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15、ここに来てテンプレ

メルクシティ。

……五十年程前は帝国第二の都市だった。商業と皮製品の加工が盛んで、中央都市に対抗意識があり、独自の成長を遂げた。町の人々は、わが町こそ文化の最先端!との自負があり、よく言えばこの町に誇りを持っている。

悪く言えば余所者をなかなか信用しない、内輪にしか興味を持たない風潮がある。若者は外にも目を向け、多様な文化に親しんでいるが、年長の者達は、まぁ、ハッキリ言ってめんどくさい。

現在に至っては、産業都市としての勢いは衰え、若者は中央都市へ出稼ぎに行き、年長者は過去の栄光に縋って細々と生活している。若者達が町を出て行くことを年長者は苦々しく思っていて、それが余計他所の文化や人間を毛嫌いする原因になっていた。


まどか達一行は、とりあえず町のギルドへ向かった。素通りしてもいいのだが、一応の挨拶をしておかないと、トラブルがあった時など、何かと面倒な事になるらしい。メルクシティのギルドは、ストーンブリッツという。町の入口から五百メートル程進んだメインストリート沿いにあった。噴水を中心に、ロータリーのような石畳があり、放射線状に道がある。ここがこの町の中心なのだろう。そのロータリーの一角にギルドはあった。


「ここだな」


広さはツインホークスのギルドの倍近くあるだろうか、使い込まれたカウンター、所々にへこみや刀傷がある。ホールのテーブルが少し新しく見えるのは、荒くれの冒険者が壊して入れ替えられたものだろう。念の為、ティンクはメグミの持つポーチに隠れている……


「いらっしゃい……ん?見ねぇ顔だな。ここは冒険者ギルドだが、依頼か?」


カウンターで暇そうにしてたのは、中年男性。いかにも元冒険者という佇まいだが、少しお腹の肉が邪魔そうだな。


「いや、これでも一応冒険者なんです。帝都に向かう途中、この町に来たのでね、挨拶だけでもしておこうかと……他は私の連れです。あと、これ、ギルドカード」


「どれどれ……」


カウンターに置かれた水晶の台座にある石板にカードを乗せた。


「な、なに!ランクBだと!ってあぁ、ツインホークスか。なるほどな、流石は田舎のギルドだ。こんな小娘でもランクBになれるなんてな!ガハハハハ……」


「むっ!」


ギルドのホールは、一瞬騒然となったが、直ぐに嘲りの笑いに変わった。


「こんなガキがランクBなら、俺はランクSだな!」


「おうよ!このギルドのヤツなら全員ランクAオーバーだぜ!」


「違ぇねぇや!ハッハッハッハッ……」


「まどかお嬢様、わたくしがこの不埒者どもの相手をいたしましょうか?」


「ハーッハッハ……笑わせるぜ!お嬢様だとよ。大方田舎の小金持ちが、強い冒険者でも雇ってレベルだけで上げたんだろ?ろくな装備もしねぇで、ピクニック気分か?」


「ジョーカー、ほっとこ。ここには揉め事を起こしに来たわけじゃないし、雑魚とは言え、コイツら潰したら、ここのギルドも依頼どころじゃ無くなる」


「なんだとてめぇ!どっちが雑魚か、思い知らせてやろうか?」


既にまどかの意識からは、周りの冒険者は外れていた。それを見たメグミが、


「と、とりあえず座って、今後の旅の計画でも話し合いましょうか」


緊張しつつも、隅にある席に座り、周りの冒険者と目を合わさないようにしている。


「かしこまりました。ではお嬢様方、こちらへおかけください。わたくし、飲み物を用意してまいります」


「おい!無視すんじゃねぇ!いい気になりやがって!おいおめぇら!やっちまえ!」


まどかは頬杖をついたまま、片手で攻撃を払い、受け流す。ジョーカーは併設されたカフェで飲み物を受け取ると、左手にトレーを乗せたまま最小限の動きで剣や斧をかわした。

呆気に取られているメグミの背後から男が近づく……


「お、姉ちゃん、いい弓持ってんじゃねぇか。よこせ!」


「ジーナに触らないで!」


顔を伏せ、両手を突き出したメグミの掌底を鳩尾にくらい、男は五メートル程吹き飛んで椅子やテーブルを撒き散らした。そこにジョーカーが戻って来て、テーブルに上半身をうつ伏せに気を失っている男を 埃でも取るように掴んで捨て、ポケットのハンカチでサッと拭くと飲み物を並べた。


「どうぞ。お茶でございます」


五分程で辺りは、男達のゼーゼーと喘ぐような呼吸と、まどか達の談笑の声だけしか聞こえなくなった。結局まどかは椅子に座ったまま、一歩も動くことは無かった。


「もうこの辺りでヤメにしませんか?」


そう言ってジョーカーは、散らばった椅子やテーブルを元の位置に戻してゆく。冒険者達はジョーカーが近づいて来る度、情けない声を漏らし後退るのだった。椅子やテーブルを戻し終えると、


「お騒がせいたしました、どうぞおかけ下さい」


と、胸に手を当て、流麗に一礼をした。この言葉の裏には、


「大人しく座ってろ!雑魚共」


という意思が込められていると冒険者達は感じて身震いし、皆一様に背筋を伸ばして座り、なるべく目を合わさないようにした。



「とりあえず魔物から剥ぎ取った素材なんかを売って、必要な物を買いに行こうか?メグミとジョーカーも来るだろ?」


「でしたらわたくしは、お嬢様方にお出しする茶葉や茶器、食材などを買い求めたいと思います。ここの茶は香りも申し分ないので、良い茶葉が手に入れられると思いますので。後はそれらを収納するアイテムなどあれば良いのですが……」


