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【完結】団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画  作者: ゆいレギナ
第三回 ずっと座っているおじいさん

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25話「あの頃は良かった」


「はあ⁉ 何を馬鹿なこと言ってんだいっ!」


 だけど、おばあちゃんの家で正座させられた私は、すぐに後悔。別に、老人にタカリに来たことではない。現に机の上には、お持ち帰り用のサバ缶三パックが置かれている。


 おばあちゃんがちゃぶ台をバンッと叩くと、積まれたサバ缶が倒れます。だけど奥歯をガタガタ言わせている花子には、それを直す勇気がありません。


「もう一回だけ聞いてやる! どこで、それを知ったんだい! アイツとアタシが知り合いだって!」


 私が言ったことは、『あのずっと桜通りに座っているおじいちゃん、おばあちゃんのこと今も待ってるよ。早く会いに行ってあげなよ』だけ。ほんとその二言だけ。そしたら、おばあちゃんは顔を真っ赤にして『そこに座りなっ!』と。


 怖いよー。なんやかんや、おばあちゃんはいつも怒らないんだよー。いや、怒ってるっちゃ怒ってるんだけど、それが通常モードだから面倒なだけでそんなに怖くないんだよー。でもガチ怒りモードのおばあちゃんは、もう本当に怖い。私の代わりに怒られているちゃぶ台が可哀想なくらい。


 そんなおばあちゃんに追求されても……言えないよね。

 死神パワーで過去を盗み見しました、なんてどの口が言えるのか。


「……ちょっと小耳に挟みまして」

「だから、どこで挟んだのか聞いてるんだ! あの頃のことはねぇ、あの女はもちろん、バカ息子にも話したことはないんだよっ! それをどうしてアンタが⁉」


 おばあちゃんの言う『あの女』は、お母さんのこと。バカ息子は言わずもがな、亡くなったお父さんのこと。お父さんは自分よりも早死したから『バカ』で、お母さんは再婚してから『あの女』呼ばわりになりました。未亡人時代はおばあちゃんともそれなりに交流あった。だけど再婚してからは、こんな近くに住んでいるのに、一回も会ってないらしいよ。お互い気まずいみたい。私はわからないフリをしているんだけどね。デリケートな問題だろうし。


 とにかく、今はそれどころではない。

 激昂しているおばあちゃんは、「あ――――っ」と机をだんだん叩き続ける。

 そして、


「出てけ!」


 短い一言に、私はようやく顔を上げます。


「え?」

「だから、出てけ! いいかい、アイツの話は二度とするな! アンタが何を聞いたか知らないけど……あの頃にはねぇ、二度と戻れない。戻っちゃいけないんだよっ!」




「ごめんね……」


 オレンジ色に染まる桜通りをとぼとぼ歩きながら、私は鞄を覗き込んで謝罪する。

 眼球くんと耳惠ちゃんは、サバ缶の片隅でお互い肩を寄せ合って震えていた。うん、わかるよ……怖かったよね。涙をポロポロ流す眼球くんの頭(?)を撫でる耳惠ちゃん。耳惠ちゃんはお姉さんなのかな? カッコいいね。花子の頭を撫でて欲しいよ。


 だけど、お外で二人を出すわけにはいかない。鞄をそっと閉じて、視線を上げれば……まだいるんですか、おじいちゃん。

 ごめんね、おじいちゃん。冥土の土産……は失礼か。とにかく素敵なラブストーリーを贈りたかったんだけど、しがない派遣社員には無理でした。

 涙を呑んで、私がその場を通り過ぎようとする。だけど、そうは問屋がおろさなかった。


「ヨネ子さん」


 よよよ。ごめんなさい、その名で私を呼ばないで。


「ヨネ子さん……」


 よよよよ。私、ヨネ子じゃないの。花子なの。どっちも渋い名前だけど、カタカナじゃない分、ちょっとだけイマドキなのが私なの。


「ヨネ子さん……の、娘さんかい?」


 よよよよよ。うん、惜しいね。


「孫の花子です」


 思わず立ち止まり、私は真顔で正解を告げる。

 すると、おじいちゃんはにっこりと微笑んでくれた。


「そうかい、お孫さんかい……自分も、年を取るわけだ」


 おでこや口周りにしわをたくたん寄せて笑う顔は、とにかく優しそうで。背中を丸めて座るおじいちゃんは、とても小さく見えた。あの甲子園の凛々しい姿と同じ人物には見えない。

