デートではなくカレーが食べたいだけです
「エグレット様、今度新しい料理店が開くそうですよ」
私の筋肉痛もすっかり治ったある日、アズマが教えてくれた。
「そうなの? どんなお店?」
「カレー料理店と聞きました。チャパティーという平たいパンのようなものにつけて食べるみたいですよ」
カレー。カレーという事はインド系?
でもチャパティーって何だろう、ナンじゃないのかな。
「それで、その、エグレット様さえよければ今度一緒に行きませんか?」
「勿論よ、開店初日は大変そうだから少しズラす事にして……いつ行こうかしら」
私はカレーライスしか食べた事ないからチャパティーってすごい興味ある。あとそのお店ってカレーのトッピングは出来るのかな、納豆は無理でもチーズとか卵ぐらいならあるよね。
「あ、皆の予定も聞かないと。全員となると合わせるのは大変でしょう?」
「言われてみればそうですね、ビオロ様達はいつが空いていますか?」
「は?」
え、何その意外そうな顔。ビオロ様のそんな顔初めて見た……って何でエイロン様とコルセイユさんも似たような顔をしているの?
「……デートの邪魔をするつもりはありませんので二人で楽しんで来てはどうですか?」
でーと? デート!?
「デっ……!? あ、いや、違っ、そんなつもりでは……!」
「ち、違うのね? 違うのよね!? なら何の問題もありません! というわけでコルセイユさんとエイロン様のご予定はどうですか!?」
「あ、私もちょっと……」
「その話聞いて一緒に行けるわけないだろ。二人で行ってこいよ」
何か皆急に空気を読んだように断られてしまった……。
それまで普通だったアズマは顔を真っ赤にして何も話さなくなったし、私もなんか急に顔が熱くなって何を話していいのか分からなくなって、そうこうしている内に皆どっか行っちゃうし。
どうしたらいいの? え、このまま気まずい感じで行かないまま終わっちゃうの?
「ねえねえ! 皆っ、てあれ? アズマとエグレットだけ? 他の皆は?」
天の使いが! 降臨された!!
「フィンク様! 今度新しい料理店が開くそうなのですが是非一緒に行きませんか!?」
「え、本当!? 僕も丁度誘いに来たんだ!」
よっし! これで何とか二人きりは回避出来た!
……別に嫌じゃないのよ? 勿論アズマが嫌いなわけでもない。
ただ……そう! 食事は多人数の方が楽しくて話も盛り上がるから! それだけ!
「あれ、でもアズマとエグレット二人だけで行くの? デートの邪魔になっちゃう……」
「「デートじゃないので大丈夫です!」」
アズマと被った。でもこれは決してデートじゃない。
だからフィンク様お願い断らないで。
「そうなの? じゃあ今度の休みに行こうね」
「はい!」
にしても、さっきまで普通だったのにアズマと二人きりで行くと思ったら何でこんなに緊張したんだろう……。
「まあいいか……それより服は何を着て行けばいいのかしら。髪型も、いつもと違う感じにした方がいいよね」
断じてデートじゃない。ただ最低限の身嗜みは整えておかないと。
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そんなわけで学園が休みの今日、アズマとフィンク様と私の三人で目的のお店に向かっている途中。
「おや、エグレット様にアズマ様、それにフィンク様ではありませんか」
「あ、ジェロームさん!」
偶然ジェロームさんに会って、そして休日だから当然理事長もいて。あ、こっち見ても無表情にならない。
「何処かにお出かけですか?」
「今から新しく開いたっていう料理店に行くの!」
「偶然ですね。わたくし達も今からその料理店へ向かうところなのでございます」
おっと? この流れはもしや……。
「もし宜しければ一緒の席で食べませんか? 食事は大勢の方が楽しいですから」
「いいの!? あ、アズマとエグレットは!?」
「ジェロームさんと理事長がいいのでしたら是非」
「わ、私も同じ思いです!」
思うんだけど、この状況で断れる人っているの? いるとしてどうやって断るんだろう。
あ、理事長なら関係なしできっぱり断りそう。
でも今回はジェロームさんから誘ってくれたから絶対断らない。これだけは自信を持って言える。
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「偶然とは素晴らしいものでございますね。おかげでこうして皆様と楽しい時間が過ごせるのですから」
「兄さん、メニュー開くのちょっと待って。コップが倒れる」
うん、やっぱり理事長は断らなかった。あと意外と世話焼きなんですね、それともジェロームさんがうっかり屋さんなだけ?
「エグレット様は何を頼まれますか?」
アズマが私にメニューを見せてくれた。
うーん、他の人がいると普通に話せるし一緒にメニューを見ても何ともない。
っと、それよりまず何を頼もう。
カレー専門店ってだけあって色んな種類のカレーがある。
ビーフカレーやチキンカレーといったよくあるのからキーマカレー、ムルグマッカーニ、ダール・タドカ。
……。
後半全然分かんない。あとトッピングはなかった。
「私はこのチキンカレーにするわ」
「それなら俺はビーフカレーにします。フィンク様はどれにしますか?」
「僕はキッズランチにするよ」
キッズランチ? あ、そっかフィンク様は普通のメニューだと多すぎて食べきれないのか。
「キッズランチはどんな内容なんですか?」
「えっとね。ポーク、チキン、ビーフの三種類の甘口カレーから選べて、普通よりも小さいサラダとデザートもつくの。お得だね」
確かに。
「ウィリアムは決まりましたか?」
「この中ならダール・ダトカだな」
「という事はあとはわたくしだけですか……ですがどのメニューもサイズ変更出来ないみたいなので困りましたね」
「ジェロームさんも少食なのですか?」
私も思った。でもジェロームさんはこの国出身だからフィンク様のような食生活じゃないよね?
