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【完結】団地の花子さんと死にたい死神くんの人生実況解説動画  作者: ゆいレギナ
第二回 訳ありエリートイケメン君

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16話「と、ともだち?」


 そして、橋元くんとの邂逅はすんなりと週末の土曜日に決まった。時間は夜。場所は電車を一本乗り換えた所。埼玉だと思っている人も多い、れっきとした東京の代表とされる繁華街だ。『橋元で予約してありますから』とメッセージにお店のアドレスが添付されてきたから、少し迷いながらも頑張っていかねば――と、その前に。


「ふむ……」


 私は津田さん家のワンルームにお邪魔していた。動画で見た通りのデデニー満載のメルヘンなお部屋だ。

 人の家の鏡の前で、ワンピースに着替えさせられた自分を見る。膝の出ている淡いピンクのシフォンのスカート。オフホワイトの丸い襟のシャツ。それらが一体になっているThe〇〇女子的なワンピース。

 そんな可愛い服を着て白目で固まる私。

 対して、ゆるふわニットワンピース姿でいつもよりも化粧気の薄い津田さんが一言。


「ま、多少は見れるようになったんじゃないかな」


 ◆


 なんでこんなことになったかと言うと――


『ねーねー、花子ちゃん』


 お昼休みに待ち伏せされて、強制的に公園ランチに同席してきた津田さんに、根掘り葉掘り。だとだとしく話した結果、『それじゃあ仕事後、洋服買いに行こうよ! どうせろくな服持ってないんでしょ?』と失礼千万なことを言ってきた彼女に、正直に『そんな金はない』と吐露した私が悪かった。

『それなら、私の服を貸してあげようか?』


 ◆


 回想おわり。

 …………いや、男の人と会う服なんて持ってなかったから、有り難かったんだけどね。実際津田さんの家も、今日も目的地の乗り換え地点だったから手間もないし。それに言われなかったら、普通にジーパンに大学生の時から着ているセーターと仕事用コートで行こうと思ってたよ。実際津田さん家に着いて、津田さんに『やっぱないわ~』と大笑いされた。

 でもこないだよりはマシらしい。こないだってあのおにぎりアタック事件の――と考えるのは止めた。まぁ……あれがいつもと思われたら、そりゃ心配されるのも無理ないな。


 動画で見ていた他人の家に入るのは、けっこうドキドキだった。どんな反応したらいいか、わからなかったんだもん。でも、本当に見る津田さんの家は映像で見るよりもメルヘンすぎて……『可愛いね』『でしょー』だけで終わった。うん、さすがの私も『ぬいぐるみが多すぎてSAN値減りそう』と言っちゃいけないのはわかるよ。伊達に二十四年生きてない。


 ともあれ、無事に洋服を借りれたので用は終わりだ。


「それじゃあ、クリーニング出して来週にでも返すね」


 と、撤退しようとした時である。津田さんが私の肩をガシッて掴んだ。


「何? すっぴんのままデートに行く気なの?」


 ……津田さん津田さん。笑顔が怖い☆

 橋元くんとの待ち合わせ時間も伝えてある。現地に夜の七時。時計のリーダーマウスが指差すには夕方の五時。ここから待ち合わせ場所まで三十分も掛からないので、まだまだ時間の余裕はあります。

 ということで、津田さんは私の顔に色々塗りたくる前に……コットンに何かを湿らせて、顔を拭い始めました。


「まったく……何にもしてないくせに、肌だけは綺麗よねぇ」

「あ、ありがとう?」

「しかも最近ますます肌ツヤ良くない? 実はエステとか通ってるの?」


 うーん……心当たりがあると言えば、食生活が改善されたことでしょうか? 最近、家に死神くんが住んでいるんですよ。動画協力させられる代わりに、毎日おいしいご飯を提供してくれているんだけど……なんて、話せるわけもなく。


「よく、寝ているかも?」

「……うん。あんたに聞いたわたしが悪かった」


 ちょっとー。訊いてきたのは津田さんじゃんかー。

 だけどそんな文句を言う暇もなく、津田さんは私の顔に肌色のモノを塗りたくり始めた。素手で伸ばされる感覚がムズムズする。身震いしていると、津田さんが額を叩いてきた。


「ほら、動くな」

「ごめん」

「喋るな。ヨレる」


 理不尽な。薄ら目を開ければ、私に化粧する津田さんの顔は、とても真剣。

 だから……作業の合間を見て、訊いてみる。


「なんで、ここまでしてくれるの?」


 ――だって、ついこないだまで私をイジメてたのに。

 しかも、橋元くんが津田さんも『いいな』と思っていた男の人のはずなのだ。婚約破棄したばかりの津田さんが、むしろ狙っていてもいい相手。


 すると、津田さんの手が一瞬止まる。「罪滅ぼしで」とか「むしろあんたをダシに近づこうと思って」とか、言うと思ってたのに。

 津田さんは言った。


「と、友達が幸せになったら、わたしも嬉しいでしょっ!」


 吐き捨てるように言った津田さんが、私の顔をギュッと押さえる。どうやらこれから眉を描くようで「絶対に動くな」と厳命された。


 だけど、私はまた薄っすらと目を開く。

 いつもより化粧の薄い津田さんの顔が、耳まで真っ赤に染まっていた。




 しかし、駅まで見送ってくれた津田さんはやっぱり津田さんだった。


「いい、花子ちゃん。あとは全部相手に任せればいいからね? 無事に孕めば花子ちゃんの勝ち。彼ならきっと、転職してもいい稼ぎ持って帰ってくると思うから。略奪がんば!」


 おいこら遊び疲れて眠る子供を抱っこするお母さんとすれ違う駅の改札で言うことじゃないそれっ!


