表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画  作者: ゆいレギナ
第二回 訳ありエリートイケメン君

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/34

17話「一生のお願い……?」


 橋元くんが私を呼び出した理由は、やっぱり落としたストラップの行方が気がかりだったらしい。

 なので、打ち解けてからは早かった。


「いや、でも先月の年越しイベントは解釈違いだったっすねー。エドワルドはあそこで赤面したりしない。家に帰ってから恥ずかしがるタイプだ」

「あーわかるー。あれは安易すぎたよねー。それに年越しボーナスちょっと渋りすぎじゃなかった? 三元日はお年玉無料ガチャくらいすればいいのに」

「確かにしょぼかった! 花子さんは『レイズオブファンタジー』やってます? あっちは合計百連無料だったんですよ。しかも毎日SSR一枚確定」

「すっご! ちょっと最近『MVS』は殿様商売だよねー。グッズ化は多いけど、全部公式イラストの使いまわしだしさー。公式絵師様が忙しいのはわかるけど……もっとアンソロジーの漫画さんとかに頼んだりしてさ、新しいイラスト作るとか出来ないもんなのかねー」

「確かにラスト賞特別タペストリーとか言われても普通にSRのイラスト使いまわしっすもんねー。萎えるわー」

「もう新鮮味がなくってさー。でもそろそろメインスト更新だよね。次の章が絶対泣くしかないから今からティッシュ買い込んでて――」


 なんて管を巻きながら、私はノンアルコール梅ジュース二杯目。すっかり頬杖ついた橋元くんもカシスオレンジ三杯目で、少しだけ鼻が赤くなっている。

 そんな橋元くんがふと鼻で笑った。私はエビの素揚げのような元をパリポリ齧りながら首を傾げる。


「どしたの?」

「いや……花子さん、やっぱり思ってた通りの人だったなぁって」


 その蕩けるような甘い笑みに、私の心臓が跳ねる。同志とはいえ、彼は三次元のイケメンなのだ。そりゃ二次元には勝てないし日頃ミハエル様激似のイケメンで多少の耐性が付いているとはいえ、花子の装甲は紙よりペラペラなんですから……!


「ななななっ、何を言っているのかな⁉」


 淡く光る水槽の中を、色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいる。そんな夜の水族館のような漫画顔負けのロマンチックを背景に、橋元くんは発色の良い唇をゆるく開いた。


「廃課金してるって言うと、普通ドン引くじゃないですか。かと言って、普通のオフ会で運営批判言うとそれはそれで敵視してくる人多いし。悪いのは悪い。だけどもっと盛り上げてほしいから課金する。課金は税金。会社の鞄に堂々とアイテム付けている花子さん見て、俺も勇気出たんですよ。俺ももっと、堂々としていいんだって。だから、仕事にもレイチェルたんを連れて行こうと思ったんですけど」


 と、橋元くんは返したストラップを手で弄ぶ。「まだまだ花子さんに比べたら初心者ですけどね」とはにかめば、えくぼが浮かんで。


 だけど……それは褒められているのかな……?


 そういや新年会の時も、鞄に飲み会直前にゲットしたレイチェルの武器アクキー付けてたなぁ、なんて思い出した。そうか、あの時の『可愛い』は彼の推しグッズのことだったのか。

 やはり彼は同志だと親近感を増しつつも、持ち上げられついでに先輩風を吹かしてみる。


「でも、婚約者さんは課金に肯定的じゃないの? 結婚すると……そのへんの意見合わないと大変なんじゃない?」


 しょせん結婚なんて、私には無縁の話なんだけど。そこは年上の知ったかぶりですよ。後輩の幸せ案じてあげてるやつ的な。ちょっと津田さんに感化されて、同志の幸せくらい願ってあげられるようになろうかなぁ、と思ったわけではない。うん。


 だけど橋元くんは、そんな私の心配をあっけなくぶっ飛ばしてくる。


「あの噂、嘘っすよ」

「へ?」

「婚約者。二十三のヲタクに婚約者なんているわけないじゃないっすかー。あれ、支店長がうちの娘はどうだと煩くて。なんか行き遅れの娘さんがいるらしいんですけどね。それにお局とかからも誘われたりめんどかったから……それで自分から噂流したんですよ。まぁ、半分は本当のことですし」

「半分?」


 ほへー。上司から娘を――とかって、ようはお見合いみたいなもんだよね。エリートになるとそういう漫画みたいなことが本当に起きるのかー。

 なんてぽけーっとしていると、橋元くんは今日一番熱く宣言した。


「俺の嫁は、レイチェルたんに決まってるじゃないすかっ‼」


 なーるーほーどーっ‼ 

 私がまた手を差し出せば、橋元くんが力強く握り返してくる。やはり、我らは同志だ。


「私の旦那は、今はミハエル様かな。『まほうの騎士さま』の」

「あ、ルシファーから浮気したんですか?」

「ふっ。私ほどになれば、多夫一妻制なんて余裕よ」

「ははっ、いいっすね~」


 水槽のお魚さんが泳ぐが如く、我らがゆるく談笑をしていると、急に橋元くんが真面目な顔をした。


「……花子さんを見込んで、お願いがあるんですが」


 だから、急にやめーや。きみイケメンなんだから。そんな真剣に見つめられたら、おねーさん心臓がばっくばっくですわよ。しょせん防御力は永遠のレベル一なんだからっ!


