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14、押し掛け執事

それからは、延々とティンクの説教タイム。

勝手に凶大な技を使うな!とか、周りの迷惑考えろ!とか、マナのコントロールが出来てない!とか、倒した獲物を放置するな!とか、危機管理がなってない!とか、二人が連携すればもっと楽に倒せた!とか、せっかくの肉がもったいない!とか……


所々我儘な部分もあるが、なるほど!と思わず納得する意見もある。ひょっとしたらこの妖精さん、マジで凄いやつなのかも……それはないか。


「まぁまぁ、お説教はそれくらいにしない?私達助けて貰ったんだし、そもそも私達に関わらなかったら、こんな目には合わなかったかもしれないでしょ?ティンクだって、次元収納あるのに、何もしないでジーッとお肉焼けるの見てたんでしょ?」


「え、あっ、そっ、それは、死骸なんて収納したくないじゃんか……ま、まぁいいわ、今度からちゃんと、気を付けてよねっ!」


ようやく収まったようだ。


「今日はもう遅いし、みんなヘトヘトだから、寝ましょ?」


「そうだね。もうクタクタだよ……」


その日は皆、泥のように眠った。




◆「コンコン……コンコンコンコン……」


「「ん?」」


扉をノックする音……え?ノック?こんなことをするのは、人間しか居ない。こんな場所で?迷った旅人だろうか?人の姿など、ここ数日見てないのに……まどかとメグミは身構える。ティンクは物陰に隠れる。


「よろしいでしょうか?」


落ち着いた声、丁寧な言葉使い、敵意は無さそうだ。


「誰?」


「わたくし、旅の者でございます。お話を聞いていただけませんでしょうか?」


少しだけ扉を開ける。そこにいたのは白髪の紳士、旅人だと名乗ったが、どう見てもタキシード姿だ。こんな格好で旅なんて……いや、まどかも他人のことは言えないが……


「何の用?」


「さて、どこから話せば良いのやら、どこまで話せば良いのやら……ここは正直に申しましょう。わたくし、先程まで魔界という所におりましたが、この度地上へ降りてまいりました」


「はぁ?」


「敵意はございません。むしろお嬢様方にお仕え出来ればと思っております。突然お邪魔して、信用などされるものでは無いとは思いますが……」


「そう、ですね……(何言ってんの?この人)」


「実はわたくし、昨夜のお嬢様方の戦いを見ておりまして、いやぁ感服いたしました!あれほどの獣の群れを討ち果たすとは……ただ、うら若き女性が日々戦闘に明け暮れるのも、いかがなものか?と……いえ、こちらの世界では、致し方ない事情なのかもしれませんが、ならばせめて、身の回りのお世話をする者が必要ではないか?と、わたくし愚考いたしました」


「は、はぁ……」


「わたくし、前世より御屋敷へ奉公する執事をしておりまして、これぞ我が天職!と自負しております。魔界より降りる際に、お嬢様方が討ち果たされました獣共の身体を拝借いたしました。竜種もありましたゆえ、わたくしのマナに耐えうる肉体を得て、今非常に感激しております。これも何かの御縁だと、わたくしに旅の同行をお許し願えませんでしょうか?」


「あんた、なかなか見どころがあるわねぇ!いいわよ!あたしの子分にしてあげる!あたしのことはティンク様って呼ぶのよ!」


「え、ちょ、勝手に!」


扉の隙間から飛び出したティンクが、胸を張って高笑いをしていた。



◆話は少し遡る。

男が一人、魔界より地上を見ていた。

まぁ、見る。と言うよりは、思念を集中させて感じる事が出来る。というのが正しいかもしれないが、何も無い魔界の闇の中で、自分の今までを振り返りながら……


「わたくし、セバスと申します。

長らく御屋敷にてご奉公させて頂きましたが、お嬢様をお護りする為に盾となり、暴漢の放ちました凶弾にて、命を落としました。良いのです。お嬢様さえ御無事ならば……

幸いにも、発砲音を聞き付けた巡回の警備兵により、暴漢は取り押さえられました。これで思い残すことはありません。後は若い執事達が継いでくれるでしょう。


わたくしは、天に召されるものと思っておりましたが、辿り着いたのは真っ暗な世界、後でわかったのですが、魔界へ来てしまったようです。生前わたくしは、邪な気持ちなど一切無かったというのに……冥界の王様も、酷い事をなさるものです。


どうやら魔界という所は、精神のみ存在出来る場所のようです。肉体を持たず、精神のみで浮遊し……時折他者と遭遇いたしますが、魔界の者達は、より強い精神生命体を目指すべく、皆戦いを挑んでまいります。まぁ、生前より心の鍛錬はしてまいりましたから、負けることは無いのですが……


戦いを挑んで来た者は、わたくしに打ち倒されますと、ただのマナの塊となり、放っておけば霧散してしまいます。その前にわたくしが触れますと、そのマナを吸収するようです。わたくしの中に力が溢れる感覚があるので、魔界の者達もこうやって、力を蓄えているのでしょう。


どれくらいの時が流れたのか、ある日言葉を使う者が近づいて来ました」


「よう!あんた、強いな……」


「それほどでも、ございませんが、何か御用ですかな?」


「いやなに、強いマナを感じたんでな、どんなヤツか見てみたかったんだよ。っても姿が見える訳じゃねぇけどな」


「左様でございますか。少々お伺いしてもよろしいですか?」


「あぁ、なんでも聞いてくれ。これでもオレは、地上で二度程受肉した事がある。魔界でも爵位を貰える程の悪魔だ」


驚きました。話によりますと、どうやら魔界では、寿命という概念が存在しないということです。魔界と地上、これを行き来するだけで、地上だから生、魔界だから死、という訳では無いそうです。


