二重人格者の俺、好きな女の子に告白され晴れて恋人同士に! だが、俺のもう一人の人格も、他の女の子に告白されて……!?
「こ、小林くん――好きです! 私と付き合ってください!」
「――!!!」
放課後の人気のない裏庭。
そこで俺は――ずっと密かに恋心を抱いていた、クラスメイトの白石さんから告白された。
う、うおおおおおおおおおおお!!!!!
奇跡だ!!!!
奇跡が起きた!!!!
奇跡も、魔法も、あったんだ!!!!(迫真)
「あ、うん……、お、俺なんかでよければ、よろしく」
「ホントに!? 嗚呼、どうしよう、夢みたい……!」
白石さんは口元を両手で覆い、その宝石のような瞳を潤ませた。
いや夢みたいなのは俺のほうです滅茶苦茶愛してます一生幸せにします子どもは野球チームが作れるくらいほしいです大事なことなのでもう一度言います滅茶苦茶愛してます。
「えへへ、じゃあこれから私たち、恋人同士だね」
「――!!」
白石さんは後ろ手を組んで、小首をかしげながらそう言った。
アッッッッ(萌死)。
やっべ。
これ俺の心臓寿命までもつかな?
人間が一生に打つ心拍数は23億回くらいって聞いたことあるけど、このペースだと高校卒業までに23億回到達しちゃうよ?
「じゃあさ、小林くん、よかったらこの後、私が部活終わるまで待っててもらえないかな? できたら小林くんと一緒に下校したいなって。……ダメかな?」
「――!!!」
白石さんは必殺上目遣いで俺を見つめてきた。
アッッッッ(萌死再び)。
「ぜ、全然ダメじゃないよ何百時間でも待ってるし何なら俺も新しい部活立ち上げてやろうかとも画策してたしちょうど昨今の少子化対策についても熟考したかったところだから思う存分部活してきて!!」
やっべ!
興奮しすぎてメッチャ早口になっちまった!
これじゃ白石さんからキモがられる!!
「ふふ、やった。じゃあ部活終わったら連絡するね」
「え? あ、うん」
白石さんは素早く俺とトークアプリのIDを交換すると、「また後でね!」と、流れるような長い黒髪をなびかせながら去っていった。
……天使!!
どうやら俺は、天使と恋人同士になってしまったらしい!(名推理)
「………………あ」
その時だった。
あまりのことに浮かれてすっかり失念していたが、俺は白石さんと付き合うにあたって、とても重大な問題を抱えていることを思い出した。
『なあユウヤ、ちょっと今から少しだけ身体借りてもいいかな? 大事な用事があんだよ』
「――!!」
噂をすれば影。
問題その人であるユウジの声が、俺の頭に響いた。
『あ、うん、いいよ。……でも、俺も後でユウジに大事な話があるから、聞いてくれるか?』
俺は頭の中でユウジに返事をする。
『おっ? そうなの? ああ、オッケーオッケー。ほんじゃ借りるな』
『あいよ』
俺が身体の主導権を手放すと、俺の意識はすうっと闇の中に吸い込まれていった。
――俺は所謂二重人格者だ。
物心ついた時には、俺の頭の中には、俺の他にもう一人の人格がいた。
それが当たり前だと思っていた当時の俺は、しばらくしてから普通のことではないと知った際はそれなりにショックだったのを今でも覚えている。
俺の戸籍上の下の名前は悠だが、俺の家族は便宜上、俺のことはユウヤ、もう一人の俺のことはユウジと呼んでいる。
俺とユウジはある程度自由に身体を入れ替えることができるし、ユウジとは馬も合うので(もう一人の自分だから当然といえば当然だが)、今までは特に問題なく生活してこれたと思う。
――だが、これからは問題だ。大問題だ。
平穏な高校生活を送るため、俺たちは二重人格だということを学校では隠している。
……そして俺が白石さんを好きだったということも、ユウジには秘密にしていた。
――だというのに!
俺はユウジに断りなく、一存で白石さんと付き合ってしまったのだ!!
俺の身体は俺だけのものではないというのに……!
嗚呼、ユウジには何て説明しよう……。
あと、白石さんにも……。
そんなことをぐるぐると考えていたら、いつの間にか結構な時間が経っていた。
身体をユウジに渡していると外の状況は一切把握できないので、今何時なのかもわからない。
もし白石さんの部活が終わっていたら、俺たちのスマホに連絡がきてしまっているかもしれない!
