31話「死神界のアイドルでっす☆」
「はーい、みなさんおはこんばんは~。死神界のアイドル☆団地の花子さんでっす。え? おまえ如きがアイドルなわけないって? あっはは~、そーですよ? でも私、生者ですから。死んでるみなさんに比べたら生者パワーがキラッキラ……あ、ごめんなさい、石投げないで! それ墓石でしょ? 罰当たりめ……あ、自分のだからいいのかあっはは~☆」
……うん、ごめんて。耳惠ちゃん、目がないくせにそんな冷たい視線(?)向けないでよ。花子が頑張ってテンションアゲアゲ☆したらこうなるんだってば……。
一人っきりの人生実況解説動画。正直、動画に出来るわけがないから(花子氏に編集技能あるわけナッシング)、こんなペラペラ喋る必要ないんだけど。
でもさ、やっぱり好き勝手言ってやりたいわけですよ。
「そんなこんなで、人生実況解説動画、早くも最終回となりました~。ぱふぱふ~。え、まだ四回でしょ終わるの早すぎるって? だって相方の死神くんが転勤になっちゃったからしょーがないじゃん。アイツが悪い! 花子、悪くない! はい復唱、花子、悪くないっ‼ …………はい、おっきな声でありがとうございます。てなわけで、最後は不肖花子が一人で実況解説して参ろうと思います。あー疲れた」
うん、開始早々疲れたな。最後まで持つかな、これ。
でも、始めちまったモンはしゃーない。冥界だか黄泉の国だかで、この録画を見て、死神くんが『フヒッ』と笑ってくれるなら。
ちょ~と花子さん、頑張っちゃうもんねー♡
「てなわけで、最終回のターゲットはぁ~……でけでけでけどんっ! 藤原の宗一郎さん! え、誰だって? ヤダなぁ、みんな大好き死神くんのことじゃないっすか~。あんな色素と幸薄そうなイケメンフェイスしておいて、ソーイチローですよーふっふー。どうしてウチの家系はこんな名前が渋いんだか……あ、宗一郎どのは私のおとーさんです。私の旧姓は藤原花子でした。わたしとみんなだけのヒ・ミ・ツ♡」
ほんと、ヨネ子やら宗一郎やら花子やら。もうちょっとアンドレ☆オスカーみたいなカッコいい名前は付けれんのかね、と思うけど。でも藤原アンドレも御手洗オスカーも嫌なので、名付けって本当難しいね、と思う今日のこの頃。
そんな好き勝手喋っていると、ずっと踏ん張っている眼球くんが疲れたと言わんばかりにプルプルしだしたので――本題に入ろうと思います。
「はーい、それじゃあ本編いきまっしょい! 眼球くん、どぞっ!」
私が声を掛けると、眼球くんがブルブルし始めました。
目から映し出されるハイビジョンに映るのは、お綺麗な一軒家……というより、お屋敷でした。白い壁。赤い屋根。一等地に建つ立派なお屋敷で、すっぴんなのに目鼻立ちがくっきりのお母さんに抱っこされている赤ちゃん……が、多分お父さんでございます。
「え~……赤ちゃんですね。おばあちゃんはこの頃も美人です。おじいちゃんは……すでにおでこが光ってます。おそらく十年後にはさらに倍の広さに悩んでいるでしょう。私は知っている、その胡散臭い毛生え薬は効果ない。どんまい。気持ちだけじゃどーにもならなかったね」
たとえどんなに剥げていても、おじいちゃんはそんな母子を見て、だらしのないくらい幸せそうな顔をしていた。すやすや眠るお父さんにちょっかいを出しては、赤ちゃんが泣き出して。そしておばあちゃんに怒られる。おばあちゃんはこの頃から怖かったんだね。
だけど、めっちゃ幸せそうな家族です。
そして眼球くんがブルっとすれば、お父さんはだいぶ大きくなってました。お子様スーツを着て、面談を受けてるようです。
『ふじわらそーいちろーです。すきなものは、おかあさんのおみそしるです』
そんな微笑ましい面談は、無事合格した様子。
だけどその合格祝いの中、若かりしおばあちゃんはお姑さん……私のひいおばあちゃんに台所へ呼び出されています。
『あんたの能無しが遺伝されてたらと思ってヒヤヒヤしたけどねぇ。宗一郎はうちのれっきとした跡取りですから。荷が重いと感じたら、いつでも母親役を下りていいですからね?』
そう言って濡れ頭巾を顔に投げつけられているのは……イビリってやつなのかな?