「あ、あの、お買い物が済んだら、ジョーカーさんに、お願いが、あるんですけど……」


「かしこまりましたメグミお嬢様。わたくしで宜しければ、何なりとお申し付けください」


話が一段落ついた頃、入口の扉が開き、一人の女性が入ってきた。三十代前半くらいの見た目、日に焼けた健康的な肌、引き締まった体型に豊満な胸、髪は赤く少しウエーブが掛かっていて、後ろで一つに結んである。勝気そうな目でホールを見回して……


「なんだい?今日はヤケに静かじゃないか?」


「ぎ、ギルマス!」


「おや?見かけない顔だねぇ……しかも揃いも揃って明らかに強い。冒険者かい?」


「はじめまして。ツインホークスのまどかと言います。帝都に行く途中、町に立ち寄らせてもらいました。今日はそのご挨拶に」


「へえ、ガルんとこの。このバカ共に絡まれなかったかい?ここんとこ大した依頼も無いから、弛んでんのさ。コイツらまだまだ相手の力量を見る目が無いからねぇ……節穴ってヤツ?何かあったら直接私に言っとくれ。あぁ、私はカスリン。一応このギルドのマスターだ」


カスリンは握手をして奥の部屋へ入って行った。ふぅ……という冒険者達の溜め息と同時に、ホール内の緊張感が少し緩んだ。そしてジョーカーを見て、また背筋を伸ばすのだった。




◆まどか達は買い物を済ませ、空き地にやって来た。

カスリンがオススメの宿を言っていたが、空き地はないか?と尋ねたら怪訝な顔をしながら教えてくれた。宿を取れない程の貧乏かと思ったらしく、ギルドの空き部屋も勧められたが、丁重に断っておいた。今度から多少は宿を利用した方がいいかもな……まどかはそう思った。


土魔術で小屋を造る。ここに来るまで幾度となく繰り返してきたまどかは、そのイメージを更に詳細なものへと研ぎ澄ましている。ジョーカーもいるので部屋を増やし、ちょっとした別荘並の建物だ。案内して来たカスリンは、


「へぇ、た、大したものねぇ……」


と半分驚き、半分呆れた。


メグミは、買い物の時から浮かない顔をしている。何故あんなにまどかは強いのか?これまでのことを思い、悩んでいた。

自分の弱さを実感していた。世界を見て、何をすべきか考える……その思いで森を出たのに、こんなんじゃ……まどかがいなければとっくに命を落としていただろう。

何より川でのワイバーン戦の時、エルフィンボウは輝かなかった。森でトレントと対峙した時のあの力は、まぐれだったのか……

成り行きで一緒に行動しているが、いつまでまどかがそばに居るかわからない。まどかにはまどかの旅があるのだから……


意を決して、メグミはジョーカーに相談した。強くなりたい!せめて一人でも戦えるくらいに……

カスリンにギルドの訓練場を借り、ジョーカーを伴ってやって来た。


「私を鍛えて下さい!強くなりたいんです!」


「どうなされたのですか?メグミお嬢様は、お強いと思いますが?」


「私は、まどかの足でまといになりたくない……一人じゃまともに戦えない……」


「メグミお嬢様、人にはそれぞれ役割というものがございます。まどかお嬢様が近接の戦闘をし、メグミお嬢様は中長距離の攻撃をする。良い組み合わせだと思われますが?」


「私達は、たまたま知り合って、とりあえず一緒に行動してるだけなの……いつまどかと別れるかわからない……一人でも戦えなきゃ、この先……」


「左様でしたか……ならば、わたくしでお役に立てるかわかりませんが、メグミお嬢様の鍛錬のお手伝い、させていただきます」


そう言うとジョーカーは、メグミを観察し始めた。的の人形にナイフを打ち込むメグミを見ながら思案する。


「メグミお嬢様、そちらの装備は、どうなされたので?」


「これは、ゴブリン達から剥ぎ取った物を直して……」


「なるほど。わたくしが見ました所、装備がお嬢様に合って無く、動きを阻害しているようにお見受けします。防御力は下がるでしょうが、もう少し身軽な、サイズの合ったものをお召になった方が良いかと。それを補います意味で、両手にナイフを持っての、攻防一体の動きを身につけられれば、近接の戦闘もこなせると愚考いたします」


それからメグミは、革鎧を脱ぎ、投擲用に持っていたナイフを両手に持ち、ジョーカーを相手に模擬戦を繰り返した。ジョーカーはメグミの攻撃を躱しつつ……


「まだまだ踏み込みが甘いですぞ!脇がガラ空きでございます。もっと周囲全体に意識を集中して下さい!」


と、的確にアドバイスをする。日が沈み、メグミが立てなくなるまで模擬戦は続けられた。


「今日は、これくらいになさいませ。修練は一日で出来るものではありません。ですが最後の連撃は、なかなかのものでございました。明日は装備を整え、また模擬戦を行いましょう」


仰向けになったメグミに手を差し伸べ、そう言ってジョーカーは、メグミを抱き抱え、空き地の小屋に向かった。

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