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【完結】団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画  作者: ゆいレギナ
最終回 死にたくなかった死神くん

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30話「ノーチューブ」


「ただいま」


 死神くんがいなくなって、一週間と少し。

 たったそれだけの期間なのに、私の生活が目まぐるしく変わろうとしている。

 転属。正社員雇用。車の運転。ドライブ。

 どれもこれも、他人事のはずだったのに。私はアプリゲームに課金破産する人生ダメのダメ子ちゃんだったはずなのに。


 ――変わりたくない。


 だって、私が自殺しようなくらいダメだったから、あの時死神くんに会えたのに。

 二ヶ月程度の賑やかな生活が恋しければ恋しいほど、私は今のままが良かった。

 そうしたら、もしかしたら――


 まだ外は少し明るかった。それもそのはず、まだ夕方の五時半だもん。定時に上がって、まっすぐ帰ってきたらこんなものだ。

 私は慣れた手付きで、鍋でお湯を沸かす。その間に二日間着っぱなしだったスーツを脱いだ。ジャージに着替えて、スーツを消臭剤でシュッシュして。

 そうこうしている間に、お湯が沸く。台所の下から袋ラーメンを取り出しては、作り方通りにお箸でほぐして。はい、完成。花子特製の素ラーメン。


 お鍋ごと机に運んで、両手をあわせる。


「いただきます」


 言ったところで、誰も「どうぞ」と返してくれないのだけど。

 だけど代わりに、放っていた鞄がブルブル震えた。どうせ、津田さんだろう。だけど既読マークだけ付けなきゃ。あとが面倒くさい。

 だけど、そのメールは宛先不明だった。


「え?」


 しかも、添付URL付き。普通なら、ただの迷惑メールだと思うだろう。だけど、そのURLを私は二度見する。


 mttps://n.notube.com


 微妙にバグったようなアドレスだけど、英語の苦手な花子でも読める部分。


「ノーチューブ?」


 ウイルスだったら、完全にアウト。スマホを買い換えるお金なんて、そうそうない。

 だけど、私はそのURLをタップせずにはいられなかった。

 だって、そのトップ画面に出てきたサムネは――


『団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画』


 そうタイトルが付けられて、リボンの着いたおかっぱ女の子と素朴ミハエル様がデフォルトされた首がぴょこっと映っていたのだから。


『第一回、いじめっこ正社員ちゃん』


 私はお箸を片手に、それをタップする。

 すると、丸い首たちがぴょっこぴょこ飛び跳ね始めた。


『はい、皆さんおはこんばんは~。今日から人生実況解説動画に新しい仲間をお迎えしたので紹介するでござるよ! なんと生者の……ドコドコドコどんっ! 団地住まいの花子さんで~す! はい、それじゃあ花子さん一言どうぞ!』

『ちょっと待って。色々待って。その口調は何? そんで私きみに名乗ったっけ?』


 その陽気な声に、視界がボヤける。何回聞いても、口でドコドコどんはダサい。


『ちょっと花子氏~。いきなりテンション下がること言わないでくだされ~。こういうのは勢いとノリで流さなきゃだめでしょ? てか、拙者は普段からこのままのアゲアゲくんじゃあございませんかぁ』


 普段の死神くんも、別にテンションが低い人ではなかったけどね。でも、普段もこのテンションじゃなくて良かったと心底思うよ。さすがについていけませんて。


『ごめん。続けましょう……』

『だいじょぶじょぶ。その初々しさも今のうちだから~きっと回数重ねていくうちに『あの頃は~』てネタになるからね。その時を楽しみにしましょうぞ』


 あの頃は――なんの伏線ですか。狙ってたのかな? たまたまだったのかな?

 まさか、私が『あの頃は』と、この動画を一人で見るとは思わなかったよ。


 そして始まる、津田真愛さんの半生。大切な友達(?)だからこそ嫉妬し、いじめてしまった話。どんな夢も叶えられなかった彼女が、一つでも夢を叶えるために今も諦めない話。そんな強い女の子の話。

 もちろん、動画内容は全部見覚えがあるもの。だって、二回完成動画を私もアップロードする前に見せてもらってるもん。やっぱり、スピーカーから聞こえる自分の声って恥ずかしい……まぁ、基本的にあまり喋っていないんだけど。

 それでも……やっぱりあの衣装はないよね⁉ あのド派手にされたチャリ、今でもあのままなのですが。恥ずかしくて愛車に乗れないのですが⁉ それにあのクルクルヘアの赤いスカジャンスタイルは……よくよく考えたら、あのスカジャンも缶詰の如く、おばあちゃんの家から持ってきたのではあるまいな? あれから見ないけど、返却済みなのだろうか。


『それではまた次回! アデュー☆』


 一つ目の動画が終わる。私は鼻で笑った。くだらない。人の人生勝手にネタにしておいて『くだらない』は失礼かもしれないけど……振り回される『花子ちゃん』が案外楽しそうに見えるから。もう一回プレイバックしたい……なんて、絶対思わないけど。あの格好で『ライスシャワー』は二度とごめんだ。