と、とりあえずユウジにもう一回身体を入れ替えてもらうか。
『なあユウジ、さっき言ってた大事な用事ってもう終わったか? だったらまたちょっと身体借りたいんだけど』
『ん? ああ、終わったぜ。でもなぁ……』
『え?』
何だ?
歯切れが悪いな。
『まあいいか。まずは自分の目で見てもらったほうが早いよな。じゃあ身体渡すぜ』
『っ? オ、オイ、ユウジ?』
何その言い方!?
メッチャ怖いんだけどッ!?
嫌な予感をビンビンに感じながらも、俺の意識は身体に戻っていった。
「……悠、好きだよ」
「………………は?」
目を開けると、俺は先程白石さんから告白された場所の近くにあるベンチに腰掛けていた。
――そして俺の肩には、一人の女性がしなだれかかっている。
いったい何が起きてるんだッッ!?!?!?
「――!! た、高橋さん……!?」
「ん? どったの? そんな鳩がギャリック砲を食ったような顔して?」
見れば、それはクラスメイトの高橋さんだった。
何故高橋さんが俺の隣に!?!?
し、しかも今、俺のこと『好き』って……!?
『いやあ、実はさあ、ついさっき俺、高橋から告白されちゃってさあ』
『ユウジッ!?』
お前もかよッッッ!!!!
そんなことあるッッッ!?!?!?
『……今まで黙ってて悪かったけど、俺、ずっと高橋のことが好きだったんだ』
『――!! ……ユウジ』
『だから俺の一存で、高橋と付き合わせてもらうことになった! 事後報告になっちまって、ホントスマンと思ってるッ!』
『ユウジ……!』
本来なら苦言の一つも言ってやりたいところだが、俺もまったく同じことをしてしまっている手前、何も言えねぇ……!!
やっぱ俺たちは、似た者同士なんだな……。
――だがこれはヤバいぞ。
バブル崩壊直前の日本経済くらいヤバいぞ。
例えば俺たちが双子の兄弟とかであれば、お互いが違う女の子と付き合っていても特に問題はない。
しかし、俺たちは同じ身体を二人で共有しているのだ。
つまり傍から見たら、まるで二股をかけているように見えてしまう……!
俺は白石さん一筋なのにッ!!
「ねえ悠? 何でさっきからそんな鳩がビッグバンアタックを食ったような顔してるの?」
「っ!?」
むしろ高橋さんは何でそんな鳩にベジータの技を食らわせようとするの!?
鳩に恨みでもあるの!?
「い、いや、何でもないよ……」
「ふうん? ま、いっか! こうして晴れて、悠と恋人同士になれたんだもんねッ!」
「っ!!」
高橋さんは俺の腕に無邪気に抱きついてきた。
あっ!! いや、その、それは……!!
違うんです白石さん……!!
これは決して、浮気ではないんです……!!
……それにしても、まさかユウジが高橋さんのことを好きだったとはなぁ。
ちょっと癖のかかった煌めくような茶髪に、テニス部で健康的に日焼けした肌。
そして猫を連想させるパチッとした大きな瞳。
大和撫子というワードがピッタリな白石さんとはある意味真逆だけど、確かに言われてみればユウジの好みど真ん中って感じだ。
「――!」
その時だった。
俺のポケットの中のスマホが、不意にブルルと震えた。
ま、まさか白石さん……!?
「あ、ちょ、ちょっとゴメンね!」
「え? う、うん」
俺は高橋さんからは見えないように、コッソリとスマホを確認した。
案の定、白石さんからメッセージが届いていた。
『お待たせ!
部活終わったよ
小林くんは今どこかな?
昇降口で待ってるね♡』
ハートマークウウウウウ!!!!!
ハトのマークの引越センタアアアア!!!!(?)