「受肉とは、なんですかな?」


魔物の上位、俗にデーモンと言われる者は、地上に降り立つ時に、依代となる肉体へ入るそうです。魔界の者達は、地上に悪しき心を見つけると、物見遊山で地上に降りる事があるらしく、

(極稀に人間の魔導士が悪魔召喚で呼び出すこともあるそうですが、大概は好きなだけ暴れて術者を殺し、地上に飽きたら魔界へ帰るそうで)

その時に精神生命体のままだと、マナが拡散して力が弱るのだと。そこで地上での仮の姿として、ある時は動物、ある時は人間の死体、人形や虫を依代にする者も居るとか。いやはや、わたくし、虫にはなりたくありませんな……


「オレくらいの上位者になるとよ、人間が戦争なんぞやらかした時を見計らって、一番激しそうな戦場に降りるわけよ。そこいらの人間の死体をかき集めて、好きな形に仕上げるんだ。死体が多ければ多い程、デカいマナに耐えられる肉体が出来るからな」


「なるほど。目から鱗ですな。単に憑依するわけでなく、自在に形を創り出せるとは……」


「あんたも行ってみなよ。何やら地上が騒がしくなりそうだぜ?」


「そうですね。わたくしもそろそろ、この何も無い空間には飽きてしまいましたから」


そう言うとセバスは地上に意識を向ける。気になる存在を見つけたらしい。


「ふむ。先程よりエルフ、いえハーフエルフでしょうか、銀髪の少女が竜種と戦っていらっしゃいます。絶対的不利な状況にも拘わらず、その姿は凛として、まるで名工が鍛えし業物の剣、鋭く、それでいて美しい。


川に投げ出され、竜に捕まったようです。惜しいですね。若くして命を落とすとは。まぁエルフ種は長命なので、本当に若いのかはわかりませんが……


おや?なんでしょう、黒髪のお嬢さん、人間に見えますが、本当に人種なのでしょうか?いやー、お強い!お美しい!面影がなんとなく、以前お仕えしていたお嬢様に似ていますね。

魔界の者かとも思いましたが、明らかに人種、もしくは亜人でしょう。勝気で男勝り、多少粗野な部分もございますが、困っている者を放っておけない、お優しい心根の方のようですね。エルフのお嬢さんも、どうやら命拾いしたようで、ようごさいました。


それにしても、人の身で在りながらあの強さ!実に興味深い。あの華奢な身体のどこにあんな力があるのか、なんと!アンデッドの召喚まで出来るのですか!実に多才な方ですね!心惹かれますねぇ……あのような方にご奉公出来たら、わたくしの執事スキル、余すところなく発揮出来そうです!


どれくらいぶりでしょうか、こんなに興奮したのは。丁度いい具合に、魔狼や竜種の死骸が出来ましたね。アレを使って、受肉というのを試してみましょうか……」




◆「だーいじょうぶだって!コイツなかなか使えそうだし、連れて行こうよー!なんかあったらあたしがシメるから……」


(いや、無理だろ。このおじさん、悪魔だ。しかも、あんだけあった魔狼達の死骸が一欠片も残っていない。まぁ、そのおかけで他の魔物が寄って来なかったのかもしれないが……明らかにデーモンの上位種だ。

妖精さんが適う相手じゃない。だが悪意や禍々しいオーラもない。口振りからして、元人間の転生者のようだが。他で暴れられても困るし、監視の意味でも同行させた方がいいのか?ふむ……)


「メグミ、いいか?」


「まどか、ティンクが勝手に、その、ごめんなさい!」


「まどかお嬢様、有難うございます!メグミお嬢様、ティンク様、よろしくお願いいたします」


「んで?あんた、名前は?」


「魔物や魔族というのは、本来名を持たぬものです。元の世界での名はございますが、今はこちらの習慣に則って名を捨てました。宜しければ、わたくしに名を下さいますか?」


(うーん、名前ねぇ……コイツの強さ……敵になろうが味方になろうが、厄介だ。使いようによっちゃあ、切り札にもなるだろう。切り札……トランプ?……違うな……ジョーカー……)


「ジョーカーなんて、どうだ?」


「おぉ!なんということでしょう!その名を聞いた瞬間、力が漲ってまいりました!今日からわたくし、ジョーカーと名乗らせて頂きます!何なりとお申し付けください、まどかお嬢様」


ジョーカーは恭しくその場で跪き、右手を胸に当て一礼した。どうやら魔族の上位個体というのは【名を持つ】事で力が倍増するらしい。一種の契約のようなものだそうだ。


「ちょっとちょっと!なんでまどかなの?あたしが子分にしてやるって言ったじゃん!」


「ティンク様、わたくしはまどかお嬢様に名を付けて頂きました。故にわたくしは、まどかお嬢様の下僕ということになるのです」


「えー!ちょっと、却下!やり直し!」


「申し訳ございませんが、出来ません」


「もう、諦めなさい、ティンク」


「だってだって、メグミ!あたしの子分がぁ」


「もう無理よ。それより……」


かくして、悪魔執事を従えたまどかは、メグミ達と共に、人里を目指すことに。


「ここを抜けると町があるらしい。まずはそこへ行こう」

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