるのですか?これはこれは、感激でございます。」


「よ、よろしく、お願いします。まどか!ジョーカーさん!」


「よし!決まりだな」


「ちょっとちょっとー!あたしは?あたしはどうなんのさ?」


「あぁ、妖精さんもいたな」


「仕方ないわね、ふふっ……」


「よろしいではありませんか。頼りにしておりますよ、ティンク様」


「でしょ!そうよね!あたしがいなきゃ始まんないわよね!しょうがないなぁ、んじゃ、あたしがパーティのリーダーになったげる!感謝しなさいよね!」


「それは、いいや……」


「却下」


「わたくしは、まどかお嬢様の下僕ですので……」


「なによなによあんた達!揃いも揃って!もういい!あんた達がピンチの時、助けてやんないからねーっ!」


「助けてもらったこと……あったっけか?」


「では、パーティの名前は、いかがいたしましょう?」


「な、名前?必要??」


「どのパーティにも、それぞれ名前がございます。必要だと思われますが?」


「んー……メグミ、何がいい?(丸投げ)」


「え、私?……んー……Madoka……JOKER……Megumi=Jenius……M.M.J.J……MJ2って、どうかな?」


「おー!いいじゃん!」


「良い名だと思いますよ、メグミお嬢様」


「そ、そう?じゃあ、決定ね!」


こうしてMJ2は誕生した。


「ちょっとちょっとー!またあたし入ってないじゃんよー!!」




◆翌日、

次に向かう町の情報を仕入れるため、まどか達はギルドの資料室にやって来た。手持ちの地図と照らし合わせながら、移動ルートと、周辺に住む魔物の情報を把握していく。昨夜はパーティの名前について少し揉めた。と言うより、ティンクが一人へそを曲げただけなのだが……自分の名前が入ってない!とネチネチ抗議を続けられた所を、メグミの機転こじつけで、


「ほら、MJ2の2はTwoでしょ。ちゃんとティンクのTが入ってるじゃない!」


と、強引に納得させた。まぁ、初めは納得していなかったが、ジョーカーの、


「ティンク様は、言わばパーティの秘密兵器でございますれば、名前も隠されておいでなのですよ」


と言う機転あとづけに気分を良くし、ようやく大人しくなった。


この騒動のおかげて、みんな寝不足気味だが、欠伸を抑えなが資料に目を通した。


あぁ、秘密兵器と言えば、近頃ほとんど出番の無いアプリさん、俺も元の世界にいた頃、スマホで調べ物をする時に、声に反応して教えてくれる機能があると聞いて、最初の頃は面白がって使っていたけど、そのうち飽きて使わなくなった。

まぁ、初老のおっさんなんで、単に使いこなせていなかっただけかもしれないが、歳食ってる分の知識があるので、そうそう調べ物も無かったのも事実だ。


だが、こちらのアプリさんは、少し違った。喋る機会はほとんど無いが、まどかの戦闘中、動作の補助を行っているのだ。俺がマンガや格闘ゲームで培った技のイメージを アプリさんが高速演算で最適化してまどかの身体を動かしている。咄嗟に思い付いたような技でも、絶大な破壊力を出せているのは、実はアプリさんのスキルだった。


話しを戻そう。資料に目を通していると、一つ気になるものがあった。帝都から戻った若者達が、この町の外れの空き家に集まり、何やら実験を行っているらしい。若者達に尋ねると、町の復興と町おこしの一環だと言って、詳しい話を聞けないとの事。年長者が不審に思い、ギルドに調査依頼を出したのだが、時折黒いローブを被った人物が出入りしている以外は、怪しいことも無く、事件が起こることも無い。黒いローブの人物について尋ねると、町おこしの企画の指導者として、若者達が呼び寄せているらしい。


「出発のついでに覗いて行くか……」


町の今後を見据えている若者達に、少し感銘を受けたし、町が復興すれば、年長者側の蟠りも、だいぶマシになるんじゃ?なんとなくそう思い、興味を持った……


ギルドの帰り、一応カスリンには明日出発することを伝え、町の様子を見て回る。ポーション類の補充と、食材の調達、革製品の工房なども覗いた。全盛期には、革製品を芸術の域にまで高め、貴族の鑑賞用や、兵士らのステータスとして重宝されたのだが、今では日用品の製作がほとんどらしい。あまり人気のない展示室には、過去の匠の作品が寂しげに並べられていた。


工房を出ると、何やら辺りを窺ってる人影があった。不審者ってヤツだな。そいつの顔を見ると、なんか見覚えがある……誰だったっけ?……あ、俺様さんの後ろでヘラヘラしてたヤツだ!


「これは調べてみる必要があるな」


関連性の有無はわからない。しかしアンデッド騒動の黒幕の手掛かりが掴めるかもしれない。まどかはもう少し、この街に滞在する必要があると思った。

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