万理奈が話しかけてきた
次の日。僕は朝から学校で真剣だった。
英語だけではなくて、理科と数学と国語もさらに伸ばそうと考えているから、授業を真面目に聞こうと意気込んでいるのである。
模試は一ヶ月弱後。英語は一朝一夕で上がるものではないとは知っているから、とにかく今回の目標は、万理奈に僕の成長したところを見てもらうことだ。
でもなあ。
そもそも万理奈はどうして家庭教師なんて雇ったんだろう?
勉強にやる気があるタイプではないのに。
やはり、家庭教師のことが好きなのだろうか。
「おはよ、恒成」
「あ、おはよう万理奈」
考えていたら、隣で万理奈が机によりかかっていた。
「最近勉強してる?」
万理奈がそんなことを聞いてきた。まじでやっぱ勉強に対する意識が高くなってんな。
僕はそう思いながら答えた。
「してる。特に英語に力入れて勉強する予定」
「英語? 恒成英語嫌いだったじゃん。何があったの?」
万理奈がすごく驚くとともに、少しにやにやしているので、向かいのアメリカ帰りの大学生に英語を教えてもらえることになったことを説明した。
「へー、よかったじゃん。あ、それでさ、その人って……」
「ああ、花連さんだよ。って言っても名前までは覚えてないかな万理奈は。でも一緒に遊んでもらったでしょ昔」
万理奈の家は近所だけど、僕の家の裏の通りにあたるので、向かいの花連さんと万理奈はそこまで接点がないのかなと思う。
でも顔は知ってるはずだ。
「うんうんおぼえてるよ。かなり美人で……」
「まあそうだな」
僕は肯定した。
と、その時予鈴が鳴った。
人が移動することによる雑音が、教室の隅々まで響く。
「あ、じゃ、恒成勉強がんばってね」
「おお、万理奈も頑張ってな」
万理奈は自分の席に向かい、僕は意識高く、授業の準備を始めた。