 そんなこんなで、日も暮れた電車でガタゴト揺られていると、あっという間に繁華街だ。

 私は少々緊張していた。一応、地元から一番近い繁華街がここになるから、昔から土地勘はある。だけど、普段利用するのは南側で。西口とかめったに来ない。それと着慣れない服と靴と鞄と顔のせい。もう何から何まで、全部貸してくれた。最後の捨て台詞さえなければ、本当に感謝しかないんだけどなぁ……。さすが津田さんだよ、もう。

 でも、意識しちゃダメ。だってこれは、ただのオフ会なんだから。橋元くんの名誉のためにも、それは言えなかったけど……大丈夫。私は変な勘違いしてないよ。まぁ、勘違いしちゃった津田さんも今回ばかりは仕方ないのかもしれない。相手は婚約者持ちだもの。それでもなお応援してくれる津田さんはいい人……なのかどうかまでは知らない。


 私は看板とお店の名前を確認して、ビルの階段を下りる。地下一階にある個室居酒屋さんらしい。こないだ津田さんと行った会社近くの居酒屋と違い、めっちゃオシャレだ。壁いっぱいのおっきい水槽にはお魚スイスイ! 床も水の上みたいで光ってる。受付のお兄さんに「橋元で予約してあるはずなんですけど……」と言えば、「どうぞこちらへ」と優雅に案内されて。黒の仕切り扉の先には、私服のイケメンが待っていた。ただ、私を見て目を白黒させている。


「みたらい……はなこさん、ですよね?」

「あ、そうです。御手洗です」


 えぇ⁉ ほんとにお前来たのかよってやつ? でもな、メッセージのやり取りはなんやかんや津田さんにも全部見せているし、読み違えとか空気読めないとかはないと思うんだけどな……。

 背中で嫌な汗をダラダラさせていると、橋元くんがふにゃっと笑う。


「すみません。いつもより綺麗だったから、びっくりしちゃって。どうぞ座ってください」


 すげー! なんやかんや気恥ずかしくて、化粧後の自分の顔を見てないんだけど……津田さんの技術、すげー!

 それに……店内のライトはそんな明るくないのに、彼の笑顔が眩しいぜ。よく見たらえくぼがあるんだね。お休みまで髪型セットご苦労様です。そのチェックのシャツはなんですか。チェックのシャツといったらヲタク男子のトレードマークのはずなのに、なんでこんなにイケメンなんだろう。謎。世界の謎。

 そんなイケメン橋元雄大くんは、私は「ども」と対面に座るやいなや、


「花子さんはお酒好きですか?」


 と、メニューを私に向けて見せてくれる。だけど、私はメニューを見ているフリして、再び汗ダラダラだった。え、今、こいつなんて言った?


「花子さん?」


 固まる私に、橋元くんが身を乗り出してくる。私は慌てて後ずさった。背もたれが低くて、壁に頭をゴツンする。いたひ。


「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫れす……びっくりしちゃって」

「びっくり?」


 頭を押さえながら回らない口で、私は懸命に応じた。


「下の名前で呼ばれること、ないから……」


 まぁ、津田さんは知らないうちに『花子ちゃん』呼びだし、死神くんも『花子氏』だったりするけれど。でも職場ではみんな当たり前に『御手洗さん』だ。

 すると、橋元くんは綺麗な形の眉を寄せる。


「津田さんから苗字で呼ばれるのが好きじゃないって聞いてたんですけど……ダメでしたか?」


 津田あああああああああああああああっ!

 確かにこの苗字好きじゃないけど! 正直言えば名前も好きじゃないけど! だから「なんて呼べばいいですか?」なんて聞かれたら困るのは私なんだけど⁉


 色々と諦めた私は、今日絶対やらなくちゃならないことを終わらせることにした。

 鞄の中から、羽のチャームが付いたストラップを取り出す。


「これ、橋元さんのですよね?」

「あっ!」


 私が黒いテーブルに置いたそれを、橋元くんはバッと奪い取るように抱える。ぱっちりとした目を懸命にまばたきする姿を見ると、やっぱりあのおデブくんだった頃と一緒で、まつげが長いんだなぁと見て取れた。

 だから……頑張れ、私。彼の素性を承知の勝ち戦だ。今こそ勇気を出す時だ。


「私……ルシファー推しです」

「あ……」

「三ヶ月前のルシファーとレイチェルのハロウィンイベ、最高でしたよね……?」


 私がおずおず手を差し出すと……橋元くんが無言でガシッと掴んできた。その熱い瞳を見て、確信する。


 やはり、私たちは同志だったのだ。


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