 だけど人好きそうな温かい笑みをじっと見返していると、おじいちゃんは「ごめんね」と肩を竦めた。


「呼び止めてごめんね。つい、若い頃のヨネ子さんに似ていたから。あとさっき転んでたし。大丈夫だったかい?」

「あ、いえ……あ、はい。大丈夫、です」


 恥ずかしいいいい! 見られてた! ばっちり大惨事を目撃されてた! まぁ、そりゃそーですよね。目の前であれだけ派手にすっ転んだら、顔だって覚えられちゃいますよね⁉ まあ、転んだ原因はいきなり『ヨネ子さん』言われたからなんですけどね⁉ 恨んでない、恨んでないぞー花子は。

 でも、あのド派手なおばあちゃんに似てるかなぁ?

 私も真っ赤なぴっちりドレスを着るとたちまち夜の蝶に――ううん、やめとこ。なんか津田さんにププププ笑われる未来が見えた。化粧映えはするらしいけど……そもそも派遣先の上司に『もう少し喋れるようになろうね』と言われて根に持つ二十四歳に、夜の世界は無理である。


「ヨネ子さんは、元気かい?」


 尋ねられて、我に返る。私がコクコク頷くと、「そうかい」と再びおじいちゃんは朗らかに笑った。


「自分は、ヨネ子さんの古い友人なのだけど。ヨネ子さんに伝えておいてもらえるかい――僕は怒っていないよ、と」


 私にそう言った後、視線を落としたおじいちゃんは呟いた。


 ――あの頃は良かった、と。




 ハッ、と笑い飛ばしてしまえ。

 家に帰って、古い歌謡曲が爆音で流れていると、そう思う。

 二人して『あの頃は』だなんて。あのおじいちゃんも動画からしたら独り身だろうし、おばあちゃんもおじいちゃんに先立たれて結構経つ。別に再婚しろだとか、一緒に暮らせと言うわけではない。ただお互い素直になれば、余生楽しく過ごせるだろうに。


 やるせない気持ちを抱えながら「ただいま」と声を掛ければ、一人でお茶を啜る死神くんがこちらを向いた。


「おかえりなさい。サバ缶は手に入りましたか?」

「あ、うん」


 私が鞄から取り出せば、死神くんがすっと細腰を上げる。


「じゃあ、手早く作っちゃいますね」


 そう言って横切ろうとする死神くんを腕を、私はぐっと掴んだ。


「……どうしました?」


 そう訊いてくる死神くんの声は、いつも通りで。

 ふと思いがけない言葉が口から飛び出していく。


「こ、この生活も、いつか終わっちゃうのかな⁉」


 ななな、何を言っているのかなこの口は⁉ 

 そりゃあ、ちょっとセンチメンタルな気分だったし? 私もいつか死神くんとの生活を思い出して『あの頃は』とか言っちゃうのかなぁ、なんて考えないでもなかったけど。

 だってね? ずっと男女二人の共同生活とか? ほら……けけけ、結婚とかしない限り、いつか終わっちゃうもんだしさ。もっと複雑な男女関係とか、ほら、この初心な花子には想像すらできないし? バカでもわかるずっと一緒に生活する男女関係とか、夫婦くらいしか思いつかないのですよ。


 私があたふたしていると、死神くんは小さく笑った。


「そうですね……まぁ、花子氏は生者で、僕は死神ですから」

「そう、だよね……」


 うん、そうですよね。結婚って、生きている者同士の契約ですもんね。死神くん、死んでた。そういや、足や影がないんだった。いつも顔しか見てないから忘れてたよ。だってめっちゃ好みなんだもん、その顔。南無南無。


「それよりも、何か僕に謝ることはありませんか?」


 その問いに、私は目をパチクリ。なんだろう? 私は……色々余計なことをしてきたものの、基本的にはサバ缶をゲットしてきただけだしな。


 その時、私の鞄がガタガタ震える。この振動はスマホではない。覗き込めば、グロッキーな眼球くんの背中(?)を、それに寄り添う耳惠ちゃんが擦っている。


 私がおそるおそる顔を上げると、死神くんがミハエル様顔負けのこわ~い笑みを浮かべていた。


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