「一日だけ、俺の恋人のふりをしてくれませんか⁉」

「……はい?」




「――で、それを引き受けてきたと」

「どどどどどおおおおしよおおおおおおし死神くうううううううううんっ!」


 家に帰り、お茶漬けの用意して待っていてくれ死神くんに開口一番泣きつけば、死神くんはそっぽを向く。


「知りませんて。嫌なら断れば良かったでしょ」

「だだだだ、だって、あんな真剣に頼まれたらさ、年上のお姉さん的にはひと肌脱いであげないと可哀想かなーとか思っちゃってええええええええ」


 どうも橋元くん。例の支店長とやらから『ぜひ婚約者に会わせてほしい』と言われているようで。その婚約者のフリを、私にしてほしいという。

 いやー、下手にオシャレしていったのが悪かったみたい。俺と同じ『表ではきちんと出来る人』と見られてしまったらしい。ごめんね、橋元くん。花子、表も裏もヲタクな陰キャが本性なんすよ……。

 しょせん派遣風情の喪女が無理! と断ったら、橋元くんに「どーしても!」とテーブルに手を付かれてしまい……そのまま首を縦に振ってしまった次第でございます。


 津田さん、今ならわかるよ。あのポーズからの一生のお願い、断れない。


 淡々とお茶碗にご飯をよそる死神くんが言う。


「でも一日だけ婚約者のフリして、その後はどうするつもりなんですか? 立場が違うとはいえ、同じ職場なんですから。一日では済まないんじゃないですか?」


 そのごもっともな指摘は、すでに橋元くんが解決済みだった。

 私はもじもじと細い声で答える。


「……名前さえ伏せておけば、わかんないって」

「え?」

「だから、普段の私と化粧した私は同一人物のように見えないから、めったに私と顔を合わせない支店長なら誤魔化しきれるって!」


 いやぁ、それほどまでに、津田さんのメイク術は凄かった。お店のトイレの鏡で初めて自分の顔を見たけど……まつげが増えまくってた。目の大きさも二倍になってたな。短いスカートだから、嫌でも足回りの動きには気をつけるし。私もちゃんと『女の子』になれるんだなーとちょっぴり嬉しかったりしたから、思わず引き受けちゃったというのもあるんだけど……。


 死神くんはご飯の上に桃色の何かを乗せながら、私の顔を見る。


「……そのこと、津田さんには報告しましたか?」

「いや? 進捗報告を求める連絡はたくさん来ているけど……めんどくさいからまだ開いてない」


 お礼も週明け会ったらでいいかなー、なんて思っていると、死神くんがニヤリと笑った。


「その時の変装、僕が担当してもいいですよね?」

「へ?」

「だって、目的は橋元が今後もお見合い含め、女に言い寄られないことが重要なんでしょう? だったら……今の花子氏もそれなりに可愛いですが、もっと他の女が相容れない、敵わないと思うような女性に花子氏を仕立てないといけないんですよね?」

「で、できるの……?」


 私は生唾を呑み込む。わ、私だって、これでも女ですから? より綺麗になれると言われて、嫌な気はしない。むしろ胸が高鳴っちゃうくらい。


「死神とはいえ、これでも神の端くれですよ?」


 その自信満々の笑みは、もう三次元ではなく二次元の美しさ。


 ひとまずどーぞ、と差し出してくるイカの塩辛茶漬けの匂いと相まって、わたしゃもうメロメロだ。ちなみに、私はイカの塩辛なんて買っておいた覚えはない。

 私は有り難くお茶漬けをずるずる食べながら世間話をする。


「死神くんって、お魚好きだよね」

「そうですね。海鮮料理は生前から好きでした」

「見るのも好きなの?」


 今日のお店、水族館みたいでさー。そう話すと、死神くんが目を伏せる。橋元くんのまつげほど主張はしないけど、死神くんの長いまつげはもっと繊細で、透けているようだった。


「……そうでしたね。ま、溺死(仮)したくらいですから」


 そういえば、死神くんの本名(?)は溺死(仮)=露喰薔薇だったな。

 思い返してもとんでもねー名前だけど……その時の死神くんの笑みは、そんな名前を自分で付けたとは思えないほど、儚く切ないものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