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12、意志を継ぐ者

「ちょ、ちょ、ちょっとちょっとちょっと!待って待って待って!え?なに?どういうことどういうことどういうこと?今の、今のって、ジーニアスの奥義、エクスキュージョン·アローじゃない!なんであんたが……」


さっきまで後ろに隠れていたティンクが、やたらに騒がしく飛び回り、早口で捲し立てる。

周りのトレント達は、度肝を抜かれ、我に返り、怒りに震えていた。


「き、貴様ー!人間風情が、よくも……」


「ゴゴゴゴ……」


大地が震えた。トレント達の怒りかと思ったが、どうやら違う。そのトレント達でさえ何が起きているのか解らず、ザワザワしていた。


「鎮まれぇい」


地響きのような重低音の声がする。


「「「神樹様!」」」


「トレント共よ、ヌシらが仕掛けた腕試しであろう?討ち果たされて怒りを露わにするなど、森に生きるものに有るまじき行いぞ」


「「「申し訳、ございません」」」


「メグミ=ジーニアス、汝をジーニアスを継ぐものと認める。今一度我が元へ来るが良い」


思わず跪き、頭を下げるメグミ。王威か神言とでも言えばいいのか、礼を尽さねばならぬ相手だと本能的に悟った。


「へっへーんだ!あたしのメグミは、神樹様のお墨付きだよ!」


1人空気が読めないティンク。トレントの間を飛び回り、メグミの肩に乗りふんぞり返る。


「戻ろう」


そう一言言うと、メグミはユグドラシルへ向かった。道中ティンクが、最初から見どころがあるヤツだと思ってた!とか、あたしの子分にしてやる!とか、散々うるさく飛び回るが、ほぼ聞いていなかった。


メグミは自分の力に驚いていたのだ。弓の心得はあるが、それはあくまでも競技としてである。先程の力は、自分の集中力だけでは撃てるはずが無い。

弓に宿るエルフの力……ジーニアスの思い、祈りと言ってもいい。この力で森を守っていたのだろう……そう悟った。そして自分も、できることならこの豊かな森を守りたい……そしてこの世界の人間のことを知りたい。漠然とだが、そう思っていた。


(だから力を貸してくれたのかな、ジーニアスさん)



ユグドラシルの中、エリスに迎えられ、祭壇のような場所の前で跪く。エリスは森での出来事を精霊達の力によって、全て見えていたらしい。


「ではメグミ=ジーニアス、貴女の気持ちを聞かせてください」


まだ考えが纏まっている訳ではない。しかし今、僅かに灯った心の種火のようなもの……それが何かはわからないが、めぐみの中で、小さくも確実に突き上げる衝動として疼いていた。


「……私は、普通の女子高生でした。元の世界に帰りたい……と、思わない訳ではありません。でも、仮に戻れたとしても、もう私の居場所なんて、ないかもしれない……エリスが言うように、私がこの世界に来たことに、もし意味があるのなら……元人間として、出来ることがあるのなら、私はこの世界を見てみたい!今は、そう、思います」


ビルの鉄骨が降ってきた記憶がある……エリスの言う通り、おそらく自分は死んだのだろう……ならばこの世界で、精一杯生きてみよう!メグミ=ジーニアスとして……そう決意したのだ。


「わかりました。では、神樹の森を導く者として、この私、ドライアドのエリスの名において、メグミ=ジーニアスに依頼します。神樹ユグドラシルの加護を受けし者よ、貴女の意志はこの森の意志です。その目で世界を見、成すべき事を考え、その心のままに行動なさい」


「承りました。豊かな森を護るため、この世界の人間をこの目で確かめて参ります」


今はこれでいい。先ず見てみなければ、何も出来ない。いや、私なんかが何か出来るのか、それすらもわからない。それなら見て回ろう。この世界の全てを……




◆森の外れ、ここを一歩出れば人間の世界だ。


「先ずは近くの町へ行こうかな」


「まてまてまてまて、待ったぁ!」


相変わらずの騒がしさ、あの妖精しか居ないな……


「まさか、あたしを置いていく気じゃないでしょうね?」


「……ティンク、あなた森を出られるの?エリスに怒られない?」


「へっへーん!アンタを守るのがあたしの役目だって言ったでしょ?森の外だって、お使いに行ったことあるんだから!アンタより詳しいわよ!」


「私は元人間だから、人間の世界がどんな所か、少しは知ってるわよ。トレント達より怖い、強い、悪ーい奴だって居るかもよ?」


「え、そ、そうなのか?」


ティンクは、散々トレント達の間を飛び回り、メグミの自慢をしたもんだから、トレントの反感をかったらしい。今メグミに出て行かれると、その反動が必ず来る。フルボッコで羽根を毟られる未来しか見えないのだった。


そこでティンクは考えた。例えトレントを上回る邪悪な強者が現れても、メグミの傍に居れば何とかなるんじゃね?最悪メグミが戦ってる間に逃げればなんとかなるかも?

