向かいの花連さん
僕は家に一人で帰りながら考えた。
もし、僕の成績が圧倒的に良くなり、万理奈に勉強を教えられるくらいになったら。
きっと万理奈は、家庭教師なんて雇わなくても良くなる。
それでもまだ家庭教師イケメン男子大学生と一緒にいたいのなら、それは相当その人が好きってことだ。
そしたらしょうがない。
って思えるかなあ……。
ていうかこういうこと考えてるってことは、僕相当万理奈のこと好きなんだな。
家の前まで来ると、いつもと違ってなんだかまぶしいのに気がついた。
光の方向を見ると、夕日を反射している、きらびやかな高級車が向かいの家の車庫にあった。
あれ? 前は車庫空だったような……?
「ひさしぶりいー!」
え?
車からちょうど出てきた人が。
金色に染めた髪が圧倒的に揃っていて長く、それが夕陽を反射してまばゆすぎる。
それでも頑張って顔を見ると……
「花連さん!」
「そうです私は花連! アメリカからただいま帰国しました!」
おお!
確かアメリカの大学に留学に行っていたはずだ。
一年半ぶりくらいだろうか。
「お久しぶりです」
「いやほんと久しぶり〜。やっぱ、ここが一番心からのんびりできるね。私の生まれ育った場所」
花連さんは嬉しそうに夕日に照らされた周囲の景色を眺めた。
「あ、ていうか私より背高くなってるじゃん!」
「あ、確かにそうですね」
僕は高二の平均身長より低めの168センチだ。
それでも、一年半前は160センチくらいだったので、花連さんの背丈を追い越したことになる。
「すごい。そうか、もう高二か。勉強ちゃんとしてる?」
「してます、一応。英語だけ成績悪いんですけど……」
そう。僕の成績には偏りがある。全体としてはそこそこいい方。
けど内訳を見れば、理科で稼いで、英語で足を引っ張り、それらが相殺し合っている。あとは残りの数学とかがそこそこなので成績はそこそこなわけだ。
「え、英語が苦手なの? それ、超ラッキーじゃん」
「え、なんでですか?」
「だって私教えられるよ英語」
確かに……。目の前にいる人は、超英強だ。
「ねえ。私暇だからほんと教えてあげる。つまりはタダの家庭教師!」
「え? いいんですか……?」
「うん。でもその代わり……お掃除手伝って欲しい……」
「お掃除?」
「そう! ゴミ屋敷みたいなまま放置してアメリカ行って帰ってきたら凄いことになってて……なんか変な茶色くて平べったい虫がいるの」
「それゴキブリですね」
「はー、ゴキブリって言うのね。アメリカにはいないから知らなかった……て言うのは嘘で知ってるんだけど。もしかしたら新種の絶滅危惧種かもしれないし!」
「新種の絶滅危惧種ってあり得るんですかね……」
というか大学生で一人でこんな一戸建てに住んでて、高級車に乗ってるんだから、なんかお金払って業者に頼めばいいんじゃないかと思うんだけど。
でも、英語教えてくれるっていうし、掃除は僕が引き受けようかな。
だって、英語を伸ばしたいと、過去一強く思っている。
万理奈に勉強を教えるくらいになるためには、苦手教科は潰さないとならないのだ。
お読みいただきありがとうございます。
この話は3月5日に完結予定です。
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