だけど負けん気の強いおばあちゃんは、一生懸命教育ママをやっているようです。
『ほら、宗一郎! 自分の名前くらい漢字で書けなくてどーするの。あと十回書け!』
『ママ……ほら、宗一郎はまだ幼稚園生なんだから……』
『でも、隣の家のカツヤくんはもう書けるって!』
おもちゃ一つ散らかっていないリビングで。頭の上でそんなやり取りをされながら、宗一郎くんは目に涙を浮かべて懸命に鉛筆を握っていた。宗一郎。宗一郎。らくがき帳には、ひたすら不器用な漢字が並んでいる。
私はずびっと鼻を啜った。
「え、どうしよう……私もう泣きそうなんだけど」
そうコメントしても、誰も返してくれる人はおらず。
眼球くんが震える。
そのまま小学校、中学校へ進学していく宗一郎。有名私立を順調にエスカレーター式に進学していたようだが、問題は高校入学直後に起こった。
『え、医学部?』
『そうだよ! アンタこないだの模試でも学年一位だったんでしょ? 医学部くらい入れるだろう?』
意気揚々と勧めるオバチャンになったおばあちゃんに、宗一郎少年の顔は渋る。
『でも、うちの大学医学部ない……』
『外部進学すりゃあいいじゃないか! 大丈夫、宗一郎なら出来るさ! 塾ならいくらでも通っていいからさ! ほら、ここの医学部なんかいいんじゃない?』
そうして、毎日塾に通い出した宗一郎氏。学校での友達はみんな内部進学するのか、部活や恋に勤しんでいて。たまにラブレターを渡されても、勝手に鞄を漁る母親に見つかれば、ビリビリに破かれてゴミ箱行き。そしてなぜか、小一時間正座で説教くらう宗一郎氏。
……いや、ばっちゃん。そりゃないぜ……? 花子ドン引き。女の子から手紙もらって、ドッキドキしていたお父さんの様子ときたら……それからのこの顛末に、花子の胸もズッタズタだよ? ちょっとおばあちゃん嫌いになりそう。元から苦手ではあったけど。
そうして、一人で勉強だけし続ける宗一郎氏。合格発表では、異様に喜ぶおばあちゃんの隣で、宗一郎氏はホッと息を吐くだけだった。
だけど――大学入学してから、宗一郎氏はイキイキとしていた。どうにも医学部の勉強が性に合っていた様子。特にお友達とキャンパスライフを満喫している映像は一向に流れない。眠る間も惜しんで、勉強や実験に明け暮れる日々。それに、おばあちゃんもひいおばあちゃんに鼻高々の様子だ。
よかった……のかな? まぁ、お父さんが楽しんでいるならいいか。
そんな映像に見入っていると、耳惠ちゃんがツンツンと私の肘を突っついてくる。
あ、喋れってか? めんごめんご。
「あー……お父さん本当にモテてたんすね」
今日もルンルンとラットを解剖する白衣姿お父さんは、とても美形だった。そりゃあ、ミハエル様よりも明度は暗いし、髪型はオシャレ感ゼロのきのこ頭。それでもおばあちゃん譲りの目鼻立ちに、横目でときめく医学部女子は少なくない様子だ。
デートに誘われても、『ラットに餌あげなきゃならないから』と毎度断っているようだが。ラットが恋人? 私の母親はネズミもどきだったのか? 花子のつぶらな瞳は、たしかにラット譲りかもしれんが。
だけど善き哉、そうは問屋がおろさなかった。
『すみません、来週から入院予定の糖尿病患者に投与予定である非定型抗精神薬について相談したいことが』
六年間の大学を無事に卒業し、宗一郎氏は二十四歳。研修先の病院で、運命の出会いを果たした様子。
『すみません、私まだ新人でして……少し時間もらってもいいですか?』
はい……お母さんです。薬の相談をしに行ったお父さんの質問を、薬剤師のお母さんはわからなかったらしい。だけど翌日、分厚い本を抱えたお母さんは、とてもわかりやすくその質問の答えを教えたそうだ。
その映像を、眼球くんはいいアングルで押さえてくれていました。図説を指差すお母さんの横顔を、宗一郎氏がガン見しています。花子でもわかる、これは恋にオチたな。
「ぷっ」
それからの宗一郎氏は、笑っちゃうくらいに熱烈だった。
いやぁ、病院の調剤室に薔薇の花束を持ってきちゃいかんよ。薬剤部長っぽい人から説教されてます。項垂れる宗一郎氏に、思わずメモを渡すお母さん。
そのメモには、『日曜日映画でも見に行きませんか?』
病院の通路で『よっしゃああああああ』とガッツポーズを決めた宗一郎氏は、案の上看護部長っぽい人に怒られてました。