「恥ずかしながら一人前と決められた量を食べ切る事が出来なくて……いつもあと少しが食べきれないのでございます。バイキングなどでしたらしっかり食べられるのですが……」
ああ、パック寿司一人前は食べきれないけど回転寿司なら無限に食べられるタイプの人なのか。
「ジェロームさんもキッズランチにする?」
「流石にわたくしの歳でキッズランチは頼めませんね。申し訳ありませんが食べ切れない分はウィリアムにお願いするとしましょうか」
「…………」
あれ、なんか理事長の顔が悲しそうな辛そうな……何でだろう。
「あの、ジェロームさん。それでしたらこちらのレディースセットはどうですか? キッズランチより量はありますがこちらも少な目ですし、サラダとデザートもありますよ」
「確かにこれなら食べきれそうですが、男性のわたくしが頼んでよいものなのでしょうか」
「大丈夫ですよ、私がレディースセットを頼みますのでジェロームさんはチキンカレーを頼んでください。それで交換すれば何の問題もありません」
「それは良い案でございますね。ありがとうございますエグレット様」
ジェロームさんにお礼を言われて、何だかいい事したみたい。
皆の注文が決まって店員に頼んだらすぐに持ってきてくれた。そのまま私の前に置かれたレディースセットをジェロームさんのチキンカレーと交換して、理事長が頼んだダール・ダトカを軽く見てみたけど普通のカレーとあんまり変わらないような?
「……何か?」
「あっ、すみません! ダール・ダトカがどういうものなのか気になったのでつい!」
「僕も気になってた! 何のカレーですか?」
こういう時のフィンク様はものすごく頼もしい。
「豆のカレーですよ。……気になるのでしたら一口どうぞ」
「いいの!? ありがとうございます!」
一口といいつつ理事長は小さな器に入れてフィンク様に渡していた。
「エグレット様とアズマも。気になっていたようですし」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
理事長が優しい。しかも器には割と多めに豆が入ってる。
え、本当に優しい。
ジェロームさんがいるから? の割には何か慣れているというか自然な感じがする……実は普通に優しい人? ジェロームさんも理事長の事優しいって言っていたし今なら信じられそう。
この後は普通に食事をして、初めてのチャパティーに(ナンを更に薄く焼いた感じでこれだけでも美味しかった)私とアズマが苦戦していたら理事長が分かりやすく丁寧に教えてくれて、とにかく楽しい時間を過ごせた。
でもジェロームさん、サラダは完食していたけどカレーは残り少しが食べきれなくて理事長に食べてもらっていて、デザートも一口食べて残りは全部渡していた。
……カレーはともかく、デザートは譲った?
オマケ
幼き頃のシモン兄弟
ジェローム「ウィリアム、わたくしもうお腹が一杯で食べ切れないので残りをお願いしてもよろしいですか?」
ウィリアム「兄さん……俺の事は気にしなくていいからもっと食べて」
ジェローム「何の事でしょうか?」
ウィリアム「だっていつも少し食べて残りは俺にくれるじゃないか……俺だって兄さんにたくさん食べてほしい……」
ジェローム「本当にお腹が一杯なのです、だからわたくしは十分たくさん食べていますよ。ほら、残してしまっては勿体ないので全て食べてくださいまし」
ウィリアム「う、うん……」
ジェロームが細い理由
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以下没ネタ集
エグレット「何で学園に着ぐるみの人達が……? え、何か猛スピードで茶色い狐の着ぐるみが走ってきてる……」
全力疾走している着ぐるみ「走りー出そうぜー! 未来はーフライアウェイフライアウェイ♪ 思いのーままにーランナウェイランナウェイ♪ 全てはーフリーダムフリーダム♪」
ウィリアム「お前絶対ギーメイだろ!! 声変えても分かるんだよ!!」
エグレット「り、理事長……というか着ぐるみで全力疾走だけでも大変なのに更に大声で歌っているギーメイさんの体力……」
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ウィリアムとジルベール①
ジルベール「そういえばこの間ギーメイ様からお前にボール当てられたって聞いたけど、よく持ってたな」
ウィリアム「いつギーメイを見つけても投げられるように硬球は常に二発持つようにしている」
ジルベール「へー。……ん?」
ウィリアム「どうした」
ジルベール「いや、何でもない(今『発』って言った? え、お前の中じゃボールは一個じゃなくて一発と数えるもんなの? 『球』じゃなくて『弾』扱い? それでいいのか元体育教師)」
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ジルベールとウィリアム②
ジルベール「はあ……」
ウィリアム「またフラれたのか?」
ジルベール「……。フラれた悲しみよりも、またかって感じで慣れてきた事の方が悲しい。それより何が辛いって、近所の主婦が恋人出来たの? とか結婚はしないのかい? って純粋に聞いてくる事。正直貴族のやっかみより傷つく、そういうなら娘さん紹介してよって思う」
ウィリアム「それを言ったらどうだ」
ジルベール「もう言った。身分が違いすぎるから無理だよって笑い飛ばされたけど、私も平民。貴族はゴミ出ししないでしょ。これ朝のゴミ出し時の会話、フラれた翌日の朝にコレ、致命傷受けてそのまま仕事に行かなきゃいけない辛さを誰か分かってほしい」
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ウィリアム、ギーメイ、ジルベールに不満を抱く貴族や他学園の理事長達。言い回しなどなどは違うが言いたい事をまとめると
『お前ら低学歴、無学な平民のくせに調子乗ってんじゃねえよ』
それに対する三人の反論は言い回しなどは違うがまとめると
『うるせえ、文句があるならお前がこっち以上に勉学積み重ねて乗り越えればいいだけの話だろうが』