森に残ってトレントにフルボッコよりは、遥かにマシじゃね?エリス様には……後で謝ろう。最悪メグミに連れ去られたって言えば、怒られずに済むかも……とにかく、なんとしてもメグミについて行かなければ……

実に浅い、自分勝手な考えである。トレントのフルボッコを想像し、ぶるりと震えると、


「……あ、いや、あの、あたしにはメグミの監視とか、護衛とか、その、色々……お願い!連れてって!メグミ!メグミ様!連れてってください!」


「……ふぅ……怖い目に遭っても知らないよ?」


「大丈夫だってー。メグミも居るし、あたしだって絶対役に立つから!そのうちあたしに感謝する日が来るわよ!」


「……もう、勝手にしたら?」


メグミは、押し切られた。まぁ、そのうち飽きて帰るだろう……と、深く考えないようにした。


「あたしがついてるから、大船に乗ったつもりでいていいわよ!」


「ティンク、船見たことあるの?」


「な、ないけど……ものの例えでしょうがっ!一々揚げ足とるなーっ!」


こうして、ティンクの同行が強引に決まったのだった。


「……あ、そうだ、町に行くけど、町にいる間はなるべく姿を見せちゃダメだよ?」


「え?なんで?」


「多分、人間から見たら、ティンクは珍しいと思うのよ。悪い人間に捕まって、売り飛ばされるかもしれないでしょ?」


「そっかぁー、あたし程の美貌、そりゃ人間には神秘的でしょうね!手に入れたくなるのも頷けるわ。でも独り占めはダメだよー!だってあたしは、みーんなのアイドル!だから……」


「ま・も・れ・る?約束」


「わ、わかったわ。でもちょっとくらい、あたしも人間の世界、見てみたい……」


「私が町を調べて、大丈夫そうなら、いいわよ」


「よし!メグミ、早く調べて来て!大至急!急いで!」


「まだどこに町があるか分からないわよ……とりあえず、道を探しましょ。人間が行き来する所には、必ず道が出来ると思うのよ。その道を辿れば、町に行けるんじゃない?」


「アンタ冴えてるじゃない!道よ。道を探すわよ!グズグズしないでメグミ!」


「はいはい……」


こうして奇妙な二人の旅は、始まった。これからも度々ティンクに振り回されるんだろうな……なんとなく覚悟を決めるメグミだった。




◆「ちょっとメグミー、急ぎなさいよー!」


(やれやれ……)


メグミ達は、平原を歩いていた。

時折獣を見つけては射止め、樹木魔術で木陰を作り、テントを張って野草を摘み、肉と焼いて食べた。ゴブリンやコボルトに出くわす事もあったが、メグミの樹木魔術の蔦で絡め取り、矢で射れば問題なかった。

森でのトレント達との一件のような、集中力を高めての奥義は、複数の敵に囲まれた時には不利だ。集中している間に、敵が待っていてくれる訳はない。メグミはこの平原で実践的な戦い方と、野営など生活に必要なことを学んでいった。


ゴブリン達の中には、旅人が落としたり冒険者を倒して剥ぎ取ったであろう武器や防具、貨幣などを持っているモノもいた。ジーニアスが持っていたスキル構成の恩恵なのか、メグミは使えそうな防具を直して装備し、獲物の解体や投擲用にナイフも数本装備した。


ティンクは、次元魔術という特殊な術が使えた。次元収納とは、言わば青い猫のポケット的な術。ティンクは手当り次第残りの武器、防具を入れた。町で売れば、小遣いくらいにはなるだろう。こういう所は抜け目ないヤツだ。


「大漁大漁!」


「でも……魔物には遭遇するけど、人間には会わないわね……道はまだ遠そうね」


「そのうち見つかるさ!この辺はそんなに強い魔物は出なそうだし、今のうちに稼ごうぜ!」


「……ふぅ、やれやれ、フラグじゃなきゃいいけど……」


「なんだそれ?」


「なんでもない。明るいうちに、もう少し進もう」


「よーし、張り切って行こう!」


そうして二日が経った。相変わらず道にはたどり着けなかったが、川を見つけた。


「人間の生活には水は不可欠。川を辿れば、きっと人間がいるはず」


「お前、時々スゲーな。よし!川を辿ろう!」


「せっかく川なんだし、樹木魔術もあるし……ねぇティンク、船、乗ったこと無いって言ってたよね?」


「うん。ってお前まさか!」


「船……はムリかも。でも筏くらいなら……」


メグミは魔術で丸太や蔦を使って筏を作った。


「初めてにしては、上出来じゃない?」


早速、筏を川に浮かべ乗ってみる。長い枝を竿替わりに、岸を押した。流れに乗り、筏は進んで行く。


「出航だぁー!」


「おーっ!」


途中、興奮して飛び回っていたティンクが、川から飛び出した大型の魚に食べられそうになった以外は、順調な川下りだった。今もまだティンクは、メグミにしがみついてプルプル震えている。川面を覗くこともしない。これはトラウマになったな。川を嫌いにならなきゃいいけど……フライフィッシングって、こういう事なんだろうね。ティンクに糸を付けて飛ばしたら、魚釣れるかもよ?とか言ったら、泣きながら両腕を振り回し飛び掛ってきた。ごめんって、冗談だって!しかし、ホントにいるんだね、泣きながら腕を振り回すヤツって……


「ティンク、川は見なくていいから、人間の気配くらいは探知しててね」


「うぅ、グスン、わかったよ……」


ようやく泣き止んだかな。実は、結構頼りにしてるんだよ。声に出したら調子に乗るから言わないけど……


「人間の気配はない。ない、けど……」


「けど?」


急に辺りが薄暗くなった。空を見上げると、雲では無い。ここまで気配に気付かないなんて……太陽を遮り、大空に羽ばたく影……


「「レッサーワイバーンだ!!」」

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