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8話「私は悪くない」


「死神くんってさ、喋りやすいよね」

「運命の相手ですからね」


 もうやだ♡ こんな永続派遣社員を口説いてどうするつもり♡


 家に帰ると、今日も昔の歌姫の『ちょっと待って』が出迎えてくれる。でも待たないよ。この団地の六畳一間が私のホームだもん。

 そしてやっぱりいた死神くんに「おにぎりありがとう」と言えば、「お粗末さまでした」という言葉が返ってきた。


 だけど死神くんは「うーん」と唸ったまま机から動かない。正確にいえば、テーブルの上に乗せられた眼球くんと耳恵ちゃんを両手でくりくりしたまま動かない。


「ところで……何をしてるのかな?」

「昨日撮った録画を編集してます」

「そっか。首尾はどうかな?」

「……やっぱり僕なんて死んだほうがいいのかも」


 はぁ~~~と、深いため息を吐いて、死神くんがうなだれる。

 眼球くんからは、昨日見た津田さんの映像が流れていた。しいて昨日と違う点は、画面の端に首だけの男の子と女の子がピョコピョコ飛び跳ねていることか。そして耳恵ちゃんからは私と死神くんの声が聞こえる。

 私は映像の首だけ女の子を指差して聞いた。


「このおかっぱで赤いリボン着けたのが私?」

「そうです。似てるでしょう?」

「なんか、まんま『トイレの花子さん』じゃね?」

「違うますよ。『団地の花子さん』です。リボンがフリフリでしょ?」


 ……まぁ、確かにリボンがレースっぽくてフリフリしているけど……え、いいの? 著作権的なのとか、大丈夫なの?


「……それで、なんでそんなに落ち込んでいるのかな?」


 正直言えば、お腹が空いた。お昼休みの後は普通に働いて。だけど居づらいから定時で上がらせてもらって(元から残業代節約で派遣は定時帰りを推奨されているのもある。優良企業ありがとう)。だからまだ夕方の六時すぎではあるんだけど……空いたものは空いたのだ。

 だけど、死神くんの様子からに今日はまたインスタントラーメンかなぁ、まだ残ってたっけなぁ、とか考えていると、死神くんが言う。


「あ、夕飯ならすぐですよ。昨日のもやしをラーメンにトッピングしようかと」

「お、豪華!」

「……本当に豪華絢爛なラーメン作ったら、お願い聞いてくれますか?」


 え、なんだろうお願い。お金ならまだないよ。あと三日待って。給料日まで待って。


「も~~~ちょっとでいいから、ちゃんと喋ってくだされ~~」


 死神くんがどんっとテーブルを叩いて懇願してくる。

 私はぽかんとしながら、とりあえずかばんを置いた。


「え、死神くんとはそれなりにお話できているつもりだったんだけど……なんか喋りやすいし」


 あれかな。出会いが唐突すぎて色々展開も唐突すぎたせいかな。油断するとすぐ「死にたい」というから面倒だけど、会社とはうって違ってちゃんとコミュニケーション取れてるなぁと自負していたのに……。


 私がショックを受けていると、死神くんが嘆息した。


「違いますよ。僕に心開いてくれている点は感謝してますし、僕も花子氏と楽しくおしゃべりできて嬉しく思ってます」

「ありがとう。でも普段の呼称も『花子氏』になっちゃったんだね」

「もっと動画内で喋ってくれって言っているんです!」


 あー、それ? そっちなの? 

 なーんだ。なんか急にどうでもよくなってきたぞ。


「えー、あれじゃあダメだったの? 寡黙な花子さんキャラじゃダメ?」

「ダメですよ! もうつまらないんです。ほんっとーに動画がつまらないんですっ!」

「えー」


 ブーブーと口を尖らせると、死神くんの目がうるうるしていた。え、ミハエル様の涙? しかも何その可愛い顔は……あ、ミハエル様じゃない眉毛の生え際の毛流れが違う。でもイケメンの半泣き顔はなんのご褒美でしょうかご馳走さまです。


 でもさー、つまらない文句言われてもさー、こっちも思うところはあるわけですよ。


「でもつまらないの、私だけのせいじゃないんじゃないの?」

「……どういうことですか?」

「だって、津田さんの半生ぜんぜん面白くないじゃん」


 私の言葉に、死神くんは心底まじめに首を傾げた。


「そうですか?」

「そうに決まってるでしょ! あんな幸せライフ見たって胸糞悪いだけでしょーがっ!」


 あらやだレディが『糞』なんて口にしたらはしたないわ♡

 でも事実は事実だもんねー。嫌いなやつの幸せなところ見たってどこが面白いのか。でも視聴者からしたらそうでもないのか? 私の性格が悪いだけ? でも私が面白くなかったら面白いコメントというのもできないものじゃあなかろうか。

 うん。だから多少口が悪い結果になろうとも、これも死神くんのため。うん、わたしゃ悪くない。


「……そういうことなら、続きを見てみましょうか」

「え、続きあるの?」


 死神くんが、またくりくりと眼球くんと耳恵ちゃんを操作しだす。

 そして、眼球くんがブルッと大きく震えた。

 おずおず死神くんの隣に座れば、映し出されるのは津田さんの家。おー、おうちデートってやつじゃん。小太りな婚約者のオッサンもいるぞ?


「これってリアルタイムなの?」

「いえ、昨日の映像ですね。ちょうど僕らが過去の彼女を見ていた時間帯です」

「なるほど」


 まぁ、リアルタイム生中継はできないシステムなのかな。

 それはそうだとしても……おうちデート覗き見るってヤバくない⁉ あれでしょ、おうちデートって映画とか見てたら徐々にイチャイチャしだしてしまいにゃ映画そっちのけでにゃんにゃんしちゃうもんなんでしょ? 私したことないけど!


 えーやだよー。そんなの見たくないよー。思わず両目を覆おうか思ったけど……なんか雲行きがおかしいぞ?


「おやおや、喧嘩してますな」


 死神くんがニヤリと笑う。

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