まさかこんなところで鳩の伏線を回収するとは(こういうのは伏線回収とは言わない)。
「? ねえねえ、マジでどったの悠?」
「っ! い、いや、何でもないよ。……ゴメン! 俺ちょっと、トイレ行ってくる!」
「あ、うん」
不安そうな顔の高橋さんに心の中で何度も謝罪しながら、俺は昇降口へと駆けた。
トイレに行きたかったのは事実だから、ついでに寄っていこう。
『なあユウヤ、もしかして怒ってるか? 俺が勝手に高橋と付き合ったこと』
「――!」
トイレから出て昇降口へと向かう途中、ユウジが話し掛けてきた。
『いや、怒ってはいないよ』
俺に怒る資格はないし。
『むしろ俺もユウジに、後で謝らなきゃいけないことがあるんだ』
『ああ、さっき言ってた大事な話ってやつか? 水臭えな、俺とお前の仲じゃねーかよユウヤ。何を言われても、俺は怒りゃしないよ。まっ、話を聞くのはいつでもいいから、都合がいい時に声掛けてくれや』
『サンキュー』
お前はサッパリしててホント気持ちのいいやつだなユウジ。
何かにつけてウジウジ悩みがちな俺とは、ある意味真逆だな。
「お待たせ白石さん!」
「あっ、小林くん!」
昇降口に一人ポツンと立っていた白石さんのところに、息を切らせながら到着した。
そんな俺を見付けた白石さんは、満面の笑みを浮かべながら、とてとてと小走りで近寄ってきた。
かーーーわいいッッ!!!!
俺の彼女かーーーわいいッッ!!!!(早速彼氏面)
「じゃ、帰ろっか!」
「――!!」
白石さんは、俺の腕にぴょんと抱きついてきた。
うおおおおおおおおおおお!?!?!?
白石さんって清楚そうに見えて、意外と積極的いいいい!!!!
……あ、でも待てよ。
このまま俺が白石さんと帰ってしまったら、高橋さんを置いてけぼりにしてしまうことに……。
「――!」
その時だった。
俺のポケットの中のスマホが、不意にブルルと震えた。
その瞬間、俺はそこはかとなく嫌な予感がした。
「あ、ちょ、ちょっとゴメンね!」
「え? う、うん」
俺は白石さんからは見えないように、コッソリとスマホを確認した。
そこにはこんなメッセージが届いていた。
『もう、随分トイレ長くなーい?
付き合たての彼女を長時間放置とか、感心しませんぞ!
早く帰ってきてほしいにゃん♡』
お前もID交換してたのかユウジーーー!!!!
高橋さんからの初めての『にゃん♡』を、俺が受け取ってしまってゴメンよおおおおお!!!!
「どうかしたの小林くん? そんな鳩がかめはめ波を食ったような顔して?」
「っ!」
白石さんは悟空派なんだねッ!
二人とも鳩に親でも殺されたのかな!?
「いや、特に何があったってわけでもないんだけど……。あ、そうだ! 俺ちょっと教室に忘れ物してきちゃったから、取ってくるね! ここで少しだけ待ってて!」
「あ、うん」
不安そうな顔の白石さんに心の中で何度も謝罪しながら、俺は裏庭へと駆けた。
今日の俺は、不倫がバレた芸能人並みに謝罪してばっかりだな……。
「もう、おっそいよー! そんなに凄いのが出たの? アハハ!」
「っ!」
裏庭のベンチに戻ると早々、高橋さんが下ネタをブッ込んできた。
このサッパリとした性格。
確かに同じく光属性のユウジとお似合いだな。
「ま、いいや。ねえねえ悠、ちょっちここ座ってみ?」
「え?」
自分の隣のスペースを、ポンポンと叩く高橋さん。
何だろう?
言われるがままそこに座ると――。
「はいどーん」
「――!!!」
そのまま頭を引っ張られ、高橋さんのふとももの上に乗せられた。
ひ、膝枕だああああああああ!!!!!!
高橋さんのふともも、柔らけえええええ!!!!!!
「んふふー、こういうの男子の夢なんでしょ? 夢が叶ってよかったね、悠」
「あ、ああ……」
『にゃん♡』だけに飽き足らず、初めての膝枕も俺が受け取ってしまい、本当にユウジには申し訳ないと思っている……!!
――その時だった。
「……そ、そんな、小林くん」
「「――!!!」」
こ の 声 は!!!!
「何だか様子がおかしかったから、コッソリ後をつけてきたら……。これはどういうことなの小林くん……。説明してもらえる?」
そこには白石さんが、虚ろな目で佇んでいた。
ノオオオオオオオオオオウ!!!!!
