花連さんの英語指導②
「はーい。はうわうゆー?」
今日の放課後も花連さんは僕の部屋に来るなりそう言った。
「それ始めの儀式みたいな感じなんですね」
「うんそう」
その儀式の後にめっちゃ高度に英語教えてくれるのがびびる。
「じゃあ今日は物語系長文です!」
「も、物語……日本語の物語文読解も苦手なんですが……」
「大丈夫大丈夫。まずはお話を読んでいく感じで」
「はい」
二十分後。
「大丈夫? お話の中入り込めてる?」
「いや、入り込めてませんね」
「もーなんで? 私パンツ見えてたりするの?」
「そんなことはないんですが、なんか別のこと考えそうになっちゃって」
「えー、なんでよ。そういう時は気分転換しかないわね。なんかおしゃべりしよう」
「あはい。おしゃべりですね」
「そう」
花連さんはうんうんうーんと、うなずきつつ考えて、
「あ、そうだ。私がアメリカに行く前、恒成くんと付き合う寸前になってた子はどうしたの? ちっちゃい頃から仲良かったさー、確か……万理奈ちゃんっていう人!」
「あ、万理奈なら今同じ高校です」
「おお。付き合ってるの?」
「うーんと、微妙ですね。お互い好きだということはわかったんですけど……まだ幼馴染の関係を保っています」
「進んでないよお。それあんま進んでないよお」
そう言った後、花連さんは少し大人びた微笑みを見せて、付け加えた。
「そうだ。もっと大きな気分転換として、万理奈ちゃんとデートにでも行ってきたら?」
「まじですか」
「そーだよ」
「え、でも、万理奈最近部活と勉強で忙しいんですよ。家庭教師もつけてるし」
「家庭教師つけてるの? その人男の人?」
「男ですね、めっちゃかっこいいですね」
「ははーん。やっぱ、改めて大きな気分転換に万理奈ちゃんとのデートをおすすめしとくわ」
花連さんはそういうけどなあ。
そんなのいきなり誘えるわけもないし。
うーん。
僕は悩みながら思った。
今頃万理奈はどうしてるかなあ。
僕は想像した。
すごく楽しそうに家庭教師と勉強してそうだよな。
映像が簡単に浮かぶよ。うん。