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【完結】団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画  作者: ゆいレギナ
第三回 ずっと座っているおじいさん

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22話「こちらは健全な小説です」


「花子氏のことならなんでも知ってるに決まってるじゃないですか。僕だって素性のわからない人と同棲なんてしませんよ。死神情報網を舐めてもらっちゃ困ります」


 個人情報保護法の適応はどうした死神情報網。

 そんな肩の力が抜けることを話しながら、私は遅い朝食をモグモグ。軽めの死神くんお手製ハンバーガーだ。ハンバーグの代わりに魚肉ソーセージ。フレッシュな野菜とほんのり甘いマフィンは、まさに朝バーガー。もちろんドリンクにレモンの香るアイスティー付き。

 そんな素晴らしいモーニングをもしゃもしゃ頬張っているうちに、死神くんの準備が終わる。


「さて、それじゃあ今日も元気にいきましょ~」


 ズズズーと返事の代わりにアイスティーを啜って。

 机の上で準備満タンの眼球くんと耳惠ちゃんが踏ん張った。

 動画撮影が始まる。


「さぁさ大人気の『人生実況動画』も大台の三回目! みなさんおはこんばんは、死神くんです!」

「ズズーズズズーズ」

「……花子氏花子氏。そろそろストローから口を離しては?」

「ズズッズ」


 だってお家でストロー付きドリンクとか、超豪勢じゃん? しかもこの紅茶、すごく美味しいし。

 もう数ミリもないティーをギリギリまで啜っていると、死神くんがため息を吐く。


「……冷蔵庫にたくさん作ってありますから、いつでも飲んでください。寝る前にボトルにティーバッグ入れて水道水注ぐだけで出来るんで。ストローもたくさん常備しておきましたから。いつでもどうぞ」

「ズ?」


 そっか。ケチケチしなくていいんだ!

 やっほーい、と晴れ晴れストローから口を離した私を見て、なぜか死神くんはもう一度嘆息した。


「それじゃあ、今日のターゲットは……どこどこどん。桜通りで座っていたおじいさん! 花子氏、このおじいさんと面識は?」

「ないっすね。でも、昔からよく見かけるおじいちゃんです」

「ほう? 昔とは如何ほどから?」


 気を取り直した死神くんに尋ねられ、私は顎に手を当てた。

 うーん、改めてそう聞かれると……


「いつだろう……そういや、学生の頃からいた気がする」

「学生っていっても、花子氏の人生のほとんどが学生では?」


 まぁ、なんやかんやまだ二十四歳ですからね。たしかに6+3+3+4=16で四分の三ですか。やだなー。それだけ勉強した結果がこれですか。

 でも、そんなこと考えるとさ、


「そういや、ランドセル背負ってる頃からいた気がするぞ?」


 そんな頃からずっとあそこで座っているおじいちゃん、すごくないか?

 死神くんが「フヒッ」と笑う。


「そんなおじいさんの半生、気になりますな?」

「めっちゃ気になる」


 お年的に半生というよりほぼ全生だね、ていう点も気になる。


「てなわけで、ずっと桜通りで座ってるおじいさんの人生実況解説スタート~~パフパフ~」

「ぱふぱふー」


 死神くんのぱふぱふを合図に、ブルッとする眼球くん。

 いつも通り鮮明なハイビジョンに映し出されたのは、これまたどこかの田舎町。野球バットを持った少年が庭先で懸命に素振りをしている。


『康太郎~ご飯よ~』


 夕暮れになって、お庭に母親らしき声が響く。それでも、その少年は一心不乱にバッドを振り続けていた。

 眼球くんがブルッとする。


『代打、安沢康太郎(やすざわれんたろう)


 そんなアナウンスの後に映るのは、大きくなった少年の凛々しい横顔。精悍な高校生くらいだろうか。肌は日焼けして、帽子の下の髪も坊主頭。だけど真剣な眼差しで振りかぶったバッドは、ボールをフェンスの向こうへと跳ね返す。


『ホームランッ! 形勢逆転のホームランですッ』


 立派なグランドにいた大勢から歓声が沸き上がる。片腕を掲げて走る彼の汗が、とても眩しかった。そんな青春が全く似合わない体幹が弱そうな死神くんが言う。


「ほう、甲子園球児とは凄いですな!」

「甲子園なの? これ」

「花子氏、神宮球場を知らないので?」


 いや、アニメでは知ってますよ? ちょっとBGMを呼吸を止めたくなるような曲に代えたい気分。マ、実物に興味ない私はそこから何も言えなくなるのですが。


「まぁ、昔の少年皆の憧れですな~。拙者も生前は少しだけ憧れました。バッド振って手首を捻挫して以来止めたのですが」


 うん、ツッコもうにも野球経験が全くゼロの花子氏なので、死神くんが笑っていても笑いどころがわかりません。

 そんなこんなで、再び眼球くんがブルッとしました。

 映るのは病院。そして項垂れる甲子園球児。

 彼と向き合う医師は言う。


『膝の損傷は激しいです。もう二度と本気で走れないかと』


 リハビリすれば、日常生活に支障がないレベルには戻りますよ。

 続く医師の言葉が、彼には届いているのだろうか。松葉杖を付いた彼が家に帰って、玄関に置いてあったバッドを薙ぎ払う。悔しそうに噛み締めた唇から血が滲んでいた。


 そんな画面に見入る私を、死神くんが突っついてくる。


「花子氏花子氏」

「なに」

「実況」

「私、テレビは黙って見るタイプなの」

「それじゃあ動画にならないですぞおおおおおおおお」


 うっさいなぁ。今、野球ネタがわからない私でもいい所だってのに。

 私がずびっと鼻を啜ってもなお黙っていると、眼球くんが震える。

 夜の駅前。客引きのお兄さんを無視してタバコをふかす青年に、あの青春の面影はなかった。いかにもな昔の不良っぽい出で立ちになってしまった彼に、ある一人の女性が話している。


『おにーさん、いつもここで何してんの?』

『何も』

『ふーん』


 赤いピッチリとしたワンピースが、そのくねくねしたパーマ頭に似合っていた。真っ赤な口紅が引かれた口角がニヤリと上がる。


『じゃあ、アタシん家来なよ』


 私はヒエッてした。


「ししし、死神くん。このあとはNGなんじゃ? 私、二次元なら触手からゴブリンまでワリカシなんでもイケるけど、三次元はアウトなんですが⁉」

「どうせなら二次元もアウトでいてもらいたい死神ゴコロですが、ご安心を。こちらのレートは健全ですぞ」


 眼球くんがブルった後は、朝チュンだった。畳の狭いワンルーム。うちよりも狭く、布団に丸テーブル。派手な洋服も雑多に積まれた狭い部屋。

 半裸の状態の青年が再びタバコを吹かせば、布団の中の女が笑う。


『アンタそれ、咥えているだけでしょ?』

『……ほっとけ』


 照れくさそうにタバコを消す青年に、女は言った。


『タバコ止められるんならさ』

『あぁ?』

『一緒に東京行かない? アタシ来週でここ引っ越すの。一緒に暮らそうよ』


 ――アタシ、タバコ嫌いなんだよね。


 朝日に照らされて笑う女性は、とても楽しそうで。

 でも、私はちゃんと首を傾げるよ。


「健全?」

「健全」

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