「え? 何? 悠と白石さんて、仲よかったっけ?」
「いいも何も、私は小林くんと付き合ってるんですけど」
「はああああ!?!? 悠は私と付き合ってるんだよ!?!?」
「ええええッ!?!?」
もうお終いだああああああ!!!!!!
不倫がバレた芸能人を参考に、謝罪会見を開かなきゃあああああ!!!!!!
『なあユウヤ、ひょっとして何かヤバいことでもあったか? 俺でよかったら、相談に乗るぜ』
「――!!」
ユウジ……!!
流石もう一人の俺!
本能で俺たちの身に起きている、未曾有の危機を察知したんだな。
……確かにこれは俺一人でどうにかできる状況じゃない。
こうなる前に、もっと早くユウジに相談しておくべきだったな。
『ああ、実は――』
一触即発な空気を発している白石さんと高橋さんにハラハラしつつも、俺は掻い摘まんで素早く事情を説明した。
『……なるほどな。でもこりゃ、もう正直に全てを打ち明けるしかねーんじゃねーか?』
『ユウジ!?』
俺からの爆弾発言にさして驚いた様子もなく、あっけらかんとそんなことを言うユウジ。
こいつはホント、羨ましい性格してるよなッ!
……とはいえ、確かにこうなってしまった以上、ユウジの言う通り、全部暴露する以外に道はないだろう。
信じてもらえるかは別問題だが……。
俺は大きく一つ深呼吸してから、二人に向き合った。
「白石さん、高橋さん」
「「……」」
二人の射殺すような視線が痛い。
くぅ! だが、ここで引くわけにはいかない……!
「信じてもらえないかもしれないけど――実は俺は、二重人格なんだ」
「「――!!」」
二人が同時に、大きく目を見開く。
「今の俺は家族からはユウヤって呼ばれてて、俺のもう一人の人格は、ユウジって呼ばれてる」
「「……」」
二人は無言で、俺の話に真剣な表情で耳を傾けている。
「ユウジと俺は、お互い相手に身体を渡してる時は、外の状況がまったく把握できなくてさ。――俺がずっと好きだったのは白石さんで、ユウジが好きだったのは、高橋さんなんだ」
「「――!!」」
「だから白石さんから告白を受けたのは俺で、高橋さんから告白を受けたのはユウジだったんだ! ……まさか同じ日にお互い違う相手から告白されるなんて、夢にも思ってなくてさ。こんなことになってしまって、本当に申し訳ないと思ってる!!」
俺は二人に、深く頭を下げた。
嗚呼、これで俺の初恋も儚く散ったかな。
今の話を信じてくれたとしても、二重人格者とは付き合いたくないだろうし、噓だと思われたら、ただの小賢しい言い訳をする二股野郎だもんな……。
――が、
「なーんだ、そういうことだったんだね」
「どうりで雰囲気がちょくちょく変わると思ってたよ」
「――!!?」
白石さん!?!?
高橋さん!?!?
頭を上げると、二人はまるで憑き物が落ちたみたいな、スッキリした顔をしていた。
んんんんんんん!?!?
「そういうことなら問題ないよ。私が好きになったのは、あくまでユウヤくんだし」
「ああ、アタシも好きなのはユウジだから、同じく問題ナッシング!」
「正気かい二人とも!?!?」
そんな秒で割り切れるもの!?!?!?
いや、こちらとしては、願ったり叶ったりではあるのだけれども……。
「じゃあさ高橋さん、今後はローテーションで、ユウヤくんたちをシェアするってことでいいかな?」
「オッケーオッケー。ほんじゃ白石さんは月・水・金担当で、アタシは火・木・土・日担当ね」
「えー、それはズルいよお! 私もユウヤくんと、土日にデート行きたいもん!」
「あ、じゃあいっそのこと、週末はダブルデートするってのもアリじゃない?」
「あ! それいいね!」
スゲー盛り上がってるじゃん二人!!
『なあなあユウヤ、あれからどうなった?』
……うん、まあ、一応ハッピーエンドってことで、いいのかなこれは?
さてと、ユウジにどう説明するべきかな。
きっとユウジのことだ。
あっけらかんと、『そっか、よかったな!』とでも言ってくるに違いない。
お読みいただきありがとうございました。
普段は本作と同じ世界観の、以下のラブコメを連載しております。
もしよろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)