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2話「なにそのパチもん感」


「『ロックベル』と読みます。死神の名前て、死因と好きな名前で構成されるんですよ。カッコいいでしょう? 暴走族みたいで。母が昔好きだった漫画からイメージしました。母も喜ぶかと思いまして」

「はあ」


 マザコンか。

 思わず口から出そうになる単語を必死で飲み込む。


 木枯らし吹く屋上の真ん中で、私とロックベル(仮)さんは向かい合って正座していた。仕方ないじゃない。ここには椅子もテーブルもないんだから。だけど彼は「そのまま座ると寒いですよね」と大きな黒い布を折り畳んで、私の下に敷いてくれた。え、このイケメン優しい♡


 でも私は気付かないようにする。私が座布団にしている黒い布は死神のマントかな~とか。彼の横に置かれた長い銀色は死神の鎌なんじゃないかな~とか。私は死んでも気が付かないぞー!


「生きている時は憧れたんですよねぇ、暴走族。喧嘩して、バイク乗り回して、派手な特攻服を靡かせて……モヒカンにもしてみたかったなあ」


 王子様コスプレが似合うだろうイケメンが、キラキラした目を遠くに向けている。うん、夢を見るのは個人の自由だよね。心の中のミハエル様が『僕はそんなこと言わないぞ!』て文句言っているけど、ミハエル様とこの人は別人だもの。生きている次元すら違うもの。死神が何次元の存在なのか知らないけど。


 だけど、色々聞かせておくれ。


「あのー……」

「なんでしょう?」

「死神って……死ねるんですか?」


 てか、聞きたいことがありすぎるよね。他にも(仮)て何だよとか。でもとりあえず気になったのがこれ。その答えはのんびりあっさり返ってくる。


「それが死ねなくて。生者っていいですよね、すぐ死ねて。僕も今まで十三回くらい死のうとしてきたんですけど、もうぜんっぜんダメ。刃物はすり抜けるわ、毒は効かないわ、落ちようとしても空飛べちゃうわ……自殺の名所に来たら変わるかなぁ~なんて思ったんですけど、やっぱり難しそうですね。でもこのままじゃ動画再生回数も伸びないし……僕、どうしたらいいのでしょう?」


 いや、迷子の子猫ちゃんみたいな目で聞かれても知らんし。

 このままお悩み相談される前に次の質問を……てか、なんで私はこの人(?)と話しているのだろう。イケメンだからか? ミハエル様という推しそっくりイケメンだからか? なんだか頭がボーッとするから、そういうことにしておこう。

あぁ、かっこいい。死ぬ前に実物そっくりさんを拝むことが出来てもう悔いもないよ。南無南無。


 あとは、死ぬ直前に降って湧いてきた謎だらけのモヤモヤを解決するだけだ。


「さっきも言ってましたけど、動画再生回数って?」

「あ、僕『ノーチューバー』なんですよ」

「何そのパチモン感」

「パチモンですよ。人間界で流行っている動画サイトを真似してあの世でも作ったものですから――てなわけで、僕と一緒に実況解説動画を作りませんか?」


 悪気もなしに微笑むイケメン自称死神くんは、両手で私の手を包んでくる。

 え……男の人と手を繋いだのなんて何年ぶりだろう……ドキドキしすぎて胸が苦しい。さっきから現実味がなさすぎて寒気までしてきたよ。


「と、とりあえず……どうして誘う気になったのか説明を」

「生者の方と一緒に実況するとか、視聴率稼げそうな気がしません?」


 オーマイゴッド。神様、あなたの配下であろう死のうとしていた死神くん、すごく長生き出来そうな根性お持ちではないでしょうか。


「実況するのは、生者の人生です。死神パワーで隠し撮りです。それに好き勝手ツッコミを入れてます。もしご協力いただけたら、対象はあなたに選ばせてあげますよ。嫌いな人のあんな姿とか、気になる人のこんな姿とか、盗み見てみたいと思いま――」


 長々と説明されている気がするが、半分も聞けていなかった。


「わかった……わかったから」


 とりあえず寒い。眠い。クラクラする。


「あれ、聞いてま……て、お姉さん! 大丈夫ですか、お姉さん⁉」


 視界が九十度傾いたかと思いきや、暗転する。抱きとめてくれる冷たい胸板を全力で堪能しながら、私はちょっぴり思う。


 こんなイケメンの胸で最期を迎えられるなら、私の人生も悪くなかったのかも。なんて。



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