 私は伸びてきたラーメンをズズズッて啜ってから、次の動画をタップする。


『第二回 訳ありエリートイケメンくん』


 これは、過去にヲタクが原因でいじめられ、それを隠すようになった男の子の話。だけどヲタクは辞められず、一生懸命両立させようとした結果行き詰まってしまった話。それでもエリートもヲタクも辞めない、カッコいい男の子の話だ。

 やっぱり最後に出てくるド派手な格好をした美女(⁉)がくっそダサいけど……それでも熱いディザイアは伝わってくるような? 結局ディザイアってなんやねん。負けた気分になるから、私は今でも調べていない。


 そんなやっぱりくだらない動画も、あとひとつだけ。

 私は三つ目のサムネをタップする。


『第三回 ずっと座っているおじいちゃん』


 これは、苦難を乗り越えた先の幸せを忘れられない男性の話。過ぎ去ってしまった時間は戻らない。それでも、ずっと懐かしんで、大切にして。最後まで愛を貫いた勇敢な男の話。

 でも、この動画もやっていることはくだらないんだよね。おじいちゃんの過去は涙なしでは語れない名作だけど、あとは花子ちゃんがダッシュして転んで息切れしているだけ。花子ちゃん、邪魔。『ハッ』てどこかへ飛んで行ってくれないかな? 見ているこっちが痛々しいよ。 


 でも、この回だけ完成動画見てないんだよね。どういうオチになったんだろう……?

 おじいちゃんが花子ちゃんに『僕は怒っていないよ』と伝言を託して――そこで、動画は終わっていた。『動画撮影不可』というテロップの後に、死神くんのコメントが入る。


『えー、大変心苦しいのですがー、この後は動画が撮れていませんでしたー。さーせん。花子氏~、勝手に眼球くんたちを連れてってもダメですぞ~。死神パワーとかご褒美がないと、彼らお仕事できませんからね~』


 まじか! 私とおばあちゃんの涙なしでは語れない会話は撮れてないのか。てか、おばあちゃんは全く動画に登場してないな? ヨネ子さんは秘匿。悪い女度がマシマシだね。


 死神くんのコメントは続く。


『でもお仕事がなくても、任期まではしっかり雇用しなければなりませぬー。彼らは拙者と違う部署からの派遣ですからな。二十五日の期日まで、ちゃんと衣食住の世話をしてくだされ』

「ん?」


 私はお箸を置く。ダラダラ食べていたから、ラーメンはのびのびだけど……どうでも良かった。

 あの眼球くんたちが派遣だって事実には苦笑モンだけど、笑えない事実。


 期日が……二十五日? 今日は二十四日。つまり……?

 私はちょうど座っていた畳を開ける。そうそう簡単に外れないはずの畳は、なぜか簡単に開いて――床下のミニチュアハウスで、小さな怪異の眼球くんと耳惠ちゃんが横たわっていた。眼球くんがまるで乞食のように震えた手を伸ばしてくる一方、ぐーぐーとお腹(?)を鳴らす耳惠ちゃんは、スマホのようなものを両手で抱えていて。


 あ、あの動画のメール、もしかして耳惠ちゃんが送ったの? 私に助けを求めるため? 


「ごめん! もしかしてこの一週間何も食べてなかったの⁉」


 悶える二人を、私は抱きかかえる。彼らにのびのびラーメンと与えれば、むさぶるように食べだした。冷蔵庫から魚肉ソーセージを持ってくれば、二人は涙を流しながらコクコクと何度も頭を下げる。


 ごめんよ~、この二週間飢えさせてほんとーにごめんよぉ。

 畳の下……調べようかなとも思ったんだけどさ。なんか現実が見たくなくて。うん、言い訳ですほんとーにごめんっ!


 テーブルの上でお腹いっぱいになった眼球くんたち。その膨らんだお腹を人差し指でナデナデしながら考える。


「でも、きみたちとも今日が最後なんだねぇ……」


 任期は明日まで。最初はこのグロテスクな見た目に恐怖しか感じなかったけれど、慣れれば可愛く思えるのが不思議だ。


「なんか最後に食べたいものあるかい? お財布の中身は寂しいけど……残り四百円でコンビニデザートでも買ってくるよ?」


 死神くんには別れの挨拶すら出来なかったから。せめて。ケーキ買えるかな? 最近のコンビニのケーキ高いんだよな……最大の敵は消費税だ。でも使い切っても大丈夫! なんたって明日は給料日!


 そう意気込んで声をかければ、眼球くんと耳惠ちゃんは顔(?)を見合わせる。

 そして、二人して私のスマホを叩いた。


「へ? 動画みたいの?」


 自分の撮影したのを見たいのかなぁと思いきや、そーではないらしい。首(?)を横に振った眼球くんは、目からハイビジョンを出す。そこには、何も映っていないけど。


「動画、撮りたいの……?」


 でも、死神パワーがないと録画はできないはず。それでも、彼らは空っぽになったお鍋と魚肉ソーセージのフィルムを指差して、私を見上げてくるから。

 お礼……なのかな? まったく、律儀なんだから。眼球と耳のくせにさ。


「……じゃあ、最後に動画撮ろうか。死んだ人でもいいのかな?」


 私がそう言うと、二人はソレキタと踏ん張りだす。

 そのやる気に満ちたシコに、私は苦笑して。目の端の涙を拭って、ターゲットを告げた。


「藤原宗一郎……私のお父